第29話 ささやかに光る
山の中、木々の間。
昼介と夜々子は、向かい合って。
「
夜々子が宙に描き出した魔法陣は、ゆるりと飛んで昼介に張りついた。
昼介はちょっと顔をしかめて、そして魔法陣はすぐに割れるように消え去った。
昼介は夜々子に顔を向けた。
「ちょっとクラッとするけど、すぐに効き目が消えちまうな」
「ど、どうしよう、わたしの魔法、弱くなっちゃった? 前に試したときは、もうちょっと効いたよね?」
「いや……」
昼介は光の剣を出してみせた。
大きさはもう、長剣と言ってさしつかえないものが出せている。
「おれも夜々子も、魔力は強くなってる。
たぶん体から出てる光の粒のせいだと思う。これに魔法を打ち消す力があるみたいなんだ」
剣を消し、手のひらを、そこから落ちる光の粒子を見つめた。
「魔力が強くなってるのは、ピンチでもあるんだけど、きっとチャンスでもあると思う。
今までできなかったことが、できるようになるはずだから。
きっと……今まで思いつかなかった方法が、あると思うんだ」
手を握りしめ、見つめる。しばらく、考え込む。
それから、視線を夜々子に向けた。
紫の炎の上で、
持続時間は一時間近くまで伸び、魔物の襲来にも落ち着いて対応できそうだ。
「けどまぁ、やっぱり前みたいに自然に消えてはくれなかったな、この光。
覚悟はしてたけど、野宿の準備まではしてないんだよなー」
二人そろって、空を見上げる。
木々の隙間から見える空は、もう夕焼けになりかけていた。
「七月とはいえ山の中だし、そのまま寝たら風邪ひくかなー」
「わたしはお風呂に入りたい……肌かゆい……」
「風呂かー。……風呂かぁ」
「……ねぇ!? なんでお風呂でそんな意味深に反応するの!?
バカ!! 変態!! えっち!!」
「ごめん! ごめんて!
ちょっ近づけないからって魔法で攻撃すんのはシャレになんないって!?
火力のコントロールうまくなったな夜々子!?」
わーわー騒いで、日はより暮れて。
「あっ電話……ゆななん?
もしもし……うん……えっ来てる!? どこに!? コンビニ!?」
「なんだ? どした? ゆななん先輩がなんだって?」
二人、山から降りて、早朝に来たコンビニのそば。
青山夕奈那が、大荷物をかかえて安全メットをかぶって、ぜーはーと息を切らして、二人を出迎えた。
「うーわ、二人ともめっちゃキラキラメラメラしてんじゃん。
こーりゃ疑いようもなくファンタジーだわー帰ってこいなんて言えないわー」
「ゆななん、なんでこの場所が分かったの?」
夕奈那はスマホを突きつけてドヤった。
「SNSのチカラなめんな! 光る中学生で検索したらすぐに見つかったよ!」
「え、マジ!? おれそんなSNSで見つかるくらい目立ってたんすか!?
てかゆななん先輩、おれが光ってるってどこで知ったんすか!?」
「弟くんが教えてくれたよ! 夜中にめっちゃ光って出ていったって!」
「あいつどんだけ夜ふかししてたんだよ!? 起きてたの全然気づかなかったぞ!?」
夕奈那は会話をほどほどに、荷物をぽいぽい開け始めた。
「はいややちゃん! 着替え持ってきた! ちゃんと下着もあるよ!」
「ゆななんそれここで出さないで!?」
「寝袋! レジャーシート! タオルもいっぱい持ってきたから濡らして体拭いて!
モバイルバッテリーもあるし、おにぎりも握ってもらったよ! 塗り薬は足りてる!?
あとなんかいるもんあったら言って! 買ってくるから!」
「ゆななん先輩、よくこんないろいろ持ってきましたね」
「当たり前でしょ!!」
びしっとした口調で、夕奈那は真剣に言った。
「アタシゃそれだけあんたらのこと心配してんだ!!」
言われて、昼介も夜々子も、表情が神妙になった。
夕奈那はそれに向かい合って、自分は表情をいつものようにおちゃらけさせた。
「ま、実態は知らないけどさ。元気そうな顔してるし、よかったよー。
あんたらの家族も心配してるけど、適当に愛の逃避行中ですって言って緊張ほぐしとくねぇー」
「ゆななん先輩、それシャレにならないっす。おれがめちゃくちゃ怒られる気がします」
あははと、夕奈那は笑って。
「よっし! じゃ写真撮るよ!」
「えっなんで!?」
「元気にしてるって証拠写真! そんな状況だしすぐには見せないけどさ、親たちを止められなくなったら見せれるようにね!
あと帰ってこれるようになったら、そのキラキラとか消えるんじゃない? 後で思い出があった方がいいでしょ!
ほら撮るよ! 離れすぎてるからくっついてくっついてー!」
「や、ゆななん先輩、これくっつけないんすよ、お互いケガするから」
「じゃあピース! ピースサインしよう! ほら笑って笑って! 表情固い!」
「ゆななん、これそんな笑ってられる状況でもないんだけど……」
「じゃあ後のことを考えて笑う!
あんたら、これで解決してめでたしめでたしで、それで終わりじゃないでしょ? あんたら付き合い始めたばっかりで、夏休みは始まったばっかりでしょ!
これからどんなデートしたいか、どんなカップルでいたいか、そういうの考えてみなさいな!」
昼介と夜々子は、お互いにちらりと見つめ合って。
「うん、いい写真が撮れた。満足満足ぅー」
夕奈那はにんまりして、スマホをしまって、荷物をまとめた。
「洗濯物とかあるだろうし、ちょくちょく来るようにするからさー。
必要なもんとか食べたいもんとかあったら、連絡してねぇー」
荷物を自転車にくくりつけて、それを押して、夕奈那は去っていった。
完全に日暮れ。昼介と夜々子、明るくキラキラメラメラ継続。
「……なんか、けっこう覚悟して家出したつもりなんだけど、ちょっと合宿にでも出かけたくらいのノリになっちまったな」
「みんな、それだけ心配して、手をかけてくれてるってことだよね……
このモバイルバッテリー、お兄ちゃんのだ。貸してくれたんだ」
荷物をいくらか確認して。
二人は山の中に戻って、おにぎりをほおばった。
「……うめーな」
「うん」
おにぎりは、食べきれないくらいあって、握り方の違う二種類のものがあった。
昼介の家のものと、夜々子の家のもの。
「おにぎりってさ、コンビニのおにぎりの方が、うまいしいろいろあるし好きだって思ってた。
でも、なんか……自分ちのおにぎりも、悪くないな」
「うん」
食べる。片づける。
完全に夜になって、二人はちょっと離れて並んで、寝袋に入った。
二人が光っているので、暗闇にはならないけれど。
星明かりの邪魔にならない程度には、二人の輝きは、この山の中ではささやかだった。
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