第12話 パーティー


 やる気が起きなくて一週間。


 寝て食ってまた寝るの繰り返し。

 スマホは充電が切れたままだ。


「食料がないな。買いに行くか」

 久しぶりに外に出ると少し肌寒いくらいになってきている。

 服も買わないとな。

 金はあるんだ、使わないとな。


「タクト」

「………」

「タクトごめんね」

「俺はそこまで大人じゃない」

「そうだよね」

 レイナは待っていたのだろう。

「そろそろです」

「またね」

 マネージャーに促されて車に乗って行くレイナ。


「はぁ、カッコ悪」

 かっこいい大人になりたいよ。


 俺は大通りを歩き、買い溜めして行く。

 服屋でジャケットを一枚買って、そのまままた帰る。

 スマホの充電をして、テレビをつける。

「なっ!」


 レイナの引退会見だった。


「せっかくそこまで行ったんだろ?」

 なんで辞めるんだよ。

 俺なんかどうでもいいだろう。

 スマホを取ってレイナにかける。

「はい!」

「なんで辞めるんだよ!」

「だってタクトと同じ場所にいたいから」

「いいだろ、俺は俺でレイナはレイナで」

「私はタクトが好きだからしょうがないんだ」

「…ダメだろ」

「ダメかな?」

「俺なんかじゃダメだろ」

「そんなことない!」

 今喋ってるってことはこれは引退会見の後か。

「もう引退したのか?」

「した」

「バカだな」

「バカでいいもん」

「はぁ、またな」

「うん、またね!」

 通話を切ると涙が出て止まらなかった。



 翌日はよく晴れていて洗濯をして掃除をする。布団も干しているとチャイムが鳴る。


「はい」

「隣に越してきたレイナです」

「馬鹿か?」

「バカでいいもん」

「はぁ」

 玄関を開けるとレイナが立っていた。

「引っ越しそば、一緒に食べよ?」

「わかったよ」


 インベントリから出してきた蕎麦は美味かった。


「ファンから殺されるな」

「無理でしょ?」

「まあな」

 二人で笑い合う。


「マネージャーは?」

「今はもういないよ、たぶんこれからも」

「そうか、いいマネージャーさんだったのにな」

「だから引退させてくれたの」

「そうか」

「これからは近藤玲奈コンドウレイナだからよろしくね」

「あぁ、こちらこそ」

 

 レイナが辞めたことによってレイナロスが起きたが、新しいアイドル冒険者にはチャンスだったらしく、レイナファンはそちらの方に移っていった。


「寂しくないのか?」

「なんで?」

「ファンがいなくなって」

「んー、タクトがいるからいいや」

「なんだよそれ」

「それに、私のファンは一人はいるから」

「だれだ?」


「タクト」


「さあな」

「認めるところでしょ?」

「さぁ?」



 浅草ギルドに顔を出す。

「よ、おばちゃん」

「あぁ!レイナ」

「人の顔見てレイナって」

「だってあんたニュースにまでなったんだよ?知らないの?」

 引退のことかな?

「知らないよ」

「かー!これだから男ってのは」

「なんだよ、動画でも上がってるのか?」

「あるんじゃない?Sランク冒険者で探してみなよ」

 新しくなったギルドの椅子に座って動画を検索すると出てきた。


「まんまあの時の動画だな」

 コメントは書きたい放題だ。


 ・Sランク冒険者に楯突いて草

 ・怒って当然だろこれ?

 ・レイナ様可哀想。

 ・Sランクだからって調子に乗ってる

 などなど、コメントなんかみるんじゃなかったな。


「どう?」

「どう?って本当のことだし、しょうがないかな」

 別にアンチだけじゃないし。

「ウチのチエリはどうするのよ?」

「なにがどうするもないでしょ?」

「はぁ、これだから」

「チエリちゃんがどうかしたの?」

「Sランク冒険者になるって」

「は?またなんで?」

「だから坊やはダメなんだよ」

 くそッ、好き勝手言いやがって。


「チエリちゃんは?」

「一人で潜ってるよ」

「は?危ないでしょ!」

「一人で潜れるようにしたのは誰かな?」

「クッ」

 しっかり仲間を作んないとだめだろ!

「そんな事のために強くしたんじゃない」

「そうだろうけどね」

「いってくる」


 浅草ダンジョン中層、

「どこまで潜ってるんだ?」

「アイスランス」

「下層か!」

 大穴から下を見ると確かに誰かが戦っている。


「ウオォォォォォ」

 俺はショートカットで大穴に飛び込んだ。

“ズドンッ”

「キャアァァ」

「チエリちゃん!」

「…タクトさん?」

 俺は邪魔なのでモンスターを狩る。

「チエリちゃん、一人じゃ危ないよ」

「でも、タクトさんも一人で」

「俺は一人でもやっていけるけど、後衛のチエリちゃんは仲間がいないとダメだろ?」

「でも下層くらいなら」

「イレギュラーがあるかもしれないから仲間と一緒に潜るんだ」

 俺もイレギュラーで死にかけたし、実際に仲間が死んだ。

「とても危険なんだよ」


「はい、だったらタクトさんがいいです」

「俺は…」

「レイナさんですよね」

「あぁ、パーティー組んでるからな」

「じゃあそこに入れてください」

「それは…」

「私!負けませんから!」

 えぇー!チエリちゃんどうしたの?

「えぇと、チエリちゃん?」

「はい」

「レイナはどっちかというとちょっと」

「大丈夫です!」

 うん、折れない子だね。

「じゃあ、一回会おうか」

「はい!」


 俺たちがダンジョンを出るとそこにはレイナが居た。

「誰なのその子」

「えーと、チエ「レイナさんですよね」え?」

「そうだけど?」

「タクトさんを独り占めしないでください!」

「は?私のタクトなんだけど?」

「違います!タクトさんはタクトさんです」

 お、おぉ、バチバチいってますが?

「貴女何言ってるの?私のタクトに色目使わないでちょうだい!」

「怖いんですか?」

「は?」

「私に取られるのが怖いんですか?」

「そ、そんな事ないわよ!」

「なら私もパーティーに入れてください」

「なんでパーティーに入れないといけないのよ?」

「タクトさんの近くに居たいからです」

「な!ダメに決まってるでしょ!」

「やっぱり怖いんだ?」

「そんなわけないでしょ!」

 煽らないでチエリちゃん!

「なら決まりですね、私もタクトさんのパーティーに入ります」

「なんでそうなるのよ!」

「いいじゃないですか?それとも私に取られるくらいの関係なんですか?なら、レイナさんが抜けてください」

「な、な、なら勝手にすればいいじゃない!私からタクトを取れるもんなら勝手にすれば!」

「はい!と言うわけでパーティーに入ることになりました。橘智絵里です。よろしくお願いします」


「お、おぉう」

 チエリちゃんも少し怖いぞ?



  

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