第2話 神官ジャンヌと魔女ソロン

 あれからスワンさん疫病神を避けながら、ソロでクエストを成功させては、実家に帰り、農業の手伝い、クエスト成功、手伝い、クエスト成功という日々繰り返していた。

(今、考えるとクレイジーだね)


 ある日、ギルドで休憩していると。


「あの~、少しお時間もらえませんか?」


 見ると神官服を着た。同じ年くらいの女の子がそこにいた。


「いいよ」


 女の子を椅子に座らせ、話を聞く。


「あの~、うち、お金が必要で、クエストをやりたいんですが」

(そうか、神官一人だと厳しいのか)


「体売るの嫌なんで、一緒にパーティー組みませんか?」

(そう言われたら、組むしかないでしょ)


「俺はレオン、ジョブは剣士だ」

「うちはジャンヌといいます、ジョブは聖騎士です」

(俺の周りには、まともな奴はおらんのか)


「パーティーを組むのは問題ないのだが、取り分で揉めたことがあってね」

「そうですか」

「先に取り分を決めたいんだが」

「うち八で、あなた二でいいですか?」

(オーマイガー!)


「お金、必要で、体売りたくなくて……」

(噓泣きしてやがる)


「はぁ、五:五な。じゃなければ、パーティー組まない」

「えっ」

「じゃあな」

「あの、うち、ヒール使えます」

(これがいいと思うのは、感覚がずれてきているのだな)


「五:五な」

「……」

「五:五」

「わ、わかりました」


 ◆


「おりゃー、どんとこい、なめてんのかー」

(こいつ、一人で十分じゃん。俺、何もしてないし)


 ギルドに戻り、


「えっ、全部いいんですか?」

「あぁ、俺、一体も倒していないし、お金必要なんでしょ?」

「あ、ありがとうございます」

「次からは五:五でな」

「はい、あの~」

「ん?」

「今度、体でお返ししますね」

(体売りたくなかったんじゃないかい!)


「そんなこと、しなくていいよ。大丈夫だから」

「わかりました。それと……」

「なに?」

「パーティー申請しませんか?」


 どうやらパーティー申請をすることが必要だったみたいだ。

(分からないことが多いね。無知って怖いな)


 ◆


 ジャンヌとパーティーを組んで、次どのクエストをやるかミーティングしていた。


「なんで聖騎士なのに鎧装備しないの?」

「あの~その~」

「?」

「鎧だと巨乳だからが苦しいんです」

(ごめんね。ジャンヌ)


「そうか、神官服の方が動きやすいのね」

「はい」

「でも、まあ、ヒール使えるし、いろんなパーティーから誘われたんじゃないの?」

「……はい」

「俺なんかじゃなくても、組めたんじゃ」

「誘ってくれるパーティー、みんな体目当てなんです」

(ごめんね。ジャンヌ)


 そんなやり取りをしていると、向こうの方で騒がしい音がする。


「ちょっと、離してよ」

「いいじゃないか。俺達、明日死ぬかもしれんし、今日は一緒に楽しもうぜ」


 掴まれていた腕を振りほどいて、魔女の女がこっちに来る。

(こっち、来んな!)


 そして、俺達を盾にしてテーブルの中に、逃げ込む。


「おっ、てめえ、邪魔すんのか!」

(はい、巻き込こまれ)


 三人の男達が近寄り、


「おっ、この娘もいいじゃん。俺達と一緒に夜、楽しもうぜ」

(あぁー、しょうがない、やるか)


「おまえら、馬鹿なんか? 猿みたいな脳みそしやがっって」

「何? やろって、ぐぶ」


 俺は斧を使って男を叩きのめす。(ちゃんと刃じゃない方使って殴ってるよ)


「や、ぐぶ」「ふざけん、ぐぶ」

(はぁ、こりゃ、明日死ぬかもしれんわ)



「ありがとう。助かったわ」

「どうってことないよ」

「あたいはソロン、ジョブは賢者。あなたは?」

(何で、魔女の恰好している。俺の周りにはまともな奴おらんのか)


「俺はレオン、ジョブは剣士だ」

「う、うちはジャンヌ、ジョブは聖騎士です」

「へー、二人でパーティー組んでいるの?」

「そうだが」

「あたいパーティー組もうとしてもダメなんだよねぇ」

「なんでだ?」

「体目当てだから」

(冒険者って、そんな集まりなのね)


