1-4【偽曲】

 

 教員用の駐車場に場違いな黒いビートルが停車する。


 窓から外を眺めていた数人の生徒と教員がそれに気付き、ざわめきはすぐに学校全体に伝染していった。


 車から降りるなり真白が犬塚に向かってつぶやく。

 

「先輩の車、捜査に向いてないんじゃないですか? 目立ちすぎです……」

 

「うるせえ……こいつとリボルバー譲れねぇんだよ……!!」


「じゃあわたしの捜査方針や意見もちゃんと聞いて下さい。今後はさっきみたいに強引に無視するのも無しです!!」


「何でそうなるんだよ!?」


 犬塚が顔を顰めると、真白が勝ち誇ったように答えた。


「車とリボルバーは譲れないんですよね?」 

 

「うるせえ……!! 早く来いよ!! 新米!!」


 そう言って犬塚はずんずんと校舎の方へと歩いていった。




 そうこうする内に駆けつけてきた二人の男性教員に、犬塚と真白はロザリオを掲げてみせる。

 

「極東正教会、魔障虐待対策室所属、壱級祓魔師エクソシストの辰巳真白です」

 

「同じく祓魔師の犬塚だ……」


 犬塚は苦々しい表情でぶつぶつと名乗った。 


「エクソシスト……」

 

 恰幅のいい初老の男性職員は怯えたようにつぶやくと、窓から覗く子ども達の視線に気づいて声をひそめて言った。

 


「子ども達の目もあります……詳しいお話は校長室で……」

 

 

 男はそう言って二人を校舎の中に招き入れ、校長室へと案内した。

 

「申し遅れました。本校で校長をしております金沢と申します」


「教頭の野津のつです」


 二人はおどおどしながら頭を下げた。

 

「早速ですが……どういったご要件で……? うちに限って児童を虐待したりということは……」

 

「あんたらに興味はない……近くで魔障反応が出た。被害を受けてるガキを探してる」

 

「ちょっと……言い方……!!」

 

 真白は肘で犬塚を小突いて言った。

 

 しかし金沢と野津は犬塚の言葉に安堵の表情を見せて言う。

 

「ああ……そういうことでしたか……てっきり我々の中に悪魔憑きがいると疑われているのかと……近頃は教師が悪魔憑きになって事件を起こすケースも増えてますからね……我々も神経をすり減らしてるんですよ。まったくお恥ずかしい……野津先生、誰か心当たりのある生徒は?」


「そうですね……それなら二年の宮部君か三年の桜庭さんあたり、どちらもご両親に少し問題が……呼び出しましょうか……?」


 それを聞いた犬塚の眉間に、一瞬だけ深い皺が浮き出て消えたのが真白の目にとまる。



「いいえ。普段の様子が見たいので教室に案内していただけますか?」

 

「きょ、教室に行くんですか!? 他の生徒達もいます。保護者の方々にも噂が広まる可能性が……あまり目立った行動は……」


 慌てた様子で話す金沢の言葉に、犬塚はとソファから立ち上がると、ポケットに手を入れたまま二人ににじり寄った。

 

「おたくら……さっきから見てると自分の心配ばかりだな……生徒が魔障に殺される可能性があるんだぞ……!? ガキの命と体裁、どっちが大切なんだ……!!」

 

「そ、それは……」

 

 怯えて口ごもる二人に真白が助け舟を出した。

 

「こちらも他の生徒に心理的な圧が生じないように、目立たない行動を心がけます。ね? ?」

 

 そう言って犬塚に微笑む真白の目は笑っていない。


 犬塚はそんな真白の態度に舌打ちすると、二人を睨んで凄んだ。

 

「そういうことだ……!! そのガキどもの教室を教えろ……!!」

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