第62話 凸とえっなこと

「ごごご、ごめんっ! 本当に、本当に、変なもの見せて!」


 本気の謝罪。


 膝から崩れるようにその場でへたり込み、女の子座りの状態。


凸と化した股間部分を手で隠しながら、俺はゆぅちゃんへ真剣に頭を下げた。


 いくらなんでもマズすぎる。


 まだ付き合って間もない初心な女の子に、自分の暴走状態のアレをしっかり見られるなんて。


「……さと……くん……」


「き、気持ち悪いよね……! 本当にごめん……! 俺……! 俺……!」


 ゆぅちゃんとのキスが気持ちよくて、それでこんな状態になったなんて恥ずかし過ぎて言えない。


 というか、自分の股間の状態を解説すること自体無理だ。すっごく変態みたいで、そういうプレイみたいだし。


 ……でも――


「……どうして……?」


「…………え?」


「……どうして……そういう風になったの……?」


 …………え。


 恥ずかしさから逃げるように逸らされた瞳。震える瞳孔。赤く染まった頬。


 一瞬、ゆぅちゃんが何を言ってるのか理解できなかった。


 いや、もちろん言ってることの意味はわかるんだけど。


「あの……ゆぅちゃん……? どうしてそういう風になったの……っていうのは……」


「…………」


 逸らされていた目が合う。


 彼女はいたずらに、控えめに、クスッと笑みを作ってみせた。


 顔は朱に染まってるままなのに。


「さと君の……そこ」


「……っ……!」


 綺麗な人差し指が指し示す先。


 それは、間違いなく俺が手で隠してる部分で……。


「固くなって………………その…………上に向いてたから……」


「ッッッ!」


「どうしてなのかな…………って」


「ッッッッッッッッ!!!」


 穴があるなら入りたい。


 凄まじく恥ずかしい。


 一気に顔の方へ熱が集まり、口をパクつかせてゆぅちゃんのことを見上げ続けるしかなかった。


 これは……なんて答えたらいいの!?


「え、エロゲでもね……男の子が女の子とキスしたり……いちゃいちゃしたりしてると……そうやってなってたの」


「……ひゃ……ひゃい……」


「だけど……ゲームの登場人物に『どうしてそうなるの?』なんて聞けないから……感覚がわからなくて……」


「あ……え……えっと……」


「インターネットで検索しようとしても……その状態の正式名称がわからないから……欲しい情報がまるで調べられなくて……困ってたんだ」


「……ぅ……」


「だから……さと君……。私に……教えて……? そうなってる時の感覚と……どうしたら……そんなことになるのか」


「あ……っ……あっっ……!」


 同じ高さになる目線。


 ゆぅちゃんは、俺と同じようにその場でしゃがみ込み、ジッとこちらを見つめながら健気にお願いしてくる。


 表情からは、勇気を振り絞って俺を見つめてくれてるのがよくわかった。


 震えたままの瞳孔と唇は、心臓のドキドキをきっと表してる。


 ゆぅちゃんだって同じだ。


 穴があったら入りたいと思ってる。


 それはそうだよ。


 こんな質問、する方だって何とも思わないわけがない。


「……ゆぅちゃん……」


「……うん……」


 だったら、俺だって――


「……わ……わかった。い、言うね……? こんな風になった時の感覚と……どうしてこうなるのか……」


「……う……うん……」


「……でも……その前に……一つだけ聞いていい……?」


「……一つだけ……?」


 俺は頷く。


 それから、すぐに続けた。


「逆に……どうして?」


「……?」


「ゆぅちゃんは……どうしてそこまでして……俺のここが……こうなる理由……知りたいの?」


「……へ……?」


「教える前に……教えてくれる……?」


 下げていた視線の先を、ちらりと上の方に戻す。


 ゆぅちゃんのことを見つめた。


 だけど、彼女の瞳は、俺と合うとすぐに逸らされ、


「……そ……それは…………それは……ね……?」


 もじもじしながら、一転して言い淀む。


 まさかそこを聞かれるとは、考えてなかったんだと思う。


「さ……さっき言った通り……エロゲで見て……気になったから――」


「嘘……だよね?」


「ふぇ……!?」


 体をビクッとさせ、今度は俺と目を合わせてくれた。


 顔はどうしようもなく真っ赤。でも、それは俺も同じだ。


「本当は……もっと別の理由があるんじゃない……?」


「っ……!」


「それ……教えて……? ……どんなに恥ずかしいことでも……気にしないから……」


「……う……うぅ……で、でも……」


「俺……名和聡里は……ゆぅちゃんの恋人だから……」


「っ~……!」


「ゆぅちゃんの思ってること、考えてることを全部知りたい。たとえそれが、欲張りだとしても」


「…………さ……さと君……」


「ごめんね。……お願い。教えてくれる?」


 蒸し暑く、狭い空間。


 俺たちは、互いに額から汗を浮かばせ、火傷しそうなくらいにジッと見つめ合う。


 少しの沈黙の後、ゆぅちゃんは言葉をまた紡ぎ始めてくれた。


「……本当に……?」


「……?」


「……本当に……私が考えてたこと……そのまま言ってもいい……?」


「うん。いいよ。構わない」


「ひ、引いたりしない? こんなこと考えてたの、って、変態な女の子だ、って、そんな風に思ったりしない? さと君?」


「思わないよ。大丈夫。安心して?」


 だって、引かれるとしたら、それは圧倒的に俺の方だと思うから。


「俺は、ゆぅちゃんの全部を知りたいから。他の男子も知らなくて、大隅先輩だって絶対知らない、君のこと」


「……!」


「それでも、勘違いはして欲しくない。ゆぅちゃんがどうしても言いたくないのなら、もちろん強要はしない。そこまで無理強いってのも、俺は――」


「う、ううん……! 無理強いじゃない……! 無理強いじゃないよ、さと君……!」


 首を横に振って、ゆぅちゃんは否定してくれた。


「こんなこと言えるの……きっとさと君だけだから……」


「……ゆぅちゃん……」


「他の男の子になんて……絶対に誰にも言えない……」


「……うん……」


「……あの……あのね……?」




 ……私……。




「……さと君と……そういうことする時のこと……想像してた」


 エロゲだと、大抵男の子がそうなってすぐ、始まるから。


 …………エッチな…………こと…………。

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