第50話 付き合ってること、言っちゃった
ゆぅちゃんと水着を買いに行った日から三、四日ほど経って。
遂に俺たち一行は離島へ行く日を迎えた。
まずは灰谷さんちへ集合し、そこから彼女のお姉さん(大学生)――寧々さんがフェリー乗り場まで車を出してくれる。
話を聞くに、どうも寧々さんも離島へは行くみたいだった。
夏休み前に彼氏と別れてフリーだし、暇だし。とのこと。
そんなことだからか、車内で俺は散々皆に煽られ、イジられた。
『雪妃ちゃんとナワナワ君、キスはまだか? まだだったらお姉さんがエッロいキス教えたる』
なんてハンドル片手に目を閉じながらキス顔を作る寧々さん。
それを見て、冴島さんも武藤さんも大爆笑だったんだけど、俺は一人、『頼むから前ちゃんと見て運転してくれ』とヒヤヒヤしてた。
ゆぅちゃんは俺の隣で顔を赤くさせ、『やめてよぉ!』と反論してる。
灰谷さんは……いつもならこういう時、テンション高めに盛り上がってるんだけど、この時は頬を引きつらせながら作り笑いをするばかり。明らかに様子が変だった。
それもそのはずだろう。
あの日。ゆぅちゃんと水着を買って、アイスを食べてた時。
彼女は、俺にLIMEで謝罪のメッセージを送ってきた。
もちろん、それがどういう意味なのか、すぐにこっちも追及した。
が、灰谷さんはそれに対して何も答えず、既読無視を決め込むばかり。
今日だって会ってすぐにどういうことなのか聞こうとしたんだけど、『落ち着いてからまた話す』の一辺倒。
そもそも、このメンツで落ち着く時があるのか、と問いたいレベルなのだが、彼女も話さないとは言っていない。
離島へ行ってる最中、どこかのタイミングで謝罪の意味を教えてくれるんだろう。
それをひたすら待つことにした。
だから、ここで灰谷さんの様子が変だったとしても、俺は何も触れない。
知らないふりだ。
――で、車を走らせてもらうこと二時間ほど。
お目当てのフェリー乗り場まで着いた俺たちは、車から降りる。……かと思っていたのだが、
「え、えぇ!? このまま乗るんですか!? フェリーに!?」
「そ。じゃないと島へ着いてからの移動手段が無くなるからね。歩いてじゃ買い物もろくにできやしないんだから」
驚くしかなかった。
寧々さんは車のままフェリーに乗り込んだのだ。
船上旅行は初めてだったけど、こんなことまでできるなんて。
フェリー。凄すぎる件……。
「そんじゃま、こっからはしばし各々船の旅をお楽しみください。お姉さんはちょっくら部屋の方で仮眠取って来るんで」
車から降り、船内に移動した矢先、寧々さんはあくびしながらこんなことを言う。
しっかり個人ルームの予約も取ってらっしゃったみたいだ。手慣れてるな。
残された俺たちは、適当に船内のどこかで時間を潰すかしかなくなった。
一応、売店みたいなところは色々あるし、何か食べようと思えば、買って飲食も可能。
だけど、昼食時というわけでもない。現在の時刻は十時半。中途半端に食べたら、後に差し支える。
「とりあえず、上の方上がってみよっか。眺めもいいし、せっかくだから海風に当たりたいし」
冴島さんの提案で、俺たち五人は階段を使って船内の最上階へ。
人の波をかき分け、扉を開けて船上デッキへと出た。
瞬間的に勢い強く海風が前髪を飛ばす。
「きゃー」と声を上げる女子陣。
俺は特に髪の毛をセットしてるわけでもないナチュラルだから、そんなもの意に介さず、「おぉ」と呑気な声を上げるだけだった。感動はしてる。船の上で海風に前髪を飛ばされるなんて。
「でも、なんかごめんねー、名和くん。こんないい体験、ほんとは雪妃と二人きりでしたかったんじゃない?」
傍にいた武藤さんが苦笑しながら問うてくる。
俺はそれを聞いてポカンとしたのち、彼女へジト目を向け、
