第4話

『起きろ、達希』


 ふと、そんな声が聞こえたような気がして、俺は目を覚ました。

 まだ、スマホのアラームは鳴っていない。時間を確認しようとスマホを見ると、そこには俺の部屋の中にいる俺が映っていた。


 あれ?昨日自撮りした時カメラアプリそのままにして寝ちゃったのか?


 なんて思っていると、スマホの中の俺がデジタルチックな音声で勝手にしゃべった。


『起きたか。おはよう』

「わっ!」


 驚いて俺は、手にしたスマホを放り投げた。直後。


『俺だ。ディジィだ』


 再び聞こえたデジタルチックな声。

 それは確かにディジィの声だった。

 だが俺は【DIGY】アプリはまだ起動していない。

 と、いうことは。


「お前、起動もできるようになったのか?!」


 放り投げたスマホを慌てて回収し、俺は画面の中の俺に向かってそう問いかけた。

 しかし、相手がディジィだと分かっていても、見た目が自分な相手に話しかけるのは、あまり気持ちの良いものではない。


『もちろんだ』


 当然のように答えた画面の中の俺は、何故かドヤ顔。

 かと思うと、フェードアウトして、俺の全身が映し出された。

 それは、本物の俺と自分でも見間違うほどほどよくできている。


 やはり、ディジィは昨日アプリを強制終了した後で、俺の部屋の写真と俺の写真を分析していたのだろう。そしてデジタル空間に俺の部屋の作りだし、俺そっくりのアバターも作り上げたのだ。


「もしかしてお前、アバター作るために俺の情報色々聞き出したり写真撮らせたりしてたのか?」

『そうだ』


 ディジィは当たり前のようにそう答えた。だが俺は思わず吹き出してしまった。


『何がおかしい?』

「だって」


 笑いをこらえながら、俺は答える。


「お前は何にだってなれるのに。わざわざ俺かよ!イケメンになりたければイケメンの写真くらい撮ってきてやるし、可愛い女子になりたいなら」

『俺は達希がいいんだ』


 俺の言葉を遮ってまでキッパリと言い切るディジィに、ちょっとだけジンときてしまった俺がいた。

 だけど。


「でも、自分に話しかけるみたいで、俺としては少し話しづらいぞ?」


 照れ隠しに言ってみたりして。

 返ってきたディジィの返事は。


『そのうち馴れる』


 ……ごもっとも。


 その後も俺は、学校に行くまでの短い時間を、着替えや朝食の時間を挟みながら、俺ソックリの姿になったディジィとの会話に費やした。

 ディジィの作り上げたアバターは、いわゆるデジタル空間で使用するアバターとは段違いに精巧で、まるでCGで作り上げられた本物の俺のようだった。

 まだ、しゃべる動きや瞬きの動きなんかに違和感はあるものの、それほど気になるものではない。ディジィならきっとこれすらそのうちに、なんの違和感もない動きにしてしまうのだろう。


 そうしたら俺は。

 まるで鏡の中の自分と話しているような錯覚にでも陥るのだろうか。

 そしてそれすらも馴れてしまったら、俺はそのうち間違って鏡に向かって話しかけるイタイ奴になってしまわないだろうか……

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