最終話 さと君とゆぅちゃんはいつまでも。
最高の盛り上がりを見せた叫び祭は、俺の大告白でどうにこうにか終わった。
終わった後、下に降りてから色々な人に色々な言葉をかけられた。
ゆぅちゃんとの関係を応援してくれる人、残念ながらそうじゃない人と、本当に色々だ。
冴島さんや武藤さん、灰谷さんはもちろん俺とゆぅちゃんのことを祝福してくれる。
高校生にして結婚予約かよ、なんて茶化されたりもしたけど、今度また5人で遊びに行こうぜ、とのこと。
そこで改めてお祝いしてくれるらしい。
本当に心の底から思った。
この人たちと仲良くなれて良かったな、と。
「そういえば名和くん? 大隈先輩は? 探してみたけど見つからなくて」
文化祭の雑踏の中、冴島さんが問うてくる。
俺は首を横に振った。大隈先輩の姿はどこにも見えない。
「まあ、私たちにゃ今会いたくないでしょーよ。あんな盛大に皆の前でフラれたし。特に名和君と雪妃の前からは速攻で消えたいはずだよ」
武藤さんが言う。
灰谷さんが「でも」と続けた。
「あの人はあの人なりに色々考えてたみたいだよ。最初から私には言ってくれてた。ナワナワには感謝しなきゃいけないんだって」
「感謝? てか、最初から?」
4人で首を傾げる。
感謝っていうのはよくわからなかった。
どういうことなんだろう。
「とにかく、まああの人のことは今いいっしょ! せっかくなんだ! 残りの文化祭、楽しもーぜ! 名和君と雪妃の肩の荷も下りたことだし!」
「心置きなくラブラブできるもんね」
武藤さんと冴島さんが言って、俺たちは1日目の残りを楽しんだ。
本当に、色々なことから解放されて。
●○●○●○●
1日目を終えた文化祭は、光の速さで2日目を迎え、やがてその2日目も終わろうとしてる。
夕暮れの中、後夜祭の準備が始まっている。
照明係担当の俺は、ゆぅちゃんと一緒に叫び祭の時同様、屋上にいた。
二人きりだ。
他のメンバーが気を遣ってくれた。
「終わるね、文化祭」
ゆぅちゃんの言葉に、俺は頷く。
終わる。文化祭が。
「来年はどんなイベントになるだろうね。少なくとも、今年みたいなことにはもうなって欲しくない。落ち着いてゆぅちゃんと過ごしたい……」
「私はいいよ? 今年みたいな感じでも」
「いやいや、よくないでしょ。絶対よくない。だって今回のとか、下手したらNTR展開もあったわけだよ? そうだなぁ、タイトルは……『祭りの裏で私はチャラ男に寝取られる』的な…?」
「うぅん……。違うと思う。『
「は、ははは、ハイセンスなのやめてよ! ふ、震えるじゃん! あ、ぁぁぁ……ゆ、ゆぅちゃんが大隈先輩に……ブルブル」
「ふふふっ。……彼のじゃそこに届かないの、とか?」
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! や、やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
脳破壊の苦しさに頭を抱えて叫ぶ俺。
大告白をした恋人同士の会話じゃない。
それだけはハッキリしていた。
「し、しかし、ゆぅちゃん……もうすっかりそういう系の同人誌に染まったね……。まさかそこまでセンスのあるタイトルを思いつくとは……」
「……変えられちゃった……さと君に……」
「っ……」
ドキッとする。
そういうのも同人誌を読み漁ったから言えるセリフだ。
「私……さと君にエッチな女の子にされちゃったの……」
「ゆ、ゆぅちゃん……言い方言い方……」
「ほんとだよ……? だから私は……さと君専用なの……」
「ぉ、ぉぁぁ……っ」
「もう彼のじゃ満足できないのぉ……」
「いや、俺を間男扱いしないで!? 本彼だよね!? 本彼でしょ!?」
ムードぶち壊しのツッコミを入れると、ゆぅちゃんは口元を押さえてケラケラ笑った。
こんな冗談も言えるようになるなんて。
クールな一面しか知らなかった前までとは本当に何もかも違う。
俺は頭を掻き、やがて苦笑した。
仕方ないんだから、と。
「ねぇ、さと君?」
「もしも進学したら、二人で一緒に暮らそ?」
「うん。まだ2年も先だけどね。いいよ」
「二人で一緒にエロゲして、同人誌を集めるの。そういうのがたくさんあるお部屋とか作りたい」
「罪深いね。ゆぅちゃんをそんな嗜好にさせちゃった俺の行いは」
「そうだよ? 私が変態趣味って言われたら、その時はこう返すつもりだもん。『彼氏にたくさん調教された結果です』って」
「やめて。言われた人はなんか色々トラウマ抱えちゃいそうだから」
「? トラウマは抱えなくないかな?」
「抱えるよ。ゆぅちゃんみたいな可愛い女の子がそんなになるまで調教って……いや、何でもない」
「……???」
首を傾げるゆぅちゃん。
俺は一つ息を吐き、そんな彼女の頭を撫でた。
柔らかい笑みを浮かべ、頭を俺の肩に寄せてくれる。
下では、後夜祭のために集まった大勢の人たちがワイワイ楽しそうにしていた。
そろそろだ。
俺たちの仕事をする時間。
「お、いたいた」
照明器具の方を見やっていると、屋上の出入り口の扉が開けられ、声がする。
見ると、そこには大隈先輩が立っていた。
ドキッとし、俺とゆぅちゃんは無意識に二人して距離をとる。
なんとなく彼の前でイチャつくのは気が引ける。
それは共通認識らしかった。
「ごめんな。仲良くしてるところ悪い。ここの仕事、一人でいいんだって。月森さん、下の方に行って別のことしてくれる? 葉木さんが待ってる」
先輩の言葉に少し違和感を覚えた。
思うところはあるものの、そう言われて断れるはずもない。
俺はゆぅちゃんの顔を見つめて頷く。
ゆぅちゃんも頷いた。
「安心して? 別に今さら君らの仲を引き裂こうだなんて思ってない。俺は見事にフラれたわけだし」
先輩は自虐的に笑うけど、俺たちは笑えない。
ゆぅちゃんは座っていたところから立ち上がり、出入り口へ向かう。
大隈先輩の横を会釈して通り過ぎ、その先の階段を降りて行った。
男二人。
俺はまたこの人と相対する。
「後夜祭くらい二人きりにさせて欲しい、そう思っただろ?」
「っ……」
「ごめんごめん。何度もだけど、そこは謝らせてよ。俺の指示じゃない。葉木さんの指示なんだ」
「……葉木さんが俺とゆぅちゃんを引き離そうとしてる、と?」
「はははっ! それはないない! あの人は基本的にいい人だからね。下の人員、ほんとに足りてないんだ。照明係の他メンバーもこの後夜祭で意中の人と一緒にフォークダンスするんだー、って息巻いてるからさ。仕方なく君らをバラしたってわけ。あの二人はこれからもたっぷりイチャつけるだろうから、ってことでね」
「……一年の文化祭は一回きりで……特別なんですけどね……」
「はっはっ! びっくり! まさか君からそんな爽やかなセリフが聞けるとは! 月森さんと付き合えたから? それとも誰かの受け売り?」
「……両方じゃないですかね?」
「へぇ、両方なんだ。ふふふ。素直でよろしい」
言いながら、先輩はこちらへ歩み寄ってくる。
そして、当然のように俺のパーソナルスペースに入り込んできた。
「ごめん、名和君。さっそくだけど、謝らせて」
「……もう別にいいですよ。ゆぅちゃんのことなら」
「ううん。月森さんのことじゃない。……ってのも少し違うか。ごめん。今、彼女が葉木さんに呼ばれてるってのは嘘なんだ」
「……は?」
「俺が君と二人きりで話したいから、彼女には少し別のところへ移ってもらった。すまん」
「……」
何も言わずに俺は立ち上がる。
で、ゆぅちゃんの元へ行こうとするのだが、
「君には感謝してる。ありがとう。俺をここまで負け犬にしてくれて」
「……」
何を言い出すのかと思うほどのセリフ。
思わず足を止めてしまった。
「……そういうのやめてくれませんか? 俺はもう……叶うなら先輩と関わりたくないのに」
「うん。知ってる。俺が君でもそう思う。気まずいしね」
だったらなんで俺と二人きりになった。
言い返したい思いをグッと堪える。
「けどさ、これだけは最後に言いたかった。ありがとう、って」
