第5話
どこまでも可愛く綺麗で純粋な君みたいにはなれっこない。
裸足の彼女は草の上をくるくる爪先立ちで回り始める。その度に足元の花びらが舞って彼女を包み込み、彼女の腕にある花束がきらきらと光る。VRMMOならではの世界観に、出来事に、その眩いほどの美しさに、僕はひゅっと息を呑んだ。
どこからともなく美しいオーケストラの音色が聞こえてくるような錯覚を覚えながら、僕は彼女のクラゲみたいにふわふわ泳ぐワンピースの裾に視線を落とした。白く長い足を隠すように、けれど彼女が舞うたびに外へと追い出されてしまう裾は、必死に彼女にしがみついているみたいで、僕はなんだか親近感を抱いてしまった。
彼女が舞い踊る理由なんて存在していない。
彼女はいつも舞いたい時に舞って踊りたい時に踊る。ただそれだけだ。本能が踊れと舞えと叫ぶって彼女は前に話していた。
「楽しい?」
「うん!」
ぴょんと足を大きく広げて高く飛んだ彼女は、重力を感じさせない動きで地面へと降り立つ。
「ねぇねぇ、あなたは踊らないの?」
「僕は踊れないんだ」
「そっかぁ」
一瞬寂しそうな表情をした彼女は、けれど次の瞬間には嬉しそうに笑ってまたくるくると舞い踊る。真っ白な布地がふわりふわりと舞っては戻り、戻りは舞っている姿は、控えめに言って美しい。けれど、どこまでも儚い印象を抱く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます