第89話 バレちゃってた件

 冴島さんとの一件が終わった二日後。


 俺たちは残り少ない夏休みを使い、文化祭委員としての活動にまた出向いていた。


「やっほ、名和くん」


「ん。ああ、こんにちは冴島さん」


 こうした挨拶の返しもまた気兼ねなくできてる。


 顔を合わせる前は若干の気まずさというか、不安があったけども、会ってしまえばこんなものだ。


 彼女は元来明るい性格でさっぱりしてるし、問題はない。


 俺がちゃんと対応できているかどうかだ。


「雪妃もおはよ。今日も可愛いね」


 おぉう……さっそくチャラ男っぽい褒め言葉。


 いつもなら照れて恥ずかしがるゆぅちゃんだけど、なぜか今日は違った。


 ほんと、なぜか……。


「…………………………」


「……? ん? どしたの雪妃? 仏頂面じゃん。それでも可愛いけどさ」


「……ねぇ、二人とも? ちょっと質問があるの」


「え?」


 冴島さんが頓狂な声を出して疑問符。


 俺もそれに乗ってゆぅちゃんの方を見やった。


 え? 二人? 俺も?


「二日前、二人はいったいどこで何をしてた?」


「「……へ……?」」


 ドキ、と心臓が一際大きく跳ねる。


 ちょっと待って雪妃さん。どうしてそこピンポイントで聞いてくるの?


「二日前ね、私、さと君にLIMEを送ったの。今日も遊べる? って」


「へ、へぇ~……そ、そうなんだぁ~……ら、ラブラブだねぇ~……」


 頬を引きつらせながら返す冴島さんだけど、その様は見るからに怪しい。


 俺が傍から見ててもそう思うんだ。ゆぅちゃんが見れば何かを隠しているのは一目瞭然だろう。ほんと、もっと上手に誤魔化して欲しい。この人こんなしらばっくれるの苦手だったっけ?


「そしたらさと君、今日は無理って返してきた。その時までは私、何か外せない用事でもあるんだろうなぁ、仕方ないなぁって思ってたの。……その時までは」


「「ひぃっ!」」


 俺と冴島さん、二人して悲鳴を上げてしまう。


 ゆぅちゃんの圧が凄い。


「断られちゃったけど、それでも私はさと君のことを一目でもいいから見たくて、夕方に家の前まで行ったの」


「だ……誰の……?」


「さ と く ん の」


「ひぃぃぃっ! ごめんなさいごめんなさい静まり給え静まり給え!」


 震える声で問い、速攻で手を擦り合わせながら悪霊退散の呪文を唱え始める冴島さん。


 俺はもうその横で固まり、冷や汗をダラダラ流すしかなかった。


 まさか冴島さんを家に呼んだことがバレるなんて……。


「……それで……さと君?」


「……! は、はいっ……!」


 思わず声を裏返らせてしまった。


 背筋もピンと伸ばし、その場で気を付け。


 猛烈に詰められる。


 浮気なんてしてはいないけど、いったいどうやって説明したらいいんだ……?


 そう思っていたところだ。


 不意にそっとゆぅちゃんは俺の手を握り、涙目で上目遣い。


 それからズイっと距離を縮めてきた。


 瞬間的に顔に熱が灯る。


「どうして絵里奈を家に入れてたの……? 私抜きで……二人で何してたの……?」


「あ、え、えっと!」


「私だけじゃダメ……? 満足できなかった……? どんなところがダメだった……? 教えて……? 全部全部直すからぁ……」


「っ……!」


 おねだりするように言ってくるゆぅちゃん。


 おもむろに辺りへ視線をやる。


 するとまあ、思った通りに周りの目が俺の方へ向けられていた。


 真面目に文化祭について話している人もいるが、大多数がこっちを見てる。


 ちょっと場所を変えないとダメなやつだった。


 俺は彼女の手を引き、外へ出る。


「ちょ、ちょっとゆぅちゃん、外へ……!」


 ミーティングはもうすぐ始まる。


 でも、まず第一にゆぅちゃんの誤解を解くのが先決だ。


 苦し紛れではあったものの、俺たちは空き教室を出て、人のいなさそうな場所へ向かうのだった。











【作者コメ】

更新空いて申し訳ない! 新作の影響が出てますな(汗)

それとまあ、なろうの方に短編も上げようと画策中で、そのせいでもあるかも……。何にせよ、AVの更新頻度はまた早めますね! 100話ジャストくらいで終わりそうなので……(サラッと暴露)。

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