第8話 前衛四人ってなんなんだよ!

 タレスが入隊した後、「剣聖騎士」の今後の活動どうするかをミーティングした。

(タレスは凄かったからな、段違いとは言わないまでも、攻撃のバリエーションや、敵に合わせた威力調整とか上手かったもんな)


「それで、活動は週二回。一泊して行うクエストにも対応できるよう、リズムを作っていく」

「あたい、一人でも後衛が大丈夫なように、休みを多めにするわけね。安定してクエストを行えるように」

「そう、ソロンの火力が強いから、ジャンヌの回復魔法が少なくてすんだ」


「そうなんですね、レオンさん」

「ソロンさんは、このパーティーの要なんですね、前にいたから、分からなかったです」

「そういうこと」


 王都での「剣聖騎士」の活動は順調に滑り出し、クエスト成功率もかなり良かった。

 そして、半年後、急な変化が訪れる。



「どうしたんだ、タレス。今日は仕事じゃないのか?」

「そうですが、皆さんに大事なお話がありまして」


 みんなをリビングに集めて、タレスの話を聞く。


「今日、北の防衛線に一年間いくよう、辞令がおりました」

「えっ」


 ソロンは驚いている。


「タレス、確か北って」

「はい、魔族領と隣接しているところです」

「「「……」」」


 西の防衛線は魔法部隊の方が強力なので、死者はほとんどでないが、北は。


「「「……」」」

「なので、お世話になった皆さんに挨拶「イヤーー!」」

「イヤよ、タレス。行かないで、お願い」

「……」

「あたい達のために残って――お願い」

「えっ、あたい達って、じゃあ」

「そう、ルイの精霊が教えてくれた」


 ソロンはタレスの子を身籠っていた。


「タレス、出発は?」

「翌朝です」


「そうか……。どうする? ソロン? お腹の子の為にここに残るか、ついて行くか」

「レオン、魔法部隊の家族は行けないのよ。被害者を最小限にするために」


「タレス、そうなのか?」

「そうです」

「わかった。せっかくだから、一緒に夕食でも」

「はい」


 こうして、タレスと食事をとる。無事で帰ってくることを祈って。

(ソロンはクエスト無理だな。精神状態考えても)


 ◆


 俺とジャンヌとディーンで、メンバー補強について話し合った。


「レオンさん、ソロンさんみたいに攻撃力の高い魔法使い探しますか?」

「そうだな、それか前衛がきつくなるけど回復職だな」

「回復職入れたら、うちが前に出るんですね」

「それなら両方探した方がいいですね」


 俺達はギルドに行き、知り合った冒険者に相談した。


「よっ、ラスロド」

「おう、レオン」


 彼はラスロド、ジョブは騎士だ。ソロ単独プレイヤーで、なんでも王国騎士団を辞めたらしい。ここに留まる器じゃないって。


「それ、オレに相談するか?」

「パーティー組んでる奴に聞きづらいから、聞いてるんだよ」

「まあ、攻撃力の高い魔法使いなんて、Aランクパーティーとかに入っているよ」

「そうだよなぁ」

「回復職は、そう多くはいないし、もうどこかのパーティーに入っているしな」


 俺は頭を搔きながら、ジャンヌの所に行く。


「レオンさん、どうでしたか?」

「やっぱり、いないな」

「どうしましょう」


 そんなことを話していると、一人の男が来た。


「失礼するぞ、パーティーメンバーを探していると聞いたが?」

「はい、あなたは?」

「吾輩はトドー、ナイトだ」

(うーん、前衛か~。ん? ディーン、ジャンヌ、そんな目をキラキラさせて)


「ボクはディーン、ランサーです」

「うちはジャンヌ、聖騎士です」

「ランサー? 聖騎士? ナイト? 知らんな」

(おまえ、ナイトだよな)


「レオンさん、ナイトですよ! ナイト!!」

(あぁ、ディーンは憧れているのか)


