第8話「木里 翔太郎その2」

 Side 木里 翔太郎


 =夜・イスズ高校・監督官の部屋=


 夜も更け、俺達は監督官の霧島 マリナさんの部屋に向かった。

 部屋では監督官が真剣な面持ちでテーブルに座っている。 


「まず最初にご苦労だった」


「いえ、自分に出来る事をしたまでですよ」 


「いや、それでもありがたいと思っている」


「そうですか……」


「出来ればこのまま残って欲しいと言うのが本音だが」


「難しいですね」


 一つの高校に肩入れ出来ない。

 全ての同じ境遇の生徒は救えないと言うのが現実だ。


 ヴァイスハイト帝国は様々な国に宣戦布告している。

 ソ連、ユーロ連、極東アジア連と戦争しながら日本とも戦争していた。

 地球を武力で統一して惑星国家にでもなるつもりなのだろうか。

 

 今の問題はそこではない。


「日本の帝国も動きが活発化しています。もうそろそろ大規模侵攻が来るでしょう」


「やはりそうなるか――」


「そして自分達学生を囮にして本体を叩くつもりなのでしょう、上は」


 それを聞いて監督官は苦々しげな表情になった。

 

 無理もない。


 イスズ高校の人間は確実に死人が出ますと言っているような物だから。


 最悪俺だって死ぬかもしれない。

 

「我々は無力だ。いっそ悪魔に魂を売り渡せたらどれだけ楽な事か……」


「心中ご察しします」


「君もそうだ。いっそ我々を罵ってくれた方がどれだけ楽な事か」


「現状を嘆いて状況が良くなるのなら幾らでもしますがね……もうそう言う状況じゃないんですよ」


 霧島監督官は黙り込んだ。

 暫くの静寂。

 そして―― 


「思えば、戦争が始まっている事をこの国が気付くのが遅すぎたんだろうな」


「……」


「産まれてから戦争が始まる前まで、私はこの国の体たらくを見てきた。一部の特権階級のための政治、それに黙って従う国民――そのツケはヴァイスハイト帝国との開戦で支払う事になった」


 そこで一旦言葉を区切りこう続ける。


「大勢死んだ。自衛官も国民も大勢。とにかく勇敢な人間から死んでいった。真っ先に死ぬべき連中はさらに未来ある子供たちに死んでほしいと来た」


「手毬も同じような事を言ってました」


 手毬 サエ。

 クールで大人びていて、子供みたいな体系を気にしていて、子供っぽいところがあって、そして俺の大切な人。


「霧島監督官。俺は生き続けます。相手を倒すためでもなく、この国のためでもなく、愛する人のために生き抜いてみせます」


「木里君……」


「霧島監督官。こんな世の中で希望を持ち続けるのは困難な事なのは分かっています。ですが希望がなければ人は生きてはいけないんです。希望を持って前に進んで行かなければ、ただ生きているだけなんです」


 霧島監督官。両目を瞑り、涙を零す。


「強いな――君に会えて本当によかった」


 そして声を押し殺しながら泣きはじめた。

 俺は頭を下げてその場から立ち去った。

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