第6話 ドキドキとバクバク。いつもと違う京川さん
迎えた昼休み。
俺はいつもと違って非常にソワソワした気持ちで体育館裏まで行き、綺麗なコンクリートに腰を下ろした。
この場所の安定感はいつも通りだが、今日は後でここへ刺客がやって来るからな。
それも、俺が配信してる様を見せてくれながら、俺の配信の魅力を語ってくれるらしい。
ふぅぅぅ……。確実に厳しい戦いになってくるはず。気を引き締めないと。
そんなことを考えつつ、一人で軽く頬を叩いてると、向こうから声が飛んできた。
「あっ。こんなとこにいたw 中臣くんっ。来たよ~」
――来たか。来てしまったか。
可愛らしいお弁当バッグを手に持って、小走りで俺の方へ来る京川さん。
頭の中で戦いのゴングが鳴る。いざ、戦闘開始だ。
「げ、げふん。い、いらっしゃい」
「ぷふふっw いらっしゃいは草なんだけどw なんか緊張してない? 中臣くんw」
俺の真隣に腰を下ろしながら聞かれるのだが、俺は首を横に振った。
「し、してないよ! べ、別に女子とご飯食べるの一緒だからソワソワもしてないし、俺は……その……ふ、普段通りだし!」
「にゃはははっw 全然普段通りじゃないよぉ! カチコチじゃん! もう、リラックス、リラックス~」
言いながら、俺の肩を優しく触る京川さん。
戦闘開始からボディタッチとか威力がヤバすぎる。既にわが軍のドキドキゲージは四割ほど飛んで行ってしまった。こんなんで大丈夫なんだろうか。
「あ。でも~、中臣くんがそうなるのも仕方ないのかもw」
「ど、どういうことだよ?」
「え~w それは~w」
ニヨニヨ笑みを浮かべながら、京川さんは俺の耳に顔を寄せてくる。
相対的に体自体も密着する形になり、あり得ないほど心臓がバクバクいってた。たぶん俺、顔も赤いと思う。
「ど・う・て・い。……だからかな?」
「――!!!」
甘い吐息交じりに耳元をくすぐってくる煽り文句。
それはいつもならイラっとするものではあるものの、この時ばかりは体中の血液が沸騰するような、そんな威力を持ち合わせていた。
「あ……うっ……」
体は固まりに固まってたが、ギギギ、となんとか首だけを動かし、隣に座ってる京川さんの方を見る。
「……なーんてっ。冗談w 顔真っ赤じゃん、中臣くんw」
「はっ! あっ! えっ! う、うう、うるさいなぁ、もう!」
言って、俺は顔を逸らしながら熱を冷ます。
そんな俺を見てか、クスクス笑ってなぜか無言のままに俺との横の距離をわずかに詰めてくる京川さん。
焦り、慌てて彼女の方に顔を戻すのだが、京川さんも京川さんでちょっと赤くなった顔をしながら、「ん?」と小首を傾げてきた。
小悪魔なうえにあざと可愛い女の子。
もう俺、たぶんこれ生きて帰れねえわ。体内沸騰で蒸発死しそう。
ほんといつもならイラっとくるってだけのパターンが多めなのに、今日は辛くなってくるほど可愛い。
いや、元々容姿は説明不要なくらいに可愛いんだ。
そこをどうにかこうにかイラっとすることでギリギリ相殺させてたのに、今日はその煽りさえも可愛さを助長させるスパイスでしかない気がする。
いつの間にか罵られて悦ぶドMにでもなってしまったのだろうか、俺……。
このまま彼女のペースに飲まれてたら気を失ってしまう。
そうなる前に、慌てて話を修正することにした。雰囲気がマズい。
「あ、え、えと、と、とりあえず先に弁当食べますですか? そ、それとも、先に配信見せてくれるか……ど、どっちに致しましょうです?」
「ふふっ。言葉遣いめちゃくちゃだよ? まだ緊張してる?」
「い、いや……ま、まだっていうか……その……」
さっきよりもさらに緊張してるんですが。誰かさんのせいで。
「き、緊張はもうしてないからっ! く、口調も噛んだだけでございますしぃ!」
「ぶふふっw ほらぁ、もうめちゃくちゃw よしよし。緊張、飛んでけ~、飛んでけ~」
「んがぐっ……!」
来ましたコレ。お得意の頭ナデナデ。
ち、ちくしょう。子ども扱いしおって……と思いつつも、しっかりまたさらに硬直する俺。
ダメだ。とにかく先に進んでもらわないと。
今日の京川さんは異様に押しが強い。どういうことだ。
「わ、わかった……! と、とにかく最初は弁当を食べよう……! そうしないと昼休みが先に終わっちゃいそうだし……!」
「うん。いいよ。中臣くんがそう言うなら~」
この辺もえらく素直だな。
困惑しつつ、俺は弁当をそそくさと広げた。
そしてバクバク。
京川さんも自分の弁当を広げて食べてたのだが、なぜか俺を見ては嬉しそうにクスクス笑ってた。
な、何だっていうんだ……。
ドキドキとバクバクに襲われながら、俺はひたすら胃にものを詰め込むのだった。
【作者ひとこと】
長くなりそうだったんでお話分割させました。ごめんなさい。
次回、京川さんがモブ陰の魅力教えてくれます!
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