第9話 いつから君は
ここ最近、配信ができてない。
理由は自分でもわかってる。
マイクに向かって喋ってて、その様を京川さんに見られたくなかった。
それは、嫌いだからとかではなく、単純に気恥ずかしかったんだ。
彼女の想いが本当のものであると実感すると、どうもいつも通りできない。
できないなら、そこは一つ一つ乗り越えていくしかないと思った。
一人でウダウダ悩んでたって、あまり意味はない。
誰かと意見を交わし、自分の思ってることをぶつける。
結局、悩みの解決の仕方なんて、どんなものであれこれしかない。
だから、俺はその日学校に行くと、真っ先に京川さんの元へ向かった。
いつもなら彼女の方から来てくれる。
けど、今日は俺からだ。
京川さんは一瞬目を丸くさせ、いつもみたいにいたずらっぽく笑む。
ただ、それは嫌そうだとか、攻撃態勢であるとか、そういうわけじゃない。
彼女なりに俺を受け入れてくれて、楽しそうに問うてくるのだ。
「どうしたのw」と。
「京川さん。ちょっと今時間ある?」
「え? 時間?」
言って、彼女は教室内にある掛け時計へ視線をやった。
ホームルームまで、あと十五分ほどある。
「うん。あるよ。大丈夫」
「もしかしたらホームルームまでの時間全部もらうかも。てか、もらう。友達とかには迷惑かけない?」
「それも……まあ」
言いながら、傍にいた友達の方をチラっと見る京川さん。
彼女の友達である牧川さんは、行ってきな、とばかりに手をひらひらさせた。助かる。
「じゃあ、ちょっとその辺の空き教室に行くから、付いて来て」
「りょーかい。あ。の前になんだけど、一つ聞いていい?」
「何?」
「中臣くんさ、最近どっか体調悪い? 家に帰っても元気が出ないとか、そういうのあったりする?」
さっきまでの小悪魔な表情は消え失せ、一転して真面目な顔で問うてくる京川さん。
その質問の意味は、瞬間的に察せた。
配信をあまりしてないから、大丈夫かと聞いてるんだと思う。
俺は首を横に振り、答えた。
「大丈夫だよ。元気が出ないとかはない」
「そうなんだ」
「うん。でも、ちょっと考え事ならしてる」
「へ? 考え事?」
「そ。今からそれを晴らしに行く。覚悟しといて」
「え、えぇ……?」
珍しく緊張した面持ちを作って、京川さんは歩き出す俺について来てくれた。
いったいどんなことを言われるんだろうってドキドキしてるんだろうな。
けど、そこに関しては気にしなくていい。
大丈夫。俺の方も死ぬほどドキドキしてるから。
ドキドキしてるのを悟られないよう、何でもない風を装うのに必死だから。
そんなことを考えつつ歩き、適当な空き教室の中へ入る俺たち。
本当なら鍵まで閉めたいところだけど、鍵なんてものはない。
そのまま話を始めることにした。
静かに息を吐き、空気を吸う。そして、しっかりと目の前の彼女を見やった。
もう迷わない。ちゃんと言葉にするんだ。
「京川さん」
「は、はい……。何かな?」
「単刀直入に聞きたいことがある。よろしいですか?」
「なんで敬語……? は、はい。よろしいです……」
そっちも敬語じゃないか、なんて今ツッコむのは野暮だろう。構わずに続けた。
「なら、言う。心して聞いて欲しい。そんで、正直に答えて欲しいんだ」
「いいよ。全然。中臣くんに嘘とかつかない」
「おっけー」
少しだけ間を作り、言葉にする。
「君は、いつから俺のことに気付いてくれてた?」
【作者コメント】
早いですが、次、最終話となります!
次回作も案が既にありますので、投稿していきます!
よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます