第9話 チエリ


 メンヘラレイナに会ってから二日経つが部屋が落ち着かない。何故合鍵を持っていたのかすらわからないが、俺の行動を監視しているようで怖い。

「マジでプライベートが無くなった気がする」

 毎日の様に交換してないのにLIMUが来る。

『おはよう』から始まって返さないと『なんで返してくれないの』の連続だ。


 困った。


 誰かに好かれたことが無いのに急にこんな重いのがくるとは。

「どうしよう」

“ティリリン”

 スマホにメールが届く。

『どーもレイナのマネージャーの木崎と申します。お困りでしょうからこちらからメールを送らせていただきます』

 天の助けだ!

「助けて下さい」

『まず何から辞めさせますか?』

「俺の監視は?」

『もう辞めてあります』

「じゃあ、LIMUの返信をお願いします」

『分かりました、こちらで勝手に返信しておきますから』

「本当に助かります」


「た、助かった!これで自由だ!」

 レイナも可愛いけど、良かった。

「今日はゆっくり過ごそう」

 久しぶりにぐっすり眠れた。


 起きてからテレビをつけると、新宿駅前ダンジョンで怪我人多発と出ている。だから言っといたのに。

 他の番組を見てみるとやはりその話題だ。


 やはり制限が入る様になるらしい。

 そりゃそうだよな。あんなに人が多ければ制限しないと無理だろ。

 俺はインベントリからビックバーガーセットを取り出して食いながらテレビを見る。


 冒険者の数は上昇しているらしいが、それに伴い命を落としてる人も多くなっているそうで、俺は自分の運に感謝した。

 

 デブで情けない俺が、痩せてここまで強くなれた。それだけで神様それだけでいいんですよ!もういっぱいです。

 さっきから鳴り止まないスマホをベッドに放り投げ、なんとか鳴り止まないかと願う。


 このままも怖いのでスマホを見に行くと、着信が三十件を超えている。

 また鳴り出したので恐る恐る取ってみると、

「やっと出てくれた!レイナよ!ご飯食べた?」

「あのさ、ご飯は食べた。でもそんなことでいちいち電話するなよ」

「だってLIMUを自動返信にしたでしょ?」

 マネージャー!バレてるよ!

「毎日そんなにすることないじゃないか!」

「いやよ!こっちも取材の合間とかにしてるのよ?」

「いや、こっちの都合も考えろよ」

「わ、わかったわよ、でも電話はするわよ?」

「着信拒否ってしってるか?」

「なんでよ!」

「だから自分の都合で考えるなよ!こっちも都合があるんだから、一回電話に出なかったら電話が返ってくるまで我慢しろよ」

「うー、わ、わかったわよ」

「はぁ、やっとわかってくれたか」

「でもちゃんと取れる時はとってよね!」

「わかった」

「返事も返してよね」

「わかった」

「なら許す」

 許す?許されるようなことなのか?これが男女の違いなのか?

