Case1.仮面家族

1-0【被】

 

 壁中に貼り付けられたが、あるはずの無いまなこでじっとこちらを見つめている。

 

 口元に浮かんだ微笑が薄気味悪い。

 

 秒針の音が嫌に大きく感じる。

 

 素足の裏から伝わるヒタヒタという冷たい床の感触に、少年の背筋が思わずぶるりと震えた。

 

 この時間なら、誰も起きていない……

 

 早く逃げ出さなければ……

 

 はやる気持ちを抑えて、なるだけ音を立てないようにリビングを抜け、廊下に続くドアをそっと開くと……

 

「何してる……?」

 

 ドキリと心臓が跳ねた。

 

 恐る恐る振り返ったが、常備灯のか弱い明かりに照らされたリビングには誰もいなかった。

 

 いるのは相変わらず壁一面に貼られたお面達だけ。

 

 しかしその口元は笑っていない。

 

 どこか怒っているようにも見えて、少年の呼吸が浅くなり、いつしか心臓の鼓動が体内に響き渡り始めた。

 

 それは敵の接近を知らせるソナーのように間隔を短くしていく。

 

 少年は音が立つのも構わずに廊下を全力で駆け抜けようとした。

 

 狭い廊下の両脇には、やはりお面が貼り付けられている。

 


 ど……どこからともなく……


 クスクスと嘲笑う。


 こrえが聞kこえれくるkrくる狂う。


 

 ノイズが走った世界に少年は戦慄する。



 嘲笑が耐え難い響きになって少年の脳内を蹂躙した。

 

 じゅるりん……蹂躙……じゅ。じゅ。呪。呪う蹂躙した舌。

 


「い、嫌だ……!! 僕は絶対に嫌だああああああああああ……!!」

 

 少年は最後の意識を振り絞って叫んだ。

 

 滅茶苦茶に振り回した両手がぶつかり、壁の仮面がガラガラと音を立てて廊下に散らばるのも構わず少年は走る。


 

 少年が長い廊下を走り切り、息も絶え絶えドアノブに手を掛けると、背後に異様な冷気を感じた。

 


 振り返ってはいけない……


 

 そう頭の中で何度も叫んだが、身体は彼の意に反してゆっくりと背後を振り返る。

 

 

 

        整列する

 

 仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面

    仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面

 仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面

    仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面

 仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面仮面


 

 仮面達は一斉に口角を吊り上げると、少年に向かって次々と襲いかかっていった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る