「そうなのか」

「ねぇ、あたいパーティーに入っていい? 二人とも前衛でしょ?」

「確かに前衛だが、そもそも大丈夫なのか? 女ばかりのパーティーの方がいいんじゃない?」

「本当はそうしたいけど、女性冒険者ほとんどいなくて無理なのよ」

「どう思う? ジャンヌ」

「う、うちはいいと思います」

「入る前に一つ聞いていいか?」

「いいわよ」

「賢者なのに、魔女の恰好するのはどうしてだい?」

巨乳だからの上があいていないと苦しいのよ」

(ごめんね。ソロン)


  ◆


 パーティーの加入申請をおこない。斧使い剣聖神官聖騎士魔女賢者という何とも奇妙なパーティーとなった。

(周りの視線が痛い)


 三人でミーティング中、


「あなた達のパーティー名って何?」

「パーティー名?」

「えっ! 無いの?」

「無いな。何かまずいのか?」

「パーティー組めていないけど、あたいの知っていることは、名前が無いと指名依頼が来ないのよ」

「そうか、じゃあ、決めないとな」


「う、うち、考えがあります。名は体を表すっていうので」

(大丈夫かな、頭のネジ外れてるからな……)


「うちとソロンさんがいるので『巨乳ちゃんず』はどうでしょう?」

(ネジが外れてるんじゃなくて、脳みそが無いのか……)


「それなら、あたい『美乳ちゃんず』の方が素敵だと思う」

(うん、パーティーから脱退しよう)


「じゃ、俺、帰るわ」


 二人に掴まれ、椅子に座らさせられる。

(こんなバカ力あるんなら、俺いらないでしょ)


「な、なんで帰るんですか!」

「そうよ。パーティー名決める大事なミーティングなのに」

(こいつら自覚ねぇ)


「あのなぁ、そんな名前だと、エロい依頼しかこないぞ」

「「……」」

「ったく。パーティー名は一旦保留にして各々持ち帰って考えてこよう」


 ◆


 後日


「うち、ちゃんと考えてきました~♪ 二つも!」

「あたいも二つ考えたよ~♪」

「どれどれ見せてみな……」

(全部、卑猥過ぎ、あぁもうヤダ面倒くせぇ)


「二人とも却下」

「「え~」」

(お前ら、体目当てのやつが、ガンガンくるぞ)


 結局、俺が考えた「剣聖騎士」に落ち着いた。


 ◆


 ジャンヌとソロンと共にパーティーを組んでから一年が経った。


「レオンさん、「剣聖騎士」のことを書きたいって記者が来ましたよ」


 受付嬢にそう言われ、何故だろうと思ったら、どうやらこのギルトでは「剣聖騎士」がクエストの成功率が一番高く、他の冒険者達からも一目置かれる存在になり、噂が広がったようだ。

(一目置かれる存在っていうのは建前で、本当はあの二人会いたいのだと思う)



 そして、インタビューの日がやってきた。


「初めまして、記者のキノと言います。本日はよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


「では、早速、おふたりのスリーサイズを教えてください」

「は、はい。上から「ストーッップ!!」」

「その質問はNGです。冒険者活動とは、まったく関係ないでしょ」


「おほん、失礼しました。まずは、名前とジョブを教えてください」


「はい、俺はレオンって言います。ジョブは剣士で、このパーティーのリーダーをしています」


「うちは、ジャンヌといいます。ジョブは神官です」

(ジャンヌよくやった、ひやひやしたよ)


「あたいはソロン、ジョブは魔法使いです」

(おーけーおーけー、魔女でもよかったけど)


「三人は同じ年ですよね?」

「はい、そうですが」


「パーティーを組んだ、経緯を教えて頂きたいのですが」


「はい、この二人とは面識は無く、ギルドで初めて会いました」


「う、うちは悩んでいることをリーダーに相談しました。お金なくて、体売るのがイヤで」

(懐かしいなぁ)


「不特定多数の男に抱かれるなら、俺の専属奴隷にならないか「ちがーーう!」」

(勘弁してよ、ジャンヌ、事実を曲げないで)


「あたいは、知らない冒険者の人に絡まれて」

(うん、そうだった。巻き込まれた)


「リーダーから、助けたんだから、今夜一緒に過ごしたい「ストーッップ!」」

(それは、絡んできた、冒険者の奴らでしょうよ)


「ほう、そうなんですね。リーダーはスケコマシだと」

「「はい」」

(もうヤダ、帰りたい)


「それなのに、なんでリーダーについて行くんですか?」


「「リーダーはいつも褒めてくれるんです」」

(ん? 俺、そんな、褒めていないぞ)


「「素敵な巨乳だって」」

(もう何も言うまい)


「じゃあ、最後にリーダーから、ひとこと」


「はい、このパーティーは本日をもって解散します」

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