第20話 つながりはパズルのピースのように

 窓の外は夕方。

 ファミレス内の一角、六人がけ席。


「「「「ハッピーバースデー、ゆななーん!!」」」」


「ありがとー後輩たちー!」


 乾杯のグラスがガチャリと鳴って、青山夕奈那はパズル部の面々に破顔した。


「オレらのおごりっすよーゆななんパイセン。

 じゃんじゃん飲んで食ってくださいよー」


「ゆななん先輩が……喜んでくれたら……うれしい……」


 二年生ズが取り仕切り。

 談笑。談笑。ドリンクバー。


「んで、誕プレなんすけどー」


 男子先輩の目配せで、夜々子は包みを差し出した。

 夕奈那は受け取り、開く。

 部員みんなで相談した、夕奈那の喜びそうなデザインのパズル。

 それからもうひとつ、手のひらサイズの、大きなジグソーパズルのピース。三辺にジグザグがあり、一辺は平ら。

 それがひとつだけ、入っていた。


「他のピースは……ここ……」


 昼介ら後輩四人が、ひとつずつピースを出して、テーブルに並べた。二辺がジグザグで二辺が平らな、カドのピース。

 全六ピースで完成するパズル。


「んでー、最後のひとつは、部室に置いとくっす」


 次期部長となる男子先輩がもうひとつのピース、三辺がジグザグのピースを置いて、パズルはそろった。

 昼介が説明を引き継ぐ。


「ゆななん先輩、この夏からは受験で部活動は引退でしょう?

 なんでこのメンバーで集まれるのもだんだん減るかもって思って、みんなのつながりを感じられるものを用意したんです。

 パズルのピースみたいに、バラバラになってもちゃんとつながりは残ってますって」


「昼介のアイデアですぜー。いいこと思いつくなー昼介ー」


「昼介……グッジョブ……」


 夕奈那はパズルをながめて、みんなの顔をながめて、それから涙ぐんだ。


「うっうっ、後輩たちぃぃ……あんたらいい子だねぇ〜!

 アタシゃこんなかわいい後輩たちに囲まれて、幸せだよぉ〜!

 みんなこっち来な! 一人一人ハグしてあげる〜!」


「わっわっゆななん!?」


「ちょっゆななん先輩っ、一人一人って言いながら二人まとめてハグしてるんすけど!?」


「おーおー、どさくさで昼介と夜々子が密着してるぜぇー」


「写真……撮影……アップロード……」


「アップロードってどこに上げたんすか先輩!?」


 騒がしく。そして笑顔。

 それから談笑を続けて。


「それにしてもさぁ、ややちゃんが早生まれで、本当助かってるなー」


「えっ?」


 夕奈那に話を振られて、夜々子はきょとんとした。


「だってさー、ややちゃんもしかしたら四月生まれだったかもしれないんでしょ?

 そしたらややちゃんまだ小学生で、一緒にパズル部やることできなかったし、昼介くんを引っ張ってくることもなかったわけじゃん。

 そう考えたらさぁ、こうしてみんなで騒いでるのも、それどころかパズル部が存続してるのだって、すごい奇跡なんだなって感じになるじゃん!」


「奇跡……」


 その単語を、夜々子は噛みしめるようにつぶやいた。

 昼介はその隣で、神妙にして、それからふっと笑った。


「そうっすね。夜々子がいなきゃ、今の日常はなかった」


「だーよねー!

 あーなんかそう思ったら、ややちゃんが女神に思えてきた!」


「ひゅー! ゴッデス夜々子爆誕ーうぇーい!」


「ゴッデス夜々子……アーメン……」


「えっえっ!? そんな、わたしに祈られても!?」


 あわあわする夜々子を見て、みんな笑い。


「まーでも、生まれは何日だろうと全部奇跡だけどねー。

 だからこそ、こうやって誕生日を祝うわけだし」


「おーぅ、ゆななんパイセンいいこと言うー!

 つーわけで後輩ー! 秋にはオレの誕生日も祝えよなー!」


「私も……冬休みだけど……祝ってくれたら……うれしい……」


 二年生ズの発言に、昼介と夜々子は顔を見合わせて。

 それから苦笑し合って、二人に向き直った。


「ええ、もちろん。お祝いしますよ、おれら」


「先輩たちが喜ぶような誕生日プレゼント、考えますね」


 笑う。笑い合う。

 そんな中で、男子先輩が提案した。


「せっかくだしさーこのパズルと同じ並びでオレら手ぇつないでみねえ? つながり再確認ーって感じでさー」


「おーっいいねえ! やろやろ!」


 五人で席を入れ替えて。


「んー? 昼介ーオレどっち側ー?」


星太郎せいたろう先輩はこっちっすね。で先輩の次がおれで」


月子つきこちゃん、血がついちゃったらごめんね」


「いい……それより、夜々子ちゃんから手をつないでくれるの、うれしい……」


 ぐるりと五人、手をつなぐ。

 輪っかになって、つながっている。


「……うーん、アタシなんか感動するよ。理屈じゃなくてさぁー」


「ゆななん先輩が喜んでくれたなら、よかったですよ」


 なごやかな時間が、過ぎていく。

 とっぷりと日が暮れて、夜になって。

 なごやかなまま、お開きになった。




 家の方向の都合で、二年生ズと昼介のグループ、夜々子と夕奈那のグループに分かれて解散となった。

 夜々子と夕奈那、二人並んで、夜道を歩く。

 空には月が出ていた。

 なんとはなしに、それをながめて。


「ややちゃんさぁ、明るくなったよねー」


「えっ? そう?」


 不意に夕奈那が、話を振った。


「なったなった。自覚ない?

 前もっとおどおどしてて自信ない感じだったのに、最近そうじゃなくなってきたもん」


「そうかな……わたし、そんな、今でもいろいろできないこと多いし、昼介くんとか、一緒にいてすごいなあって思うこと多いから」


「出た、昼介くん。

 ややちゃんホント昼介くんのこと好きだねぇー」


「あ、あぅ、そんなこと、あの、あるけど、あぅぅぅ」


 夕奈那はからからと笑った。

 それからふと、夜々子をながめて、言った。


「それにしてもさぁ、ややちゃん、背ぇ伸びたよね」


「え、そう?」


 きょとんとする夜々子を、夕奈那はながめた。

 半そでから伸びる腕。スカートから伸びる脚。

 すらりとしている。思い出の中の、いつよりも。


「成長してるねぇ」


「自分じゃ分かんないなぁ」


 夕奈那は笑う。夜々子の手を取る。

 手をつないで、連れ立って、歩く。

 姉妹のように。




   ◆




 昼介。自室。

 学習机に座って、今日撮った写真をながめる。

 背後では、弟がゲームをしている。


 楽しかった。昼介はそう思う。

 数合わせで入った部活だけど、みんな気の合う人たちで。

 秋には男子先輩の、冬には女子先輩の誕生日も、きっと祝おう。

 そして三月には、昼介と夜々子の誕生日も。


(生まれは全部奇跡、か)


 夕奈那の言った言葉を思い返す。

 思いをはせる。自分と夜々子の生い立ち。生まれ変わり。

 しばらく考えていて、ふと思い立って、立ち上がった。

 部屋から出て行く昼介の後ろ姿を、弟はちらりと見て、またすぐゲームに集中した。

 出ていった先のリビングの方から、昼介の声が聞こえた。


「母さーん、おれのさー生まれたときの写真ってある?」


 ゲーム機が、ステージクリアの音を響かせた。

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