第3話 ポーター ディーン

 俺が解散宣言をしたあと、二人に腕を掴まれ、泣きつかれた。このパーティーが無くなると行き場所が無くなるからって。

(じゃあ、事実を曲げて、あんなこと言うんじゃないって)


 呆れていたが、ミーティングをすることに、今度は遠征してダンジョンへ行こうと。ダンジョンでは、どんなことが起こるか分からないので、俺は一度実家に帰ることにした。あの二人は実家に挨拶しに行くんだって、気合を入れていたが丁重にお断りをした。

(結婚する相手だって誤解されるでしょ)


 実家に帰るとルイから手紙が届いていた。要約すると、

『早くレオンに会いたいです。一緒にいられないのは寂しいです』

(そうか、学生寮暮らしは精神的にきつくなってくるのか)


 ルイに手紙を出す。『あと一年経てば、一緒に遊べるよ。俺は楽しみにしてる』と。


 両親とルイの親父さんに挨拶をして、馬車に乗り込む。着いてすぐにギルドへ向かい、二人と合流して、遠征先の宿舎へ移動する。


 ◆


 ダンジョンアタックの初日、本当にきつかった。進めば死体があり、進めば死体がある。残された荷物から魔石だけを拝借し、早めに切り上げた。


 ダンジョンの近くのギルドで軽めの夕食を取りながらミーティング。深く潜るか、浅いところで安定したアタックを続けるか。


「どうしようね」

「あたいは進むべきだと思う、じゃなければ何のために此処に来たのか」

「うちもチャレンジしたい、どのくらい自分が力を付けているのか知りたい」

「でもさ、そうなるとテントとか持っていくの、三人じゃきついでしょ」


 そんなことを話していると、すすり泣く音が聞こえてきた。


「ん? どうしたんだろ? ちょっと行くわ」


 近づいて、泣いている子に話しかける。


「君どうしたの?」

「……」

「悩みがあるなら、あそこにいる二人のお姉さん達も聞いてくれると思うから」


 その子を連れて、二人のもとへ行く。


「この子の話を聞きたいんだけど、落ち着くまで時間がかかるかなと」

「あたいの分食べていいよ。そしたら元気になるから」

(さすが、賢者)


 話を聞くとポーター荷物持ちで生計を立てていたらしいが、ダンジョンの深いところは行けないと言い続けたら、仕事が無くなったと。とっくにお金はつき、宿に泊まれず、ギルドの中で雨風をしのいでいた。そして食べることができなくなり、もう死ぬしかないと。


「うぐっ、適性の儀でランサーって言われたけど、何が何だかわからなくて」

「うん」

「うぐっ、ボクにはこれしかできなくて」

「ランサーか……、ソロン知ってる?」

「知ってるわ。槍騎兵のことよ。槍がメインの武器だわ」

「ソロンさん、槍ですか?」

「そう槍」

「とりあえず体力、落ちてるから、一緒に宿舎へ連れていこう」 



 ギルドから宿舎に戻る。ポーター荷物持ちの彼の名はディーン。とにかく彼にはゆっくりして欲しいので、ベッドで休んでもらうことに。


「で、どうするの? リーダー」

「彼に槍を持たせて一緒に戦ってみたい。攻撃ができないから深く潜れないと思う」

「はぁ、あたいは反対。ここまで来て、なんでボランティアしなきゃいけないのよ」

「じゃあ、ポーター探して深く潜る? 育てた方がいいと思うけど」

「うちはソロンさんと同意見です。他にもポーターの方いると思うので」


「わかった。ポーター探そう。でも彼はここで休ませる。食事代は俺がもつ」

「はぁ、お人好しなんだから――まあ、いいわ、ここに泊まってもらっても」


 ◇


 ギルドに行き、ポーターの人がいないか相談する。二人いると、


「ただ」

「ただ、なんですか?」

「ここのダンジョンに初めて来るパーティーを狙って、荷物を持ち去る噂があるの」

「!!」

「そのパーティーは帰って来ないから、噂の真偽がわからないの」

「なるほど、信頼できる人にお願いしないと、まずいと」


「聞いてたわ、おそらく後ろからやられるんでしょう」

「怖いですね」

「ポーター探しは保留にして、今日は深く潜れないから、いっそのこと休みにしようと思う」

「うち、ポーション類、補充します」

「あたいは、宿屋で魔術書読むわ」


 ◆


「ボク、深く潜ります」

「「えっ」」

「ゆっくりしていていいよ。ご飯もよく食べてさ」

「いえ、一度、死んだ身なので、恩返ししたいと」

「わかった。じゃあ、護身用に短めの槍を一緒に探して買おう」


 こうして、ダンジョンアタック二回目。ディーンの案内で、魔獣が結構でたが浅い層は何の問題なく進めた。そしてディーンも知らない階へ、パーティーの火力が強いので問題はない。ただ、帰りの道も考えて、行きはちょっと無理するくらいにした。まぁ、ディーンの案内で帰りも余力があったけど。


 ダンジョンアタック三回目。二回目よりさらに潜ると三組のパーティーが全滅していた。


「あたいは余力あるよ、もっといける」

「うちも大丈夫です」

「それは危険だ、階が変わって魔獣のレベルが、さらに上がると思う、一旦戻ろう」


 無事に帰って、ギルドで作戦会議。


「おっ、ディーンじゃないか」

「野垂れ死にしたと思ったよ」

「まぁ、腰抜けだから、しゃーないけど」

「まぁ、死なない程度に潜りな」

「ははは、そこまで行かねぇから」

「ちげぇねぇ」



「気にしなくていいわ。信頼できる人だもの」

「そうですね」

「俺としては、パーティーに入れたいけどね」

「うぐっ、ありがとうございます」


 ダンジョンアタック四回目。ビバークポイントを決めて、三日間潜ることに。初日は二回目にアタックした階にまで、二日目はさらに潜り、ビバークポイントに戻る。三日目は復路。

 二日目、大きな扉まで来る。


 「ボスだな」

 「あたいは戻る、チャレンジするのは、もう少しレベルをあげてから」

 「だな、予定より早いけど戻ろう」


 こうして、無事に四回目も帰ってこれた。


 ◆ 


 「あのパーティー、一週間帰ってないってさ」

 「ダメだろ。ポーターの奴も可哀そうに」


 ◆


 「あたいはこれ以上潜るのは意味がないと思う」

 「うちも、今の実力がわかったから、大丈夫です」

 「じゃあ、帰ろうか。ディーン、一緒についてくるか?」

 「お願いします。ここにいても仕方ないので」

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