第8話 Aランク


 上層に行くと更に人が増えている。

「はぁ、人気のダンジョンなんだろうけど、これだけいたらああなるよな」

 新宿駅前ギルドで受付のお姉さんに話すが規制出来ないの一言だった。

「怪我人が出ても知りませんよ?」

 俺はそれだけ言うと買い取りの受付へと行き買い取ってもらう。

「カードでよろしいですか?」

「はい、お願いします」

 キングヒュドラの魔石も売ったので一千万円を超える収入になった。

「あの、ランクアップはしないんですか?」

「今の所考えていません」

「そうですか」

「それでは」

 深層をソロで行けるんだからランクアップしてもいいけどめんどくさいんだよな。



  ♦︎



「なんでランクアップしないのよ!」

「知りませんよ、藍沢さんの都合なんじゃないですか?」

 レイナはずっと待ち続けていたが今にもキレそうになっていた。

「ギルドにはなんて言ってあるの?」

「藍沢さんにはランクアップを進めてほしいと」

「それじゃあだめよ!ランクアップさせなきゃ!」

「もういいじゃないですか」

 男はこれからのスケジュールでいっぱいだった。

「私の言う事聞いてくれないわけ?」

「十分聞いてるじゃないですか」

「じゃあ、ここ辞めるわよ!」

「なんでそうなるんですか!こっちだって一生懸命に藍沢さんにバレないようにしてるんですから」

 男は泣きながら叫ぶ。

「わ、わかったわよ!じゃあ早くしてよね」

「うぅ、グスッ、わかりましたよ」



  ♦︎



「ランクアップのお願い?」

「そうなのよ!若くて深層まで行けるんだからランクアップしなさいって来てるのよ」

「えぇー、面倒ですねー」

 浅草ギルドでおばちゃんに言われてBを飛ばしてAランク試験を受けるように頼まれた。やな感じがするんだが。

「上からの命令だから私のためにも受けてくれない?」

「わかりましたけど、メリットがないような」

「じゃあ、わたしの娘もつけるわよ」

「いや、いいです!」

「もう!」

「それじゃあ試験は?」

「いまからできるわよ?」

「んじゃ、やってきます」

「頑張ってねー!」


 まぁ、試験といっても実施試験である一定の条件を満たせばいいだけだからな。

 簡単に通ってAランクに上がってしまった。


 ポーターやってた頃に比べて段違いに強くなってるのはわかるが、こんなに簡単でいいのかな?

「藍沢さんは深層ボスの魔石も納入してるので本当はSランクでもいいくらいなんですよ」

「いや、いいです。Aランクでも俺には荷が重いと言うか」

「あまりの謙遜は美徳じゃありませんよ?」

 自惚れるなってことか?べつにほんとのことなんだけどな。

「はい、Aランクに更新したドッグタグとカードになります」

「ありがとうございます」


 ドッグタグを首にかけ、カードをインベントリにしまって浅草ギルドを出る。

「待ってたわよ」

「は?」

 そこにはレイナがいた。なんで?

「Aランク昇格おめでとう!やっと追いついたわね!」

「いや、追ってないし、なんで知ってんの?」

 もしかしてこいつが原因か?

「あなたのことならなんでも知ってるわよ?なんなら性癖まで!」

「プライバシーの侵害だろ?てか、なんだよそれ」

「私とパーティー組めるでしょ?喜んでよ!」

「やだよ!誰ともパーティー組まないし!」

「なんでよ!私がこんなにあなたのことを思ってるのに!パーティー組みなさい!」

 なんでレイナとパーティー組まなきゃならないんだよ!

「嫌だね」

「なんでよ?私のどこが不満なのよ?」

「今の所全部」

「え?!な、なんでそんな酷いことを言うの?こんなに愛してるのに」

「怖いよ!!なぜそんなに知りもしないのに愛してるなんて言葉が出てくるんだよ」

 本気で怖くなってきた。逃げるなら今のうちか?

「逃げても無駄よ?藍沢拓人君!私と付き合ってくれるまで逃さないんだから」

「怖いってば!そんな愛され方したくないから!」

 俺はクローキングを使う。

「えっ!どこに消えたの?拓人ぉ!なんでぇ!」


 俺は家に帰り着くと鍵を閉めてホッとする。

「おかえり拓人!」

「ギャアァァァァァァ」

「キャアァァァァァ」

 お互いがお互いの声にびっくりして叫ぶ。

「はぁ、はぁ、はぁ、なんで?やめて下さい」

「い、いやよ!私の心を奪ったんだから受け取ってよ!」

「ごめんなさい」

「なーんーでーよ!!可愛い彼女になるから!」

「ごめんなさい」

「ほら、そんなんだと嫌われますよ」

 どこからか男が出てきた。

「藍沢さんも悪いね。うちのレイナが迷惑かけて」

「いや、貴方も俺の部屋に入ってる時点で不法侵入ですよ?」

「これはすまない、だけどこうでもしないとレイナが暴走するから」

「…それならしょうがないですね」

 もう暴走してるけどな!

「ほら、謝ってとりあえず友達から始めたら?いいよね?藍沢さん?」

「はぁ、と、友達ならまぁ」

「ほんと!なら友達から始めましょう!」

 パァっと花の咲くような笑顔で了解するレイナ。


「じゃあまた今度で、あ、合鍵はこれだから」

 合鍵って、作ったんかい!

「はぁ、もう帰って下さい」

「拓人!ちゃんとご飯食べるのよ?またね!」

 レイナ達は帰って行った。

 俺はその場にしゃがみ込んでしまう。


「どうしてこうなった?」

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