第87話 冴島さんは初めて。
『ごめん、ゆぅちゃん。明後日はちょっと用事があって会えない。また別の日にデートしよう?』
地球滅亡級の奇跡が起きてできた美人な恋人。月森雪妃。ゆぅちゃん。
そんな彼女に対して、俺なんかがこんなメッセージを送る日が来るなんて予想もしていなかった。
でも、それは浮気とかそんなことじゃなくて、とても大切なことで。
冴島絵里奈。
ゆぅちゃんの親友であり、俺へ好意を伝えてくれた女の子。
そんな彼女へ自分なりの答えを告げるために必要なことだった。
だからこうして二人きりで会う。
父も母も誰もいない俺の家の中で。
「あっ……。な、名和くん……こ、こんにちは……」
「う、うん。こんにちは」
玄関先にて。
俺たちはぎこちなくお互いに挨拶を交わす。
色々意識しまくっているせいだ。
けれど、そうは言っても冴島さんの装いはいつもと変わらなかった。
派手で露出多めな恰好。
俺なんかとは住んでいる世界が違う。
価値観が違う。
洗練されている恰好でそう思わさせられるものの、彼女は俺を見てしどろもどろになり、赤っぽい顔になっている。
俺のことを意識しているのは一目瞭然。
いや、さすがに一目瞭然とまで言うのは自惚れ過ぎだが、佇まいはまるでそんな感じだった。
嬉しくなる反面、こっちもすごく恥ずかしい思いにさせられる。
家に呼ぶというのはやはりやり過ぎだっただろうか。
でも、そうしないとダメだったわけだし……。
「そ、その、今日はよろしくね……? き、君のおうちで何をするのかは……わ、わからないけど……」
「え、ええっと……え、え、ええ、え……っちな……」
「へ……!? え、えっ……!?」
「と、とにかく中へどうぞ! 詳しいことは密室で話すので!」
「み、密室……!? んぇぇ!?」
恥ずかしさのあまり、強引に冴島さんの腕を引っ張って家の中へ入り、玄関の扉を閉める。
意気揚々と自分で誘ったくせに本当俺って奴は……。
電気の付けられていない玄関は少し薄暗くて、誰もいない家なもので、二人でいると荒くなっている呼吸音がよく聞こえる。
それがまた変な雰囲気を作り出していた。
「あ、あ、あのあの……な、ななっ、名和くっ……」
「へ、部屋の方行こう! こ、ここだとなんか落ち着かないし、何もできないし!」
「は、ふぁ、ひゃ、ひゃい!」
冴島さんはさっきよりもずっと顔を赤くしている。
でも、それは俺もだ。
尋常じゃないテンパり具合。
こんなはずじゃなかったのに。
ただ、ゆぅちゃんと同じように、一緒の部屋で一緒にエロゲをしようとしてるだけだから。
「こ、ここが俺の部屋。き、綺麗ではないと思うけど、どうか許して頂ければと思います……」
二階に上がり、自室の扉を開けて部屋の中を公開。
冴島さんは焦った様子で手を横に振って、
「う、ううん! 綺麗じゃないことないよ! す、すっごく丁寧に片付けられてて……こ、ここでアタシは初めてを……」
「へ……? は、初めて……?」
「あっ! そ、そうじゃなくて! だ、ダメ! 名和くん! ききき、君には雪妃っていう大切な彼女がいるのにアタシとなんてぇ!」
「……???」
よくわからないけど、初めてってもしかしてエロゲのことを言ってる?
だとしたら大丈夫だ。
「大丈夫、安心して。ゆぅちゃんとはもうしてるし、冴島さんともきっと楽しくできると思うから」
「た、楽しきゅ!?!? も、ももも、もうしてりゅからぁぁぁぁ!?!?」
え……? な、なんかすごい動揺ぶりなんですが……?
「う、うん。あ、あれ? 言ってなかったっけ? たぶん言ったような気がするけど?」
「言ってないよぉ!!!!!!! いっっっっっさい聞いてない!!!!!!!!!」
ものすごい眼光&表情。
血眼で、鼻息荒く俺に顔を近づけてくる冴島さん。
もう困惑するしかなかった。戸惑いに戸惑いまくる。
「ちょ、ちょっと待って!? え、エロゲの話だよね!? 前しなかったっけ!? ゆぅちゃんといる時したはずなんだが!?」
「そうだよ! 雪妃とエッチなことしたとか私とも楽しめるとか名和くん何言って…………………へ?」
俺の胸をボカボカ殴りながら言い、やがてキョトンとして見上げてくる。
しかし、待って欲しい。
エッチなことってほんとどういうことでしょうか。
そんなこと俺一言も言ってないですそんなヤリラフィーじゃないです大好きな女の子一人とだけヤリラフィーしたいですそもそも何人斬りもできる器じゃないです本当申し訳ないですすいません。
…………なんて俺がグルグル頭の中で考えてると。
「……ふぇ……?」
徐々に。
本当に徐々に。確実に。
冴島さんの顔が赤くなっていく。
自分が恥ずかしい勘違いをしていた事実を受け入れて。
「あ……え、えーっと……」
「う……ぁ……ふぁ……!!!」
「そ、その…………か、勘違いはだだ、誰にでもあるから! う、うん! 誰にでも!」
「っっっ〜……!!! ば……ば……!」
「え……? ば……?」
首を傾げた刹那、涙目になってる冴島さんが瞬間移動し、
「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ベッドに飛び込み、布団を被って隠れた。
普段俺の使ってるベッドに。
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