僕たちがまだ小さかったころ

 僕たちがまだ小さかったころ、マイクロソフトがコンピュータウイルスを開発しているという噂がまことしやかにささやかれていた。ウイルスをばらまくことで需要を喚起し、自社のセキュリティソフトの売上を向上させるという理屈だった。

 大人になってわかったのは、マイクロソフトはそんなことなどしていなかったこと(おそらく)と、同じようなことをしている大人が大勢いるということだった。それも白昼堂々、意気揚々とやってのけるのだ。

 しかし世の中には本当に賢いやつがいるもので、ある日、本当に必要なのはコンピュータウイルスそのものではなく、コンピュータウイルスの影だということに気づくのだった。そうして銀座はきらびやかな装束を身にまとい、車内広告は日常の雑音に成り下がり、僕の家の近所にある予備校はクリスマスになると一際大きなイルミネーションを灯すようになった。

 その点でいえば、『キン・ザ・ザ』の住人たちは我々よりもずっと高尚である。マッチ棒は、少なくとも火をつけることができる。

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