第17話 本当に
夜、俺はトイレから部屋へ戻ってくると親父たちの会話が聞こえてきた。
『お前、よくアークを引き取ったな』
『親父さんの救った命を無下には出来ないでしょ』
(えっ、引き取った、救った命? どういうことだ?)
俺は混乱しながら歩いていると、向こうから風呂上がりのキロンが来た。
「アーク、どうしたの? 神妙な顔して」
「あぁ」
俺は言葉を発するのが難しかった。
「アーク、様子がおかしいよ、大丈夫?」
「……」
キロンは様子がおかしいことを心配して、
「ちょっと、待ってね。部屋で着替えてくるから」
「……」
俺はその場に立ち尽くした。
◇
キロンが戻って来た。
「アーク、とりあえず部屋に行こ」
「……」
キロンに引っ張られ、部屋へと戻る。
(あぁ、親父は親父でないのか)
部屋のベッドに腰掛けていると、キロンは静かに俺のことを見つめて、
「どうしたの? アーク」
「……」
(本当の親はどこに……)
しばらく俯いていた。どのくらい経ったかわからないくらい。そうしていたら、キロンに引き寄せられ、豊満な胸に顔がうずまる。キロンに抱きしめられ、
「落ち着くまで、ここにいるからね。一人じゃないから」
「……」
やさしい香りと柔らかな感触に包まれ、親父たちの会話を反芻していた。
「ありがとう、大丈夫だ」
そう言って、キロンから離れた。
「俺は何者なんだ」そう呟いた。
「さっきさ」
「うん」
「親父と爺ちゃんがさ」
「うん」
「俺を引き取ったとか、救った命とか言っているのが聞こえたんだ」
「うん」
「俺の親父は親父でない」
「うん」
「本当の両親は誰なんだろう」
「うん」
「どこにいるんだろう?」
「うん」
「俺はなんなんだろう?」
「……」
「……」
「アークはアークだよ」
「……」
「レイ姉ちゃんとアイちゃんがいるでしょ」
「……」
「血の繋がりが無くても、家族は家族だよ」
「ありがとう、キロン」
「うん、私、戻るね。何かあったら言ってね。一人で抱え込まなくていいからね」
俺は横たわり、天井をみる。
『血の繋がりが無くても、家族は家族だよ』
「そうか、親父に育ててもらったんだよな」
部屋の中に月明りが差し込み、ただ、そこにあるものを感じていた。
◆
ある日、朝食後に親父はヒロを呼び出した。
「ヒロ、お前商人だって?」
「はい、そうです」
「何でまた、冒険者に」
「はい、父は商会の副会長で、ボクは支部に派遣されました」
「……」
「父の後ろ盾があるのがイヤだったんです。自分自身で稼ぐことがボクにとって必要なことだと」
「それで、冒険者に」
「はい」
「俺が言える義理じゃないが、ちゃんとしっかりしたところでノウハウを学んだ方がいいと思うぞ」
「……」
「そこから、独立してもいいんじゃないかな」
「……」
「まぁ、護身用に短剣術を身につけるなら、俺が教えるけど」
◆
後日
「親父様」
「ん?」
「ボク、商会に戻ります」
「そうか」
「ちゃんとノウハウを身につけて、自分で稼げるよう頑張ります」
「わかった。いいと思うぞ。アークにも伝えてな」
「はい!」
こうして、ヒロは「万馬券」から抜けることになった。
ヒロが抜けてからの初クエスト。俺は爺ちゃんとサナと共に(何故かルシフも)目的地へと向かっていた。
「なんで、アタイが
(サナ、メンバーを見ろ、妥当だと思うぞ)
「サナ、ポーションは何本あるんだ?」
「ポーション? そんなの持って来てないわ」
(ヒロ、戻って来い)
いつもの様に魔獣が現れる。爺ちゃんは無傷だか、俺とサナは痛手を負った。
(えっ、傷が治っている)
「爺ちゃん、ありがとう」
「ん? 何もしてないぞ、たぶんあのガキだな。無詠唱でエリアヒール使いやがった」
訳もわからず、見上げると、そこには笑顔のルシフがいた。
目的地に到着。想定外のことが起こった。ゾンビやゴーストなどのアンデットがいた。戦うのは初めてだ。
「アーク気をつけろ。この大群、ネクロマンサーがいるぞ」
前方だけでなく、右からも左からも、アンデットが押し寄せてきた。
(まずいな、この状況。戦い方を知らない)
ズドーン
ズドーン
気が付くと両サイドにいたアンデットが消えていた。
(は?)
ズドーン
前方のアンデットも消えた。
(えっ? どういうこと?)
パタパタパタとルシフが降りてきて、腕を組んでドヤ顔を俺らに向けてきた。
「爺ちゃん、何が起こったか、わかる?」
「あぁ、ホーリーアローか何だかは知らんが、あのガキが攻撃したんだよ」
『何故だ、我自慢のアンデットが――ギャーー!』
「まったく馬鹿ね。戦っているんだから、隙みせちゃダメよ」
気が付くと、目を覆っている男がいた。
(なるほど、サナの投擲ね)
「爺ちゃん、あいつ、ギルドに連れて――」
「いや、生け捕りはやめた方がいい、またアンデット呼ぶぞ。首だけ刎ねてギルドだな」
◆
俺はギルドに戻り、そして受付に生首を置く。
「「「「キャーーーー」」」」
受付嬢たちの叫びがこだまする。
「アーク、わりぃ。こういうの裏手にベテラン受付嬢を呼んで確認してもらうんだ」
「すみません」
生首を袋に戻し、裏手へと向かった。
今日のクエストでわかった事は、ルシフは(アンデット以外の)魔獣を殺さないことと。回復役として戦力になることだ。良い収穫だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます