第67話 旅行の終わりと私だけ。

 それから、残り一日、二日。


 俺たちは田舎の海の町を満喫し、自分たちの住んでいるところへ帰る日を迎えた。


 来た時同様、寧々さんが運転する車に皆で乗り込み、フェリー乗り場まで移動する。


 そこからさらに一晩船の上で過ごさなきゃなんだけど、それはもうおまけみたいなものだ。


 部屋も別々だし、軽く食事をとったら後は寝るだけ。


 皆で行く旅行は終わった。


 それを実感してしまい、何となく寂しくなる。


 最中は色々あり過ぎて、寝不足やら疲労が溜まったりで超絶大変だったわけですけども。


「じゃ、おじいちゃんにおばあちゃん。またお正月に今度はお父さんとお母さん連れて来るからねー」


「おーおー。寧々、皆、気を付けて帰るんじゃよ~」


 並んで手を振ってくれる灰谷さんのおじいちゃんとおばあちゃん。


 そんな二人に、俺たちは車の窓を開けて感謝の言葉をかける。


 ありがとうございました。最高に楽しかったです。


 大変なことが起こったものの、それは本当のことだ。


 泊まってる最中、ほとんど毎食ご飯を用意してくれたり、色々と迷惑をかけた。


 感謝しかない。


 機会があれば、また来たいくらいだ。海どころか、山も綺麗で、自然のすべてを詰め込んだような町だったし。


「よーし、では皆ー、フェリー乗り場まで行くよ~。帰りだし、ゆったりまったり車走らせるからね~」


 車を発進させ、おじいちゃんおばあちゃんが見えなくなってから、後部座席にいる俺たちへ声を掛けてくれる寧々さん。


 後ろからでもわかるけど、この数日で寧々さん結構焼けてる。


 焼けたけど、その焼け方がどことなくエッチだった。


 ギャルっぽさに磨きがかかったというか、健康的な小麦色が果てしなく眩しい。


 派手な金色の髪の毛によく似合ってる。


「ねー、寧々さん。今、名和君ちょっと寧々さんのことエロい目で見てたよ」


「んなっ!?」


 斜め左後ろに座ってた武藤さんが鋭い指摘。


 俺は思わず体をビクつかせてしまった。


「ふふっ。何、少年? 私のどこをエロい目で見てたの?」


「い、いやっ、あ、あのっ……」


 まごついていると、隣に座ってたゆぅちゃんが頬を膨らませて俺の手をギュッと握ってくる。


 引きつった顔で彼女を見つめ返すと、やがて左肩に抱き着いてきた。どこにも行かせない、とばかりに。


「……位置的にうなじじゃないの? 名和くん、寧々さんのちょうど後ろに座ってるんだし」


「――ッ!」


 俺の真後ろに座ってる冴島さんが、ため息交じりに正解を言った。


 何でこうも皆鋭いんだ……。


「んはははっ! そっか~、うなじか~。私のうなじ見て興奮しちゃったか~。ごめんね~、少年~。お姉さんが魅力的過ぎて~」


「ナワナワ~、お姉ちゃんのことエッチな目で見るのもいいけど~、隣に可愛い可愛い彼女さんがいるの忘れないでね~? 絶賛やきもち焼いてるっぽいから~(笑)」


 楽し気に俺を茶化す灰谷姉妹だったが、特に妹の方、美海さんの言葉で、ゆぅちゃんが「むぅ~……」と小さく怒ってるような声を漏らす。


 それから、なぜかゆぅちゃんは俺の左半身に自身の体を擦り付け始めた。


 柔らかいモノがふにゅふにゅと当たる。


 そのふにゅ感はとんでもなくて、寧々さんのうなじを俺の脳から一時的に消し飛ばしてしまった。


「ゆ……ゆぅちゃん……? え……えっと……その……?」


「……さと君のばか……昨日も……私と夜……お風呂一緒に入ったのに……」


「「「――えっ!?」」」「おぉぉ!?(笑)」


 あ……。これ、ヤバい……。


「忘れ……ちゃった……? 私の……か、体が……い、一番素敵って……言ってくれたこと……」


「「「はぁぁぁぁぁ!?!?」」」「んはははっ! 少年、やるね~(笑)」


 涙目で訴えかけてくるゆぅちゃんだったけど、俺は口の端から血を流してるような感覚に陥り、自身の体温が急激に下がっていくのを感じていた。


 ゆ……ゆぅちゃん……それだけは今ここで言っちゃダメなやつだ……。


「ななな、名和くん!? 君、いつの間に雪妃をお風呂場へ連れ込んでたの!? アタシ、全然気付かなかったんだけど!?」

「そうだよ! 皆がいるんだぞ!? 何一人で盛って勝手なことしてんのさ!?」

「私、そういうのは完全に二人きりになってからすることだと思うよ~!?」


「「「名和くんの変態っ!」」」


 前から後ろから、自席から身を乗り出して俺の服を引っ張り、声を揃えながら罵ってくる冴島さん、武藤さん、灰谷さん。


 寧々さんは一人爆笑運転中。


 ゆぅちゃんは、そんな俺の左半身に未だくっつき、上目遣いで言ってくる。


「……私のことだけ見ててよぉ……」


 と。


 もう脳の情報処理が追い付かないけど、とにかくゆぅちゃんを安心させないといけない。


 そんな思いに駆られ、彼女を抱き締め、俺は車内にて叫ぶのだった。


「ごめん! 本当にごめん! ゆぅちゃんのことだけ見ます!」


 この旅は、どうやら最後の最後まで気が抜けないらしい。


 つくづくそう思った。






●〇●〇●〇●






「う……うぅぅ……」


 バフンッ。


 そんな音と共に、俺は自宅にある自室、自分のベッドへ倒れ込む。


 時刻は午後十四時。


 今さっき、ようやく旅行の全工程を終え、こうして自宅へ帰って来た。


 疲労はピーク。


 旅行後って割と疲れてることあるけど、気分としては部活の強化合宿を終えた後のような感じだ。……まあ、強化合宿とか今まで参加したことないんだけど。


 ただ、そうは言ったって、ひと夏のいい思い出になったのは確か。


 俺にもじいちゃんばあちゃんがいるのはいるけど、あんな海の見える田舎に住んでるわけじゃないし、新鮮な経験だった。


 メンツもメンツだしな。


 何だよ。陰キャ男一人に対し、陽キャ女子四人&ギャルお姉さんって。


 どう考えても、ちょっと前の俺からすれば考えられない展開だ。この五人と一緒に一夜を過ごしたりして旅行したって。


 しかも、今回の旅行で、恋人であるゆぅちゃんとの距離もまたさらに縮まった気がする。


 あんなことやこんなことをしてもらって、最後はお風呂にも何度か一緒に入って……。


 ま、まあ、水着を着てもらって、だけど!


 てな感じで、本当に貴重な経験ができたわけだ。


 疲れたけど、これは何物にも代えがたい。


 皆と行けてよかった。


 今は、心の底からそう思う。


「……ふぁ……」


 そうやって振り返ってると、眠気が襲い掛かって来る。


 一応、シャワーも浴びてきた。


 さっぱりもしてるし、付けているエアコンも涼しさを運んでくれて、最高に快適。


 こんなの、眠くならない方がおかしいわけだ。


 ……少し……昼寝しよう。


 そう思った矢先のことだった。




 ――♪




 すぐ傍に置いていたスマホがバイブし、着信音が鳴る。


 誰からだ?


 すぐに確認すると、それは――









【作者コメ】

次回より番外編として、『聡里くん、雪妃ちゃんの東京二人旅』を始めます。本編も進めたいですが、少しお休みさせようかなと思います。予定では、番外編は5話ほどのつもりなので、どうか一つよろしくお願いします!

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