杉本苑子さんの『檀林皇后私譜』を読み始めました。
杉本苑子さんは、鷲生が若い頃に好きだった歴史小説家様です。
こんど鷲生は平安ファンタジー小説を描こうとしているので、この方の作品を参考にしようと読み返すことにしました。
今読んでいるのは、平安時代のはじめ、まだ奈良時代の名残の強い時代が舞台です。
『檀林皇后私譜』、嵯峨天皇の皇后の橘嘉智子(檀林皇后)が主人公です(※1)。
平安時代も初期の初期。最近も歴史学から『謎の平安時代』というタイトルの本が出版されましたように(※2)、あまりよく知られていない時代だと思います。
平安時代の後期なら王朝文学に資料はあるかと思いますが、杉本苑子さんはこの『檀林皇后私譜』を書かれるとき、何を参考にされたのでしょう……。
史資料の乏しい中でも、さすが歴史小説の大家。家の中の家具とか、女性の衣裳や持ち物とか、(おそらく奈良時代の物をベースにされたのだと思いますが)とてもリアリティがあります。
それから人物表現!
後の嵯峨天皇となる神野王子のキャラが下記のように描写されています。
ひゃー! 緻密というかなんというか。すごいなあと感嘆しております。
今日は読書に時間が取れませんが、これから楽しみに読んでいこうと思います。
下記はその神野王子の人物評を抜き出したものです。
1998年、中央公論社『杉本苑子全集 第十巻』の57頁です。
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「どこまでも王子は寛容だった。影が、光の動きに従って動くに似て好むまま人に振舞わせ、その間隙を縫いながら目立たぬように、自身の主張を点綴していく控えめな社交を、
(これも、この人の性格の一面だったのか)
当初、かすかな嫌悪と驚きの入りまじった目で見ていた嘉智子も、今はそれを、したたかな擬態だと気づいている。
気弱なための譲歩ではなく、心が広いための許容でもない。目立つことの不利を本能的に計算し尽くして陰に回る訓練を自己に課しつづけた結果、それが第二の天性になって皮膚さながら、王子の言動にはりついてしまったのである。裏返せば、隠す心くばりが必要なほどに、実は強い、激しい気性の持ちぬしなのだということになる。
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※1 中央公論新社の『檀林皇后私譜』のサイトはこちら。
https://www.chuko.co.jp/bunko/1984/11/201168.html
※2 『謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年』
https://www.chuko.co.jp/ebook/2023/12/518729.html
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