「うちより凄いんですよ!!」

(ジャンヌ、ナイトは騎士だから、聖騎士のお前の方が凄いよ)


「じゃあ、これからよろしく」

(トドー、入る気満々だけど、まだ入れてないぞ)


「俺はレオン、剣士だ」

「剣士か、ふんっ」

(あーぁ、完全に見下せれてる)


「俺達は後衛を探しているんだ、だから」

「よかったな、吾輩が後衛で」

(あぁ、いっちまってる)


「いいですよね、レオンさん!!」

「こんな凄い人、逃すなんて、勿体無いですよ。レオンさん!!」

(こいつらも、いっちまってる)


「帰るぞ」

(って、なんで三人で談笑しているんだよ!)


 ◆


「ってことが、あったんだよ、ソロン」

「後衛なんていないし、もう、いっそのこと前衛脳筋軍団しちゃえば?」

「それなら三人の方が、まだマシだ、指揮しやすいし」

「あたいが復活することを、ちゃんと考えていないでしょ」

「どういうこと?」

「回復職か中衛を強化でいいんじゃないかと、あたいは思うよ」


 ◆


 俺は二本の木刀を携えて、ギルドへ向かった。


「なんだこれは?」

「トドー、俺はパーティーに入れるって認めていないんだ」

「この木刀で戦えと」

「そう、俺に勝ったら入れてやる」

「ふん、元王国騎士団もなめられたもんだな」

「へー、騎士団にいたのか」


「一週間でクビになったがな」

(どうやったら一週間でクビなるの? 教えてくれよ)


「いくぞ!」

「来い!」


 十数分で勝負は決まった。俺の木刀が攻撃に耐えきれず折れたからだ。


「やはり、大したことないな、剣士だけあって」

(トドー、あなた、顔が痣だらけですよ。俺無いよ)


「約束だ。認めよう」

「当たり前だ。おい、そこ女子おなご、ジャンヌと言ったな」

「は、はい」

「吾輩の剣さばきを、よく観ていたみたいだが」

「はい」

「今夜、宿屋に来れば教えてやるぞ、ベッドの上でな」

(完全にセクハラだよね)


「いえ、大丈夫です。レオンさんで間に合っています」

(ジャンヌ、誤解をうむ発言はやめてくれ)


「そうなんですか、ショックです……ルイさんに伝えます」

(ディーン、そろそろジャンヌの脳みそを把握してくれ、ネジが外れていることを)


 ◆


「これから、クエストをやろうと思う」

「「「……」」」

「四人とも前衛だから、俺がひとつ下がって、三人が連携しているかみるよ」


 ◆


「うりゃー」

「おらおら、なめてんのかー」

「はーーっ、はっ!」


 トドーが切り込み隊長をやってくれて、アーチャー系やメイジ系を仕留めてくれる。それを、サポートするかのようにジャンヌとディーンが敵を倒し、道を作る。

(これ、後衛いなくても、いろんな敵、対応できそうだな)


「ふっ、たいしたことないな」

「うち、楽しかったよ」

「余裕でしたね」

(回復魔法もってるジャンヌを下げたいところだが、やめといた方が無難だな)


「じゃあ、今日は終わりにしよう」


 ギルドへの帰り道、ジャンヌに耳打ちする。


「俺らの家を教えたら、ジャンヌお前、やられるぞ」

「!! 危なかったです、気がつきませんでした」


 ディーンにも同様のことを耳打ちする。


「わかりました。ルイさんやソロンさんもいますしね」


 ◇


「よし、三日後、ギルドで待ち合わせしよう」

「吾輩に連絡先を教え――、ギルド集合で大丈夫か」

(あぶなかった~)


「ジャンヌ、ここが吾輩の宿屋だ。いつでも来ていいぞ」

「は、はい」

(無難だな、その答え)


 こうして「剣聖騎士」は前衛だけの脳筋軍団となった。

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