第57話 電話をかけた本当の理由
「じゃ、じゃあその……つ、月森さんの可愛いと思うところ……言っていきますね?」
俺が言うと、電話口で大隅先輩は変わらない口調のまま『お願い』と返してきた。
すぐ真横で俺にくっついてるゆぅちゃんはジト目でこちらを見つめてきている。
たぶん、呼び名が気に食わないんだと思う。俺が今、「月森さん」と苗字で呼んだから。
『あ、でも待って。呼び方』
「へ?」
『君、普段から恋人になった彼女にも「月森さん」って呼んでるの?』
「え……」
『それ、めちゃ距離あると思うけど? どうなの?』
言われて、ゆぅちゃんが何度もうんうん頷いてる。
――いつも通り、「ゆぅちゃん」と呼んで。先輩もああ言ってるし。
彼女が考えてらっしゃることはそんなところだろうか?
でも、ちょっと待ってゆぅちゃん。
これで俺が先輩に対して「ゆぅちゃん」なんて言ったら、俺は学校でも彼の前でそういう呼び方しないといけなくなる可能性がある。
となると、大隅先輩だけじゃなく、その周りの人たちにも俺たちの関係が次々にバレていき、軽い校内事件へ発展したりしないだろうか。
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なんて言われたりして……。うぅ……つ、辛い……。
「……は、はい。距離があるのかどうかはわからないですけど……呼び方は『月森さん』です」
色々考えた結果、苗字呼びで通すことにした。
ゆぅちゃんはガーンとショックを受け、グリグリと俺の左肩に頭を擦りつけてくる。
申し訳ない。でも、これは俺と君の平和な生活を守るためでもあるから。
武藤さんや寧々さんたちは呆れたようにため息をついていたが、冴島さんは逆に安堵した様子で頷いていた。それが賢明な判断だ、という視線を俺に送ってきてる。まあ、ですよね。
『へぇ。そっか。そうなんだ。じゃあ、君らはそういうのも含めてこれからの関係である、と?』
「ま、まあ……」
『ふぅん。なんか、雪妃ちゃんも退屈してないかなぁ?』
「っ……」
こ、この人、露骨に月森さんから雪妃ちゃん呼びに変えたぞ……。
思わず唇を噛む。
『まあいいか。君がそう言うならそうなんだろうしね。うん。続き、聞かせてよ』
「……は、はい。可愛いところは――」
それから、俺は思いつくままに一つ一つ、言える範囲で、ゆぅちゃんの可愛いと思えるところを大隅先輩へぶつけてやった。
雪妃ちゃん呼びへ変えたということは、この人はワンチャンスを狙っていると見て間違いない。
そもそも、俺に接触を図ったのだって、それが目的なんだ。
させない。
絶対にそんなことはさせない。
俺からゆぅちゃんを奪うなんて、そんな真似。
「次は、アレです。クールそうに見えて、実は結構甘えん坊なところで、俺はこれを――」
『あぁ、うん。オーケーオーケー。もういいや。ありがとう』
「あ、も、もうですか?」
『うん。お腹いっぱい。たくさん聞かせてくれてありがとう。よくわかったよ』
「は、はぁ」
まだ言い足りないんだが。
そう思ってふと周りを見てみると、なぜか皆顔を赤らめて俺の方へ視線を送ってくれていた。
ゆぅちゃんは、相変わらず俺の傍にいてくれてるけど、目が合った瞬間に別の方を向く。
待って。俺、何か変なこと言ってた? それとも、惚気過ぎたとかか? 先輩に対抗するためとはいえ。
『君の想いはこれでもかってほど伝わってきた。けど、そりゃそうだよね。相手はあの雪妃ちゃんだし、君も人生で初めての彼女だったりするんじゃない?』
「それは……まあ」
悪いですか、初めてで……。
『だよね。そういうの、なんか熱量とかで伝わってくるよ。彼女を想ってるんだ! 大切にしてるし、したいんだー! っていうところがね』
「……はぁ……」
『でも、それだけじゃないんだ。恋愛ってさ』
「……え?」
どういうことだよ。
『あぁ、いや、まあここまでのことを今言うべきではないかな』
「……」
『すまない。流してくれ。今のはただの独り言だ。別に――』
「いいですよ。言ってくれても」
『……ん?』
語調が強くなってしまった。
先輩は一つ間を置き、違和感のある疑問符を浮かべる。
俺もとっさにマズいと思ったが、言ってしまったものは仕方ない。そのまま続けた。
「構わないです。言いたいことがあるなら言ってくれても」
『……はは。いや、でも――』
「先輩が何で今日電話を掛けて来られたのか。それをちゃんと知ることができないまま終わる方がよっぽど後味悪いですから。構わないです。思ったことを言ってくれて」
『……へぇ』
上から感心するような言葉を漏らし、押し黙る大隅先輩。
俺も、彼と面と向かって話していたならば、きっとここまで強気の物言いはできなかったかもしれない。
いや、違うか。
すぐ傍に
彼女がいるから、今俺は強く出られてる。
ハッキリさせたかった。
俺がどれだけあなたを好いているか。
『……ふふっ』
なぜか笑い出す大隅先輩。
それから、彼は――
『いやぁ、いいよ。もう、今日は遠慮しとく。べらべら喋るのはね』
「え。でも――」
『そんなに威嚇してくれなくたって簡単だよ。君に電話した理由』
「……?」
『単純に気になってたんだ。どれだけ甘っちょろい理由で雪妃ちゃんの傍に君がいられてるのか、ね』
「っ……!」
『でも、それもよくわかった。夜も遅いし、ここらでお開きにしよう』
ありがとう。
感謝の言葉を残し、先輩は通話を一方的に切るのだった。
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