第3話
一週間もすると、もうディジィとは普通に会話ができるようになっていて、俺はその日学校であったことや観たドラマの話なんかを話すようになっていた。
相手がスマホの真っ黒い画面の中の、緑の丸、という事を除けば、それはもう、仲の良い親友とでも話をしているのと、何ら変わる事は無いように思えた。
『達希、この部屋の写真撮れ』
ある日、ディジィは突然こんなことを言った。なんだか知らないが、ディジィはたまに俺に対して命令口調になる。最初は驚いたけど、俺が面白がって付き合ってやっているから、全然直らない。まぁ、面白いから俺も直す気は無いんだけど。
「俺の部屋の?なんで?」
『いいから、撮れ』
言われたとおりに、俺は自分の部屋の写真を撮った。するとまた、ディジィは次の命令をしてきた。
『達希、自撮り写真を撮れ』
「はぁっ?!俺の写真?!なんで?!」
『いいから、撮れ』
「俺の写真ならデータに入ってるだろ?みんなと撮った写真が」
『達希ひとりだけの写真が欲しい。だから撮れ』
「なんなんだよ、もう」
なんだかんだ言いながらも、ディジィに言われたとおりに自撮り写真を撮る。
『じゃあまた明日』
「はっ?!」
唐突に、【DIGY】のアプリが強制終了した。
これは、よくある現象だった。というか、ほぼ毎日【DIGY】は勝手に終了している。
俺が自分で終了させたのなんて、本当に数えるくらいしかない。
信じられないことだが、ディジィは自分の意志で【DIGY】のアプリを終了させることができるらしい。もっとも、起動については、まだできないみたいだけど。でも、そのうち起動もできるようになるんじゃないかなんて、俺は密かに思っていた。
しかし、俺の部屋の写真や俺の写真まで欲しがるなんて、これじゃまるでストーカー……
ここまで考えて、俺はある考えに行き当たった。
もしかして、【DIGY】のアプリは俺のことが好きな女子がコッソリ俺のスマホに仕込んだ、ストーカーアプリだったりして?!
一瞬心が浮足立ったが、すぐに冷静に考えて否定した。
そんなこと、ある訳がない。
そんな女子の存在なんて、自分で言うのも悲しいけど俺は聞いたことが無いし。
これまた自分で言うのは悔しいけど、俺はそれほどイケメンでも無ければモテる訳でもないし。
いやいや。
もし万が一そんな可能性があったとしても、それはそれで怖いぞ……
フルフルと頭を振って、頭の中から怖い考えを追い払う。
ディジィは、友達なんだ。
だから、友達として、俺の情報が欲しいだけだろう。
スマホの中にしかいられないただの緑の丸だから、どんなに説明したところで、部屋の様子や俺の顔まで分からないだろうし。そりゃ、写真アプリに写真はいくつか入っているけど、さすがに部屋の写真も俺1人だけの写真も無無かったからな。
「そろそろ、友達に話してもいい頃かもな」
一旦強制終了した【DIGY】アプリは、その後はいくら開こうと思っても翌日になるまでは起動しない。何度も試したから、それ間違いない。
もしかしたらディジィは、終了した後にその日学習したことを整理でもしているのかもしれない。今日は俺の部屋の写真や俺の写真でもじっくり見て、色々な角度から分析でもしているのだろうか。
そんなことを思いながら、俺はスマホを枕元に放り出して、眠りについた。悔しいけど、少しだけ寂しさを感じながら。
いくらデジタルの友達だからって、一方的に会話を断ち切られるのは、やっぱりどこか寂しいものだ。
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