第1話「こんな状況下でも恋したい」

 Side 南雲 浩一


 =夕方・イスズ市・イスズ高校=


 戦後処理も終わり、イスズ高校に戻る俺たち。


 竹宮高校のエースたちも同じく帰路につく。


 どうやら竹宮高校の面々は補給物資をイスズ高校に届けに来てくれたようだ。


 戦いに参加してくれたのは、もののついで感覚らしい。


 それにしてもあんな強力なパワーローダーは何処で手に入れたのだろうか。


 出来れば自分も――


 などと思うが、ヒラの一般兵の自分には縁が無い話だ。


 身に纏えたとしてもスグに呆気なく死ぬ未来しか見えない。


「あの――大丈夫?」


 遠目から竹宮高校のチームを眺めているとふと声をかけてきた。

 自分と同じ一般兵で女性兵。

 薄めのピンクのボブカットの髪の毛で文学系な雰囲気の可愛らしい小柄で華奢な女の子だ。

 髪の毛で右目を隠れており、それが彼女の独特なミステリアスさを引き立てている。 


 名前は藤宮 キリノ。

 一緒に戦場に投入されるウチに何となく知り合った。

 

 別にこれは自分に限った話ではない。

 初陣のショック、度重なる実戦で本能的に異性を求めてしまう者が後を絶たないのだ。

 

 藤宮さんもその例に漏れなかったらしく、そして自分もその一人だった。


「今日は危なかったですね」


「ああ、死ぬかと思った」


「死なないでください。もしも死なれたら……」


「そうは言われても――」


 俺は漫画に出てくる主人公でも、ハリウッドのアクションヒーローでもない。

 一般兵Aでしかないのだ。


「お願いです。生きてください」


 軽く涙ぐんで言われた。

 これは反則だ。

 降伏するしかない。


「……本音を言うと、こんなこと投げ出して、何処か一緒に争いがない平和な遠くへ行きたいな」


「私も同じ気持ちです」 


「でも、できない――のは分かってるよな」


「はい」


 それが出来たらとっくの昔に学徒動員の皆さんは全員、脱走している。

 

「だから一緒に戦い続けよう」


「はい」


 そこで咳払いの音がする。


「二人きりの世界に割り込んでゴメンだけど、監督官が呼んでるわよ?」


 垢抜けた赤髪のツインテールの少女、姫乃木 リリが不満げに、そして恥ずかしそうに呼び出す。



 Side 藤宮 キリノ


 南雲君は監督官のところに向かい、私はリリと二人きりになる。


「まさか南雲のこと好きになるなんてね。世の中分からないわ」


「う、うん」


 リリが言うように私は南雲君の事が好きになってしまったみたい。

 

「人の価値って、こう言う危機的状況で出るって言うけど、良いんじゃないかしら」


「あの、ありがとう。てっきり反対されるかと」


「しないわよ。それにこんな状況だし。イケメンとかで騒がられてた奴は呆気なく死んじゃったり、本性が出て拘束されてどっか行ったり……だもんね」


 リリが言ってるのは本当だ。

 逆を言えば今残ってる男子は本当にいい男子なのだろう。

 

「パワーローダーへの兵科転換、してみたら? 私も考えてるの」


「う、うん」


 やはり戦場で人を守るには力が必要だ。

 パワーローダーへの兵科転換、考えておこう。

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