第4話 レイナ


 あれから四日が経った。

 俺は相変わらずダンジョンに行けない日々が続いている。

 やはり怖いのだろう。ダンジョンの入り口に立つとあの時の恐怖が蘇ってくる。

「やっぱどうにかして克服しないとな」


 家にいるとどうしても考えてしまう。あの時俺が引っ掛からなかったら、たまたまあの卵を潰してなかったら、俺は今ここに居ないんだから。


“ピンポーン”


 誰だよ?こんな時に?

「はい」

「おう!ポーター野郎」

「あ、あの時の」

 あの男達だった。

「あの時は悪かったな。これ、お前が使ってくれるか?」

 あの時、背負っていたリュックだった。

「え?俺ポーターやめたんですけど」

「あぁ、それでもお前が持っておけよ、お守りがわりだ」

「あ、ありがとうございます」

「その、なんだ、あの時は悪かったと思ってる。お前も死にかけたんだもんな。それで、そのリュックに助けられたならお前が持っておくのが一番いいからな」

 なんだかんだいって良い人らしい。

「一つ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「どうしてここが?」

「そりゃ調べる専門がいるのよ」

「へぇ」

「ま、なんかあれば頼って来たら良い、俺は南原なんばらだ、ギルドで聞けばすぐ分かるから」

「はい」

「じゃあ、頑張れよ!」

「ありがとうございます」

 リュックには中級ポーションが入っていた。俺はそれをインベントリに入れると、少しだけ心があったかくなった。


 今日こそはダンジョンに入ってやる。


 浅草ダンジョンの前で人が通り過ぎるのを見ている。なぜか、入り口から入ることができない。

「やっぱダメなのかな」

「何が?」

「うおっ!」

 そこにはレイナ様が立っていた。

「何やってんの?」

「いやダンジョンに入ろうと思って」

「なら入りなさいよ」

 手を掴まれてそのまま投げられるようにダンジョンに入ってしまった。


「あ、入れたな」

「どーせ入れなかったんでしょ?」

「はい」

 俺は立ち上がり、

「ありがとうございます」

「いいえ、私は何もやってないわ」

「いや、投げ飛ばしたでしょ?」

「あはは、それはしょーがない」

「あはは」

 笑って済ませてしまうのかよ。でもダンジョンの中に入れたんだから良しとしよう。


「ふぅ、それじゃ」

「はい、それじゃ」

 って付いて来てるんですが?

「何か?」

「いや、別に」


 ゴブリンを斬って捨てるとドロップ品を拾う。それを、まじまじと見られてもしょうがないんですが。

「ねぇ、藍沢君のその剣って、どうしたの?」

 やべ、ドラゴンのドロップ品を使ってた。

「いや、これは拾ったものでして」

「嘘つき」

「…なんで言わないといけないんですか?」

「助けてあげたの誰だったかな?」

 クソっ!そう言うのありかよ。

「…ドロップ品です」

「なんの?」

「ドラゴン」

「やっぱり!なんで強くなったの隠すの?」

「しょうがないでしょ!簡単に人に教えられるかよ!」

 レイナ様、いやもうレイナはにじり寄ってくる。

「藍沢君はまだ隠してることがあるでしょ?」

「そりゃ人には色々あるでしょ!」

「うん!そりゃそうね!でも気になるなぁ」

「俺はなんで知りたがるのかが気になるわ!」

 俺のことなんか放っておいてくれよ。


「強い人は気になるのよ!」

「強くないです!はい!終わり」

「む。なんかムカつくなぁ」

「こっちがムカついてんですよ!さっきから冒険者同士聞いちゃいけない事聞いて来てんのはそっちでしょ?」

「あ、そうか」

「なんですか?」

 笑い出すレイナ。

「いや、そう言えばそうだなぁと思って、ごめんね」

「はぁ、そうですよ!あんまり詮索しないでください」

「分かった。じゃあ、私とパーティー組もうよ!」

 こいつは何も分かってない!

「組みません!どこのFランクがSランクの冒険者と組むんですか!」

「別に藍沢君と組んでも良いと思ってるんだからいいでしょ?」

「だめです!てか絶対嫌です」

「はぁ、じゃあどうしたらいいの?」

「どうもしませんよ!」

「分かった!今日は諦めた!」

「なんなんですか?今日はって?」

 しつこい人だな。

「じゃーねー」

 笑顔で去って行くレイナ。


「はぁ、憧れてたのにあんな人だったなんて」

 ようやく解放された俺はダンジョンの上層でモンスターを狩っていく。

 Fランクだから仕方ないけど、俺は安全第一だ。

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