「なんか武藤さんにあるまじき発言なんですが、それ……。大丈夫ですか? 船酔いしてます?」
「うわ、ひどいなーw 別に体調は万全だし、船酔いもしてないしw 付き合いたての男女の間に入るべきじゃなかったかもっていう私なりの気遣いなのにねーw」
「別にそんな気遣い無用ですよ。俺たちは俺たちで好き勝手にやります。こういう機会だって全然あっていいと思いますし」
俺が言うと、横でゆぅちゃんがうんうん頷いている。
「恋人も大切だけど、友達も大切だから。私」
ゆぅちゃんがそう言うと、武藤さんは「おぉー」と口を丸めた。
「ですってよ、絵里奈さん。友達も、大切ですって」
「……何でそこ強調するの……」
意地悪く武藤さんに言われ、口元を引きつらせる冴島さん。
「べっつに~w ただ、雪妃が友達も大切って言うから、友達代表の絵里奈がその言葉を第一に受け取るべきかな~と思いましてw」
「わざとらしく言わないでいいから! もう!」
頬を膨らませ、冴島さんがチラッと俺の方を見てくる。
何だ、その意味ありげな視線は。俺はこの状況、何もできませんよ?
「まあいいや。あなた方三人の話は島へ着いてからくわしーく聞くことにするとして。おい、美海? アンタさっきから何だんまり決め込んでんの? 今回の旅の主役はアンタでしょ?」
武藤さんから話を振られ、灰谷さんが体をビクッとさせて反応する。
この様子。誰の目から見ても不自然なのは明らかだ。さっそく質問が飛んだ。
「お姉さんの車の中でもそうだったけど、アンタ今日様子おかしくない? どうしたってのよ? らしくない」
「あ……あー……う、ううん。別に何でも~……あ、あはは……」
いや、絶対なんかあるでしょうに。
「いや、絶対なんかあるでしょうに!」
俺が浮かべた言葉そのままを武藤さんが口にする。
エスパーか何かかな?
「な、何でも無いって。ほんと……その、今は……」
「今はって! じゃあ、後からだとあるってこと? めちゃ気になるじゃん。今話しちゃえよ」
「え、えぇ……」
言われ、露骨に困ったような顔をする灰谷さん。
けど、俺も思う。何に悩んでるのかさっさと話して欲しいし、話すなら今だと思う。
離島のおじいさんちに着けば、またドタバタするところから始まるだろうし。
「俺も今聞きたい。メッセにも送って来てたよね。『ごめん』って」
俺が言うと、ゆぅちゃん以外の二人。冴島さんと武藤さんが「え?」とこっちを見てくる。
完全に話さないといけない流れだ。
「どういうこと、美海? 名和くんに『ごめん』って」
「あ、アンタまさか……絵里奈と同じでレズ娘だったとか!? 名和くんより先に雪妃の純潔奪っちゃいましたよ~、みたいな」
「そ、そんなわけないよ! あり得ないし! そもそも、仮に同性が好きだったとしても、そんなことしないから! 絵里奈じゃあるまいし!」
「なっ!?」
心無いことを言われ、わなわなと震える冴島さん。
が、その怒りを誤魔化すようにわざとらしく咳払い。
「冗談は置いといて、本当にどういうこと? 話してよ、美海」
「うん。私も気になってるって。何? 名和くんに『ごめん』って」
「う、うぅ……」
もはや逃げ場のなくなった灰谷さん。
ゆぅちゃんは俺の傍で俺の服の袖を掴んできてる。
どことなく嫉妬の波動を感じた。勝手にチャットし合ってた。そう思われてたりするんだろうか。
「じゃ、じゃあ言うけど……」
「「うん」」
冴島さんと武藤さんの声が重なる。
灰谷さんは遂に重い口を開いてくれた。
「わ、私……ナワナワと雪妃が付き合ってること……大隅先輩に言っちゃって……」
「「「はい?」」」
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