第十一話 対面
《足音を立ててはならない》
白色の大理石が隙間なく敷き詰められた空間に、人の呼吸以外の人為的な音は存在しない。ときおり外から鳥の囀りや風の音が聞こえてくるのみである。この静寂の支配を受けた空間を黒色の修行僧着を着た2人を前方に、白色の平服を着た2人が続く。
《足を地から離してはならない》
カトワフとラルーニの履いている靴は普段使いの物ではなかった。草で編まれたその場限りの消耗品。摺り足で歩くせいか、靴裏の厚さは分厚くなっている。神話の中でルムシュとザシュヤが出頭した神裁が草地に置かれいたことに由来する。肌触りは決して良いとは評せない。
《顔を上げてはならない》
しばらく歩くと2人は目的の場所へと到着した。しかし、彼らはそれを確認することはできない。白色大理石に彫り込まれた草花の紋様が見えるだけである。
《話始めてはならない》
カトワフは口を開かない。ラルーニも同様である。誰も、何も、言わない。いや、誰も、何も、言えないという表現が妥当であろう。ただ1人を除いて。
「ふむ…ハストックハリウからの…。遠路遥々御苦労であるな」
《尊敬せよ》
2人はその言葉とその主に平伏するしかない。その言葉にどれだけ力がなくとも。投げ捨てるかの様な物言いでも。そこに軽蔑の波長が含まれていても。何故と問われても、それは愚問である。
《汝の目前にあるはただ、真理の化身なり》
「お言葉一つ拝聴叶いましただけで、私の一生分以上の喜びにございます。まして、労われるなどと、長旅の苦など風の前のチリとかわりません」
カトワフの言葉は本心であった。この時までの彼には信仰心や尊敬の心があった。後に彼はこの時の自分を殴りたいと周囲に愚痴ることになる。何故なら、この時持っていた信仰心や尊敬はたった1人の人間に集中していたから。
「ふむ、当然であろうな…。朕が裁皇バャン3世である限り、朕の言は神裁のそれであるのだからな…」
この時より、ハストックハリウ連邦共和国の裁皇謁見が始まった。
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