第4話 部活に入ろう
「部活ぅ?」
昼介の、すっとんきょうな声。
夕方、河原、橋の下。
昼介と夜々子、放課後にちょろっと魔法の練習をして、その休憩中。
「あー、おれさぁヨーヨーずっとやっててさ。
その大会とか出たりしたいし、がっつり部活やるつもりはないんだよね。
ゆるーくやれる部活があるなら、入りたいけど」
「あ、あの、それなら」
夜々子はおずおずと、顔を隠すようにチラシをかかげてみせた。
昼介は顔を寄せて、そこの文字を読んだ。
「パズル部?」
◆
で、次の日。放課後。
「あ、あの、入ってくれるって、連れてきたよ」
「ども、白木昼介です」
パズル部、部室。狭い部屋。
昼介の登場に、部室にいた男女三名はわーっと喜んだ。
「ありがとーややちゃんー助かるぅー!
新入部員全然見つからなくてさぁーアタシもう廃部になるかと思ってたよー!」
「えへへ、ゆななんの力になれたなら、よかったよ。
いつにも増して、テンション高いね、ゆななん」
「そりゃそうでしょー一年生来てややちゃんの友達でしかも男の子でーってこれがテンション上がらいでか!」
女子部員の一人にわっちゃわっちゃとなでられながら、夜々子は昼介に紹介した。
「えっとね、白木くん、この人が三年生で部長の、
家がご近所で、昔から知ってるの」
「幼なじみなんだよねーややちゃんー」
夕奈那はにっかと笑って、それから昼介にずいっと詰め寄った。
「そ・れ・でー?
ややちゃんがまさか男の子連れてくるなんて思わなかったけどぉー、昼介くんはややちゃんと、どういう関係なのかなー?」
「や、ちょっと縁があって……」
「ふぅーん?」
夕奈那はわざとらしくジト目を向けて、昼介に詰め寄った。
昼介は一歩下がって、夕奈那はもう一歩詰めてきた。
そうしてから夕奈那はまたにっかと笑って、飛びつくように肩を組んできた。
「ま、いいやー昼介くんもかわいいしー!
頭が羊さんみたいでかーわーいーいー!」
「あの青山先輩、ちょ、やわらかいのが当たっ……」
「青山先輩だなんて固い言い方しないでよー!
ややちゃんたちみたいにゆななんって呼んで呼んでー!」
「はぁ、あの、ゆななん先輩、めっちゃ押しつけられて、ちょ、身長あんまり高くないのにでっか……」
昼介は赤面しながら、視線で夜々子に助けを求めた。
その夜々子は、夕奈那にぐちゃぐちゃにされた髪のまま、ひかえめに、でもぶすっとした顔で昼介を見ていた。
「あ、あれ? なんか、おれが悪い空気?」
二年の男子先輩はキヒヒと笑い、二年の女子先輩はひたすら無表情でパズルにいどんでいた。
夜々子は周りに聞こえない声量で、ぼそっと漏らした。
「名前呼び……」
気がすむまで昼介の頭をボンバーさせた夕奈那は、上機嫌に机に腰を下ろして足を組んだ。
「さーて、せっかく来てくれたんだし、活動の説明するねー。
ここはもともとジグソーパズルやる部として作ったけど、それだけじゃ活動として限定的すぎるから、パズルと名のつくもの全般なんでもやりまーす」
「オレはクロスワードパズルとか好きだぜー」
「ナンバープレース……これこそ至高のパズル……孤独な数字たちの協奏……」
夕奈那はじゃらじゃらどさどさ、ジグソーパズルやらペンシルパズルの問題集やらを積み上げた。
「幽霊部員でも全然文句は言わないけどさ、せっかく入ってくれたんだから、ちょっとは遊んでほしいなー。
今日時間あったらさぁ、さっそくやってかなーい?」
「はぁ、まぁ、それじゃ」
このあとはまた魔法の練習のつもりだったが、せっかくの機会だし、ちょっとやっていくのも悪くない。
そう思って、昼介はパズルを選ぼうとして――そでを、引かれた。
「ん、黒井さん?」
まだ何か、機嫌が悪いのか。
そう思って昼介は振り向いて。
見えた夜々子の、うつむいた顔は、緊迫していた。
「白木くん……来る」
来る。
主語のないその言葉の、意味するところは。
(魔物か!?)
昼介は考え、視線をめぐらせる。
先輩三人。狭い部室。
今この場所で? 絶対にまずい。移動しなければ。
「あ、すいません、ちょっと今日おれ、用事があったの思い出して……」
「えーそうなのー? 残念だけど、それは仕方ないねー。
ややちゃんも帰るの? さみしいなー。まあまたヒマなときは遊びに来てねー」
「う、うん」
二人して、かばんを持って、二人なりに自然な感じに退室して。
それから下駄箱へ向けてダッシュした。
「黒井さん、時間どのくらい余裕ある!?」
「わっわっ分かんない、こないだの感じならっ、何分かくらいはっ、あると、思うけどっ」
「こらー廊下を走らなーい」
「さーせん先生! 明日から気をつけます!」
下駄箱。靴をはき替え。
「河原とかまで行く時間はないか!?
運動場は運動部がいるし、隣の公園行こう公園!」
「はひーっ、わ、分かった!」
校門を出て、アスファルトを走り。
公園。さいわい人はいない。
木もそれなりに生えていて、外から見られてもなんとか目立たずに済みそうか。
そこまで確認した昼介は、公園の中央で振り返り。
「よし黒井さん、この辺で待ち構え……」
後ろにいると思った夜々子が、いない。
「黒井さん!?」
探す。
公園の入り口。立ち止まっている。
息が切れた?
違う。
「白木くん、わたしまだ、確信が持てないから、確かめてみる!
魔物が、わたしを目標にして来るのか、どうか」
「ばかっ……」
夜々子の背後。魔法陣。
夜々子が振り返った、その視線の先に、魔物は来た。
名称、イルフルフライ。
形状はクラゲをかぶったハチといったところ。
尻尾と十四本の触手にそれぞれ毒針があり、触手は独立した意思で動く。
その毒は致死性の高い猛毒で、一体で街ひとつを死体の山に変えるという。
本来は人間大。今は普通のハチのサイズ。
「し、白木くん、イルフルフライ! イルフルフライが来た!」
「イ……」
名前を聞いて、前世の記憶を思い返して、そして昼介は青ざめた。
(おい……おい……おい!
ヤバくないか!?
マウンテンイーターは、ちっちゃかったからなんとかなった。
でもイルフルフライは……毒は……小さくなったって、まずいんじゃないか!?)
駆け出しながら、叫んだ。
「黒井さん走れ!! 走れーッ!!」
夜々子も昼介を目指して走った。
走りながら、魔法陣を飛ばした。
服従の魔法が、イルフルフライ本体の動きを止めた。
本体だけは。
触手は独立して動き、夜々子の足よりも速く伸びた。
複数本の触手の針が、夜々子の体を突き刺した。
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