「お、おう」

「明日は何するの?」

「明日はダンジョンにいく」

「じゃー、私と一緒に、えっ?なによ!キャンセルよ!そんなのいや!」

「マネージャーの言うこと聞けよ」

「う、うん、残念だけど明日は無理みたい」

「人気者なんだからちゃんとしろよ」

「わかった。うん、おやすみね」

「はい、おやすみ」


 うーむ、あのレイナと電話できるなんて光栄なはずなのに俺は怖くてしょうがないんだが。


 なんなら深層よりも怖いぞ。


 明日はまた浅草ダンジョンでいいか。


 浅草ダンジョンに行くとおばちゃんの横に女の子が一人。

「藍沢君!これ私の娘の智絵里チエリ!どう?可愛いでしょ?」

「なぜに連れてきてんですか?」

「だって全然聞いてくれないんだもの」

「いや聞く聞かない以前に娘さんの気持ちが大事でしょう」

 おばちゃんと違って大人しそうな子だな。

 前髪パッツンで目が隠れるくらいのボブカット。可愛らしい大きな目は隠れてないけどね。

「かっこいいでしょ?」

「うん」

「そこ、勝手に話進めない」

「ほらかっこいいって!ウチの子、十八歳よ?ほらピッタリ」

「ピッタリとかじゃないですって」

「とりあえず付き合っちゃう?」

「それはない!あのですね」

 いや、ここで話を膨らませちゃダメだ。

「もうダンジョンに行ってきます」



「で?なんでついてきてるの?」

「私もダンジョンに来たかったからです。母がご迷惑をお掛けしてすいません」

「いや、もう慣れたけどまさか娘さんがくるとはね」

「私もダンジョンに興味があって、タクトさんとなら行ってきていいって言われたので、すいません出しに使っちゃって」

「うーん、まぁいいけど、武器は?」

「家にあった鉄の剣です。重いんですけどね」

「チエリちゃんには重そうだね、俺のを貸してあげるよ」

 短剣を渡してあげ、鉄の剣をインベントリにしまう。

「あ、はい!ありがとうございます!」

「じゃあ、あのスライムからやっつけてみようか?」

「は、はい!」

 チエリちゃんはスライムに走って行くと“えいえい”と短剣を振る。

「うーん、持ち方はこう持ってこう斬ってみて」

「はい!えーい!」

 スライムはドロっと溶けて魔石を残した。

「やった!やりましたよ!」

「良かったね!これでステータスが見れるはずだよ」

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橘 智絵里タチバナ チエリ 18歳

ヒューマン レベル1 職業 無職

 力 F

 体 F

 速 F

 知 F

 魔 F

スキルポイント 10

スキル

ユニーク

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「やりました!」

「職業は何が出てる?」

「えっと、剣士、ヒーラー、シーフ、ポーターです」

「んじゃまずその中から選ばなきゃね」

「拓人さんは最初はなんだったんですか?」

「ポーターだよ、荷物持ちだね」

「分かりました」

「え、何にしたの?」

「ポーターにしました」

「えぇ!いや、いいんだけど、いいの?」

「はい!」

 えぇー、ポーターにしたら最初覚えるのが軽魔法からだよ。

「なら、レベリングしてあげるよ」

「は、はい!」

「じゃ、パーティーを組んで」

「受理しました」

「じゃあ行こうか、後ろからついてくるだけでいいからね」

「はい!」

 胸に短剣を抱いてついてくるチエリちゃんは可愛いな。

上層から中層、下層まできてレベリングしてあげる。

 チエリちゃんはレベル15でポーターを卒業してインベントリまで覚えた。そしてヒーラーになった。

 レベル30になったチエリちゃんは、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

橘 智絵里タチバナ チエリ 18歳

ヒューマン レベル30 職業 ヒーラー

 力 D

 体 D

 速 D

 知 C

 魔 D

スキルポイント 50

スキル 軽魔法 重量軽減 罠解除 鍵開け 回復魔法(ヒール アンチポイズン エリアヒール)

ユニーク インベントリ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「凄いです!」

「あはは、よかったね、これで冒険者だよ」

 いま装備してるのは樫の杖、俺は杖系を持っていないからショップで一番安いのを買ってあげた。


 ギルドに戻るとおばちゃんはニコニコしているが何もなかったからな!

「あら、良い杖じゃない」

「だめ!これは私の」

「もう、この子ったら」

「ヒール」

 おばちゃんにヒールをしてあげてるらしい。

「まぁ腰の痛みが消えたわ!それに腕の傷も」

「よかったですね」

「藍沢君ありがとね」

「いえいえ、どういたしまして」

「あ、あの!」

 チエリちゃんが話しかけてくる。

「明日もお邪魔じゃなければ一緒にダンジョンに潜ってくれませんか?」

「うーん、まぁいいよ」

「やた!」

「よかったわね!」

 おばちゃんもニコニコだ。

「じゃあ連絡先の交換をしようか」

「はい」

「おばちゃんじゃないでしょ?」

「はーい」

 連絡先を交換して明日ということで別れた。

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