【創作全般】『脱アイデンティティ』論と小説の書き方

 鷲生は年末年始に、社会学の本『脱アイデンティティ』という本を読みました(※1)。

 鷲生は大学に2回通っており(※2)、2回目の方でこういった分野を専攻していたので興味深かったです。


 とはいえ、大学で学んでいたのはウン十年も前のこと。

 今、小説を書こうとしている鷲生が、創作論的な観点からこの本を読んで感じたことを今回綴ってみようと思います。


 アイデンティティと近いもの……たとえば「キャラ」「性格」「パーソナリティ」「自己」「自我」というものは(これらの用語の学術的な違いはさておき)、もともと本人に備わっているものだとされています。

 つまり、社会生活を営む前、その外側に既にあるものだと考えられがちです。


 鷲生も少しは小説が上手くなりたいと思って、小説書き方指南本を手に取るのですが。

 複数の本が、キャラをしっかり掘り下げるように指導されています。

「ストーリーを作る前に」あるいは「ストーリーとキャラとどちらかといえば、キャラの方が大事」などとも書かれていました。

 ここでも、キャラと、キャラの営む社会生活(ストーリー)は別の物だとされています。

 複数の、それぞれプロの作家様がお書きになった本ですし、小説世界をどう作るかという問題なので、おっしゃっていることは正しいと思います。


 一方、鷲生が読んだ社会学の本『脱アイデンティティ』では、アイデンティティは社会的に構築されたものだとします


 それは、アイデンティティの中身が社会関係を通じて構築されるということと、「アイデンティティを持つこと」が近代社会になって強迫的に要求されるようになったことを意味します。


 前者の方は、俗にいう「氏か育ちか」という言葉に近いものです。

 キャラとか性格とか、後天的に他人と社会関係を経験する中で培われていきますよね。

 小説の中でも、キャラが成長して物語前と後とで何かが変わったりしますし(それがテーマだったりしますしね)。


 後者の方は、「アイデンティティ」という言葉を生み出したエリクソンという心理学者がそもそもわりと最近の人だというのもあります。

「アイデンティティの確立が大事」というのも、近代以前にあまりない考え方でした。


 この文脈で鷲生が思い出すのは、遠藤俶子さんの漫画「なつやすみ」で登場する河童ですw

 河童なので何か超常現象を起こせるのではないかと期待されるのですが、その河童くんは「できない」と答えます。

「じゃあ、河童の存在意義って何?」と問われて

「そんなものは俺が死んだ後に他人が考えりゃいいんだよ」と怒鳴り返しますw


 別にアイデンティティなんてものを持たなくたって面白おかしく生きていっていいはずですもんね。


 それから、人がアイデンティティを意識するのは、「お前は何者だ」と問われる場面からスタートします。


 そして、「ええと私ってどんな人だったっけ」と過去のエピソードから「事後的に」自分のアイデンティティ像を作り始めるのです。


 ええと。学術書である『脱アイデンティティ』の説明があまり上手くなくて申し訳ありませんが、ご興味のある方は是非この本をお読みになって下さいませ。


 小説を書く作業との関連で鷲生が思ったのは……。


 小説・物語を作成する「前に」キャラを設定する作業には限度があるのではないだろうかというものです。


 アイデンティティは他のキャラとのかかわりで変化し、そして具体的なエピソードから事後的に抽象されるものだからです。


 とはいえ。

 小説は現実ではないので、小説・物語以前にキャラ・性格などなどは既に形成されているのも事実です。

 そこは小説を書く前にある程度設定しておかなければならないと思います。

 小説指南本がおっしゃるとおりですね。


 ただ、キャラ・性格などなどは、具体的なエピソードを通じて立ち現れてくるのも一面の事実です。

 ですから、あまり抽象的なキャラの内面の描写……たとえば「明るい」「優しい」「気が強い」などなどの表現を精緻化させるよりも、ざっくり「だいたいこんな感じ」とだけ大まかに決めておいて、後は「そんなキャラが何をするか。どんな言葉をどんなシチュエーションで発するか」を想像をするプロセスも必要なのではないかと思います。


 その具体的なエピソードを考えていくうちに、事後的にそのキャラの輪郭がはっきりしていくのではないかと。


 鷲生も、「次にどんな小説書こうかな~」と考えている時って、そういう細かい具体的なエピソードや台詞を思いつくことが多いです。

 それをせっせとメモっているのです。


 今回『脱アイデンティティ』という本を読み、キャラを考える段階から「具体的なエピソード」をたくさん想像し、それを集めて管理することがキャラやストーリーを練るのに有効ではないかと思いました。


 というわけで。

 手元にあるノートやメモの走り書きをせっせとパソコンに入力しています。

 とはいえ、メモの走り書きの字が汚すぎて何考えてたのか分からないものもw

 思いついた時には面白いアイデアだと思ったはずなんですけどねw


 これからはもう少し綺麗な字で書こうと思います。


 もちろん資料本も読んでます。

『古代の東国②坂東の成立』にとりかかっておりますよ。


*****

※1 『脱アイデンティティ』2005 上野千鶴子編 勁草書房

https://www.keisoshobo.co.jp/book/b26479.html


※2 鷲生の2回の大学生活を織り交ぜた青春小説を書いております。

「改訂版 京都市左京区下鴨女子寮へようこそ!親が毒でも彼氏がクソでも仲間がいれば大丈夫!」

https://kakuyomu.jp/works/16816927860159349467





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