第11話 アウェイ


 渋谷ダンジョンの深層まできたらまた宝箱探知が反応した。今度は窪みの中にスイッチがあってそれを押すと宝箱が出てきた。

「凄いのねタクト」

「まぁね」

 罠解除、鍵開けをし、宝箱を開けると長剣が入っていた。ルーンレイピアという剣だった。

「いるか?」

「いいの?」

 欲しそうにしてたからな。

「俺より似合いそうだ」

「やったぁ」

 レイナはインベントリに今の剣を入れてルーンレイピアに取り替える。

「よし!進もうか」

「うん!」

 深層だけあって敵も鋭く攻撃してくるが、俺もレイナも危なげなく倒して行く。


「ここがボスよ」

「へぇ、立派な扉だな」

 扉を開けるとヴァリガルマンダと言う蛇だった。俺はクローキングを使い後ろに回る。レイナは正攻法で斬りつけている。

 レイナに集中しているから大丈夫だろ。


 バックアタック。

 一撃で倒してしまった。

「凄い!急に消えたと思ったら!」

「ま、まぁ、こんな戦い方だな」

「凄いよ!本当に!」

 ドロップ品は魔石に皮に牙。

 宝箱探知で反応があったので探してみると床から宝箱が出てきた。

 宝箱の中身はカードとスキルオーブ。

 カードは五百万ゴールドでスキルオーブはマップだった。


「レイナはマップいるか?」

「んー、いらなーい」

「んじゃこれは俺がもらっとく」

「はーい」

 インベントリに入れて置く、チエリちゃんにでもやるか。


「んじゃ帰るとするか」

「ほーい」

 深層の敵を倒しながら上に登って行く。

「タクトはすごいよね、もう私なんか追いつけないくらい」

「そんなに凄くないよ」

「いーや、私の目には自信があるんだ!」

「そっかー、って単なる見た目じゃないか?」

「そーとも言う」

 レイナも普通に喋れば可愛い子なのにな。

「私は太ってる頃の君でも好きだよ」

「なぁ?!」

「写真で見たんだ、ちょっとしか見てないけどね」

「まぁ太ってたのは認める。でもそれは昔の俺だ」

「変わらないでしょ?」

「変わるよ」

 変わったんだよ。

「ここは変わらない」

 指で胸を刺すレイナ。

「ハハッ、俺の何がわかるんだ?太ってるせいで豚と言われいじめられてた俺の」

「それでも優しい」


 いじめられてきた俺は友達も居ない、なんとか一日が終わるのを待っていた。冒険者になりたかったのも変わりたかったからだ。

「勝手に言っとけよ」

「はぁーい」

 何がわかるって言うんだ。俺は変わったんだよ。変わるために生きてきたんだ。


「俺は俺が嫌いだったんだ」



 渋谷ダンジョンから出てギルドに向かう。

「はーい!深層いってきたよー」

「テンションたけぇ」

 ギルドに入るなり大声で言うレイナ。

『うおぉぉぉぉおぉぉぉ!!!』

 レイナファンが雄叫びを上げる。

「耳が壊れちまうよ」

 指で耳を塞ぐ。

「サンキューみんな!んでこっちが新しいSランクの藍沢拓人!みんなよろしくね」

 賛否両論、言葉が飛び交う。

 そりゃ、レイナファンからしたら俺と代わりたいだろうさ。

「んじゃ、タクトから一言」

「あ?知らねーよそんなの」

「だそうでーす」


 ブーイング。


「うるせぇ!!」

 静かになるギルド内。

「と言うわけで怒らせると怖いよ?」

 レイナの作戦にまんまと嵌められたわけだ。

 俺が動くと道が開く。

「これお願いします」

「は、はい」

 俺は魔石と素材を出す。


「すっげ、あんなのいくらすんだ?」

「ばっか、聞こえるって」

「強いんだろうな」

「お前なんか指一本だろ」


 くだらない言葉が聞こえてくるが無視だ。

「カード二つに分けてください」

「えー、私はいいよ」

「カード出せって」

「はーい」

 レイナのカードと二つに分けて入れてもらう。


 腕をずっと組まれてるがそれについてはいいのか?

「お、お、おまえなんか怖くないぞ!レイナ様を放せ!」

 一人が騒ぎ始めると同調して騒ぎ立てる。

「私が掴んでアッ」

 クローキングで最初に言ったやつを捕まえる。

「おい、もう一度いってみろ?」

「あ、あ…」

「他にも言ってた奴がいたな?」

 誰も口を開かない。

「タクト、やり過ぎ「うるせぇよ!」あ」

 どいつもこいつも連まねぇと何も出来ないのか?

「カード」

「は、はい」

「俺は帰るからな!」

「ごめんタクト!」

 追いかけてくるレイナだがクローキングで姿を消す。




「はぁ、やっちまった」

 部屋に戻った俺は反省していた。

 あれくらいで怒るなんて人としてどうなんだ?レイナはファンがいることくらい分かってるだろ。

 さっきから鳴りっぱなしのスマホも放置して、自己嫌悪に陥る。


「まぁ、レイナ様とは次元がちがうんだよな」

 こんなことしか言葉が出てこない。

 いくら痩せたからって、いくら強くなったからってやっぱり変わらないのかもな。レイナの言う通りだ。


「はぁ」

 スマホをとると通話ボタンを押す。

「やっと出た!ごめんねタクト!」

「いや、俺が悪かった」

「違うの!私が悪かった!本当にごめんなさい」

 泣き声で謝ってくるレイナ。

「これで分かったろ?住む世界が違うんだよ」

「そんなことない!そんなこと言わないで!」

「俺はアウェイではしゃげるほど大人じゃない」

「そんなこと」

「んじゃな」

 スマホをベッドに放り投げる。


 

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