「素直に喜んでいいように思えないです。意味わからないですよ、ありがとうだなんて」
「じゃあ、こう言えばどうだ? 名和君が月森さんの彼氏でよかった」
「っ……」
今度は突然の褒め言葉。
本当になんなんだこの人は。
「どうなんだ、って思うところはあるけど、月森さんの様子を見てたら納得だ。どう足掻いたって君以外の他の男は、彼女の心を奪うことができない。初めてだよ。こんな思いにさせられたのは。完敗だ」
「……俺は……そんな……」
「すごいよ、君。大抵の女の子はさ、口先で『彼氏一筋なんです』とか言ってても、俺が本気で落としにかかったらコロッといけちゃうもんなんだ。でも、月森さんにはそういうのが全く通用しなかった。ほんとにね」
「……やっぱ最低ですね、先輩……」
「はははっ! 仕方ないよ、モテちゃうんだから。与えられた力を使わないのってもったいないし」
「最低っす」
「まあまあ、わかってるわかってる。でも、君には負けた。俺は名和聡理にわからされたんだ。本当に固い絆の前じゃ、俺のやってたことは無意味で、何よりも虚しいことなんだってさ」
「……」
「今回の一件を通して、深くそれを理解できたし、させてくれた。ありがとう、名和君。俺、もう少し真面目に生きてみるよ」
「……そういうこと……ですか」
「ん? そういうこと? 何が?」
「あっ。い、いえ、別に何でも」
手を横に振るも、俺は内心納得していた。
係の荷物運びを手伝ってくれたあの先輩のセリフ。
大隈先輩が俺たちに近付く意味。
それがどういうことなのか、理解したのだ。
「……よくわかんないけど、とにかくそういうこと。ありがとな。俺もさ、泣けるくらい真剣な恋探してみるね」
「……頑張ってください」
「うん。頑張る。まずはちょっとこの長い髪の毛切るところから始めようかな? なんかチャラチャラしてるもんな。よくねーわ」
苦笑しながら言う先輩。
俺は、今になって彼と一緒に笑うことができていた。
わかり合えたわけじゃないし、価値観も違う。
だけど、それでも俺は。
「なんなら、今度名和君が教えてくんねーかな? いい恋の仕方」
「え、俺がですか?」
「そーそー。なんかある? いいバイブル的なの」
「……まあ、あるにはありますけど」
「おっ。じゃあそれ教えてくんね?」
「いいですよ。今度渡します」
「おっけおっけ! さんきゅーね!」
先輩に言われ、俺は頭の中にとある純愛同人誌を思い浮かべるのだった。
●○●○●○●
それから数年後、俺とゆぅちゃんは無事高校を卒業し、受験にも合格。
晴れて大学生としてこの春から新生活をスタートさせる。
冴島さんや武藤さん、それから灰谷さんとは進学先が違ったけど、仲は変わらずだ。
定期的に長期休みを使って会おうという約束はしてる。
今後もこの関係は続いていくんだろう。
思わず苦笑してしまう。
「さと君、そっちのダンボールもうほどいちゃっていいよ。今日中に終わらせちゃお?」
「了解。しっかし重たいね、これ。中身なんなんだろ?」
「それは決まってるよ。去年の夏コミで買った同人誌たち」
「あー、受験生にとっては天王山とも言われる貴重な時間を削って行ったあの夏コミね」
「っ……。い、嫌な言い方……」
「うんうん。よかったよ、ほんと一緒のとこに合格できて」
「でも、私の方が成績はよかったもん。さと君も頑張ってたけど、結局最後まで私の方が勝ってたもん」
「ま、まあ、そこは事実ですね……すいません」
「ふんだ。……あっ、このエロゲ積んでて消化しなかったやつ……! こ、こんなところに入れてたの……!?」
「あぁっ! それ俺もまだやってない!」
顔を見合わせ、頷く。
きっとこの先も俺たちは。
「「あとで一緒にやろ!」」
こんなペースで日々を過ごしていくんだと思う。
何年も、何年も。
子どもができて、おじいちゃんおばあちゃんになったとしても。
……それはそれですごい絵面だけどな。老夫婦が二人でエロコンテンツ消費って。
完
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