第7話 賢者と賢者

「ふふふん♪ふふふん♪」


「どうしたんですかね。ソロンさん、あんなに楽しげに掃除して」

「いい事でもあったんじゃない?」

「そうですよね、キャラ変わってますもんね」

(言えねぇ。殺されるから、言えねぇ)


 喜びながら掃除をしているソロンを見て、ジャンヌは不思議に思っている。


「ディーン君、何か知ってる?」

「いえ、まったく」

「まぁ、今日のクエストいつになく集中してたからな、いいんじゃね?」

「レオンさん、鈍感なんですよ。絶対にありますって」


 ◇◆◇◆


「ふぅー」


「ジャンヌちゃん、ソロンさん、お風呂気持ちいいですね」


「生き返ります~、それにしても、ソロンさん、何かいい事あったんですか?」


「な、な、何でもないよ」


「あのね、ジャンヌちゃん。この前、男、紹介しろって言われたの」


「ち、ちょっと~」


「そうなんですね。あぁ、だからですか」


「そうなの、ジャンヌちゃん」


「上手くいっているんですね。いいな~」


「……」


「でも、なんで気にいったんですかね。高飛車なところあるのに」


「その男の子、温厚篤実でね。エスコートも上手いの」


「そういえば、賢い人じゃないとダメって言っていましたよね」


「そう、タレス君って言うんだけど、一年二年と首席なの、で紹介しろと」


「それじゃあ、ソロンさんが望む賢い子供産まれそうですね」


 ◇◆◇◆


 三週間後、ギルドにて、いつものようにクエスト前、ミーティング。


「今日のクエストも体調不良でルイはお休みだ」

「ちょっと、レオン」

「ん? どうした」

「あたい思うんだけどさ、ルイ裸にしてズッコンバッコンしているから、体調不良なんじゃないの?」

「違うと思うぞ」

「まったく、婚約者かもしれんけど、あんたリーダー、なんだから」

「ん? それで」

「馬鹿なの? 少しはパーティーのこと考えてよ」

「考えてるぞ。だから、助っ人を頼んだ」

「え?」

「あそこのテーブルにいる」

「……、えーーーー!」



「ようやく、魔女の恰好が見れました。嬉しいです」


 ◆


「神官服をきているのがジャンヌ、ジョブは聖騎士」

「よ、よろしくお願いします」


「ドラゴンメイル装備しているのがディーン、ランサーだ」

「初めまして、よろしくお願いいたします」


「で、彼はタレス。ルイの学友で、ソロンの――」

(睨むなって、だから、睨むなって)


 じゃあ、クエストに行こう。


 ◆


「ファイヤーボール!」

「ウィンドカット!」

「ロックランス!」


(ソロン、張り切ってるな。いいところ見せたいんだろ)


「どう? タレス。ソロンは?」

「はい、魔女も可愛いし。猫かぶってて、ギャップ萌えですね」

(うーん、聞いているの、そこじゃないんだけどなぁ)


 ◆


「おかえりなさい」

「ルイ、具合の方は?」

「あまり変わりません」

「そうか」

「それで、精霊さんがいうには」

「いうには」

「赤ちゃんができたと」


 ◆


 後日


「それでルイをパーティーから外すことにした」

「すみません。皆さんにはご迷惑をお掛けします」


「あのね。あたいからもあるんだけど」

「どうした? ソロン」



「再来月に、あたい、このパーティーから抜けるわ」



 ソロンは脱退する理由について語ってくれた。人生の目標の一つに、(自分より賢い子供を産む)という目標がある。その為のパートナーはタレスがいいと。(タレスが好きだと)タレスは再来月に王国魔法部隊に入ることが決まっている。なので、冒険者を引退してタレスのもと(王都)に行きたい。タレスは超優良物件なので魔法部隊の未婚女性が放っておく訳がないから。


