1-8【目撃】  


 

 宮部の耳に様々な声が飛び込んでくる。

 

「ほら見て……」

 

 どきりとして声の方に振り返るが、二人連れの派手な女たちはこちらの方など見もせずに人の流れに乗って遠ざかっていく。

 

「おい……!!」

 

 今度は背後でどすの利いた野太い声が響き、思わず宮部の身体が跳ねた。

 

 恐る恐る視線を上げると筋骨隆々の男が仲間の胸を小突いて大笑いしている。

 

 宮部は安堵のため息をついてから、再び顔を上げた。

 

 道行く人々の視線が一様に自分に向けられているような気がして怖い。


 耳に入る全ての笑い声が、自分を嘲笑っているように感じられる。


 

 道行く人々の顔をなるだけ見ないように宮部はうつむき加減で足早に歩いた。


 薄っぺらなペルソナの裏側は簡単に透けて見えてしまう。


 そこにあるのは死んだ魚のように淀んだ目だ。



 笑いながら、ふざけながら、自分のことをからかう級友達の目を思い出して宮部は唇を噛み締めた。




 ふと焦げくさい臭いに顔を上げると、焼け落ちたテナントの周りに野次馬が集まっている。

 

 その中に自分と同じ制服を着た少年の背中を見つけて、宮部は思わず足を止めた。


 よく見るとその後ろ姿は同じクラスの足立アキラのようだった。



 ……休み時間も参考書ばかり読んでいるガリ勉……


 そのくせ受け答えは堂々としていて、教師たちの評価はすこぶる良い。


 そんな優等生がどうしてこんな場所に……?



 宮部がそんな風に訝しんでいると、視線に気づいたのかアキラはゆっくりとこちらを振り返った。

 

 どくん どくん

 

   どくん  どくん

 どくん

 

   ……!!

 


 振り返った少年の白い顔には深く暗い亀裂が縦横無尽に走っていた。

 

 そのひび割れ顔の奥に、暗い暗い瞳がどんよりと浮かんでいる。


 普段目にするアキラとは似ても似つかないその顔に、宮部は思わず息を呑んだ。


 


 少年はパキパキと表情を崩しながら口を開けて、口内の闇を露わにする。

 

 口の中を埋め尽くす命を吸い込むような虚無の気配に、宮部は思わず悲鳴を上げて後ずさると、全速力でその場を逃げ去った。

 

 


 *

 


 

「俺は祓魔師の犬塚だ。お前らに聞きたいことがある。お前らの学校に最近様子が変な奴いないか? 虐待されてるって噂でもいい」


 

 ヤンキー座りの犬塚を囲むように整列する不良少年たちが互いに顔を見合わせた。

 

 その中のひとりが勢いよく手を上げる。

 

「はい! はい! それオレっす……!! 父ちゃんアル中で毎晩暴れるし、母ちゃんはどっか遊びに行って帰ってこねえっす!!」

 

 それを聞いた別の少年も満面の笑みで口を開いた。

 

「オレも兄貴に殴られて前歯折れた!!」

 

 その後も少年たちは口々に身の上に起きた不幸話をゲラゲラと笑いながら披露していく。

 

「そういうことっすよ!! 俺達全員、虐待されてるけど、別に普通っていうか?」

 

 リーダー格の少年が犬塚に向かって誇らしげに言う。

 

「そうか。邪魔したな」

 

 犬塚はそう言って立ち上がると名刺を取り出して少年たちに渡した。

 

「なんかヤバい事が起きたら連絡してこい。今回の話じゃなくてもいい。ただし……」



「悪戯だったらぶっ殺すからな?」


 そう言って笑う犬塚の目が笑っていない。



「うっす……」



 再び緊張の面持ちで頷く少年たちに向かって犬塚はと笑顔を見せた。

 

「じゃあな。あんまり馬鹿なことばっかりすんなよ?」

 

 そう言って立ち去ろうとする犬塚の背後で、一人の少年が思い出したようにつぶやいた。


「なあ……そう言えばさ……あの時の変じゃなかったか?」

 

 その言葉に犬塚と真白がぴくりと反応する。

 

「あれって何だよ?」

 

「ほら……あの時の

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