第6話
彼女が舞い踊るのに合わせて、小動物たちが彼女の周囲をぐるっと囲って走り回り始めた。ねずみとかリスとか猫とか子犬とかが一緒の輪になって走っているのはなんだか見ていて滑稽で、不思議な気分になる。
僕はそんな環境に感化されたのか否か、アイテムボックスを開いて楽器を取り出した。現実世界での能力値が比較的引用されやすいこの世界では、現実でできることは必ずと言って良いほどできる。そして、ゲーム内ステータスによって能力値がアップすることにより、現実よりも何事も上手に取り組める。
彼女の前で楽器を取り出すことは久しぶりだ。
ましてや弾くことなんて考えたこともなかった。
でも、今日だけは弾きたいと思った。今日だけで良い。今日だけは、昔みたいに弾けたらと希ってしまう。
ヴァイオリンと弓を握りしめた僕は、G線に毛を当てる。
「僕に従え」
目を閉じれば薄汚れて端々に破れの入ったクリーム色の楽譜が僕を包み込み、漆黒の音符が踊り始める。彼女が舞うように、踊るように、ふわふわ回転したり、激しいステップを踏んだり、華やかな音を鳴らせと、僕に主人公になれと、音符が叫ぶ。
ーーー五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い、五月蝿い!!
ぎぎぎっ!!
ひどい音が鳴って楽譜が破れ、音符が暗闇の中にどろどろと飲み込まれて消えていく。音が崩れて、リズムが崩れて、息が崩れて、何もかもが分からなくなって、目を瞑っているはずなのに視界が歪む。痛い、苦しい、痺れる、震える、………何が起こっているのか分からない。
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