「うちは、気持ちを尊重したい」

「私がレオンじゃなきゃイヤなのと一緒だから、ソロンさんに幸せになって欲しい」

「パーティーの加入脱退は本人の意思追放を除いてによるものだからな。ん? どうした? ディーン」


「ここを引き払って、王都に活動拠点を移せばいいと、ボクは思います」


 ◆


 俺とルイは帰郷し、両親とルイの親父さんに挨拶にいった。子供ができたことと、王都に移り住むということを。


「いやー、めでたいですな」

「孫の顔を見れると思うとな」

「王都じゃなく、こっちに戻ってくればいいのに」

「仕事の関係だから、しょうがないだろ」

「はははははは」


 ◆


「よし、探すわよ。みんな気合い入れてね」


 三人は特にソロンは歩き回って物件を探し、希望する条件に近い、物件を見つけた。

(オーナーとの家賃交渉もソロンは頑張ったようだ)


 ◇


 そして俺は戻ってきて、タレスに会い、気になっていることを聞いた。


「タレス、ソロンの好きなところ三つ挙げるとしたら、どんなところ?」


「賢いところと、可愛らしいところと、ギャップがあることですね」

(この質問、四番目に好きなところが本音。さあタレス君、教えてくれ)


「あと、好きなところを一つ挙げるとしたら?」

「そうですね~。大きくて素敵な胸ですかね~」

(よかったね、ソロン。ルイから聞いたよ、この脂肪の塊、デメリットしかないって)


 ◆


 後日、学園にて、ルイとタレスは卒業式を迎えた。卒業生代表はタレスがやったそうだ。



「おはよー、タレス」

「おはようございます。レオン」

「タレス、今日は、いい日にさせるからな」

「??」


 え? なんで朝っぱらから俺とタレスが挨拶しているかだって? タレスは、次の入居者の為に、一週間ほど予定より早く宿舎を明け渡したそうだ。(真面目だね)

 王国魔法部隊に入るまでの間、宿屋暮らしをするつもりだったが、ルイの提案で、その期間だけ一緒に住もうと。誰も反対することなく(反対したらソロンになにされるか)今にいたった訳だ。


「そうそう、明日、送迎会やるから、昼前に買い物いく」

「わかりました」



「じゃあ、主賓はゆっくりしててね。あと、一人にさせるわけにはいかないから、ソロンもお留守番ね」

「えっ」

「じゃあ、行くわ」「行ってくるね」「行きますか」


「ソロンさん、これ」

「??」

「お香だから使ってね」

「!!」


「あっ、そうそう、夕方くらいには帰れると思うから、お留守番よろしく」

「っちょっと、待って」


バターン


「……」

「二人っきりになっちゃいましたね」

〔レオン、そういう事か。お膳立てしてくれたのか〕


「そ、そう」

「そういえば、おうちデートは初めてですね」

「そ、そうだわね」

〔ルイのやつ、心の準備しとけってこの事だったのね〕


「せっかくだから、そのお香焚いてみます?」

「は、はい」

「ここだと、香りが分散しすぎるので、僕の部屋か、ソロンさんの部屋で焚きたいなと」

「えっ」

「イヤですか?」

「い、いやじゃない」

〔ど、どうしよう。あんなことになるかも〕


「じゃあ、僕の部屋でいいですか?」

「……はい、お願いします」

〔こういうの。あたい、初めてなのよ……やさしくしてくれるかな〕


 ◆


 夕方


「ただいまぁ」

「お留守番ありがとう」

「これ、アイス、ふたりの分」


 そこには、タレスの左腕にしがみついている、うっとりとしたソロンがいた。

(よくやった! タレス! それでこそ男だ!)


 ◆


 翌日


「じゃあ、タレスの入隊を祝って」

「「「「「かんぱーい」」」」」


 こうして、タレスは祝福されて、この家をあとにした。

 そして「剣聖騎士」は王都を拠点にして、活動を始める。

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