第44話 お風呂!? いえいえ、不吉な予感です。
終業式を終えた後、各々のクラスでホームルームをし、俺たち生徒は成績表を渡されたり、夏休み中における夏期講習の日程確認などをさせられる。
――高校時代は青春のど真ん中!
そんなことを漫画のキャラかラノベのキャラか、はたまたエロゲのキャラか誰かが言ってた気がするけど、ど真ん中であるならば、夏休みくらい勉強から解放させてくれよ、と思う。
いやね、そりゃもちろんわかってるんだよ?
いい大学とまではいかなくても、そこそこの大学に入るのだって割と大変で、勉強が必要になってくるってことは。
けど、だからって夏休みの中で『夏期講習』なんて銘打って学校に登校させるってのはいかがなものなのかと考えるわけですよ。
長期休暇は長期休暇で休ませてくれていいじゃないか、と。
大学進学を目標に頑張る人は、それぞれ自習をするって形で頑張ればいいんであって、わざわざ全員が朝早くから起きて学校に行くなんてどこにもないんだ。
だから、おかしい。
強制参加の夏期講習が行われるなんて、そんなのまったくもっておかしい。
俺は、うちの学校に勤務してる先生全員に対してそうやって言ってやりたいと思ってるよ。
「――うんうん。なるほど。よくわかったよ、さと君。確かにおかしいね、夏期講習強制参加は。私も凄くそう思う。それが無かったら一日中エロゲをできたのに」
時刻、十五時三十四分。
クーラーの効いた小綺麗な一室にて。
俺は、ノートパソコンとにらめっこしてる女の子――月森雪妃さんのすぐ後ろで抱えていた不満をぶちまけた。
ちなみに、彼女は今、ヘッドホンをしてるし、何ならエロゲをしてる。
お付き合いを始めて加速する雪妃さんのエロゲ熱は留まるところを知らず、既に勧めたものの一本をオールルートクリアさせた。まだ三日ほどしか経ってないのに。
「……あの、雪妃さん? 一応聞きますけど、今俺の声ちゃんと聞こえてたんですか? ヘッドホン付いてますが……」
こっそり言うと、彼女はぷくっと頬を膨らませた状態でヘッドホンを外し、後ろへ振り返った。
「呼び方は『ゆぅちゃん』でお願いって言った。聞こえてるよ」
「あ、ほ、ほんとだー……すごい地獄耳」
「地獄耳にもなる。……さと君がゆぅちゃん呼びしてくれない……」
言いながらシュンとするゆぅちゃん。
しかし、付き合ってさらに思うけど、教室で見せてるいつもの姿と、俺の前で見せてくれる姿にギャップがあり過ぎる。
何だ。普段はあんなにクールで近寄りがたい美少女って感じなのに、今はこんなにシュンシュンしちゃって。
控えめに言って可愛過ぎる。抱き着きたい。抱き着いてゆぅちゃんが不健康にならない程度にエネルギー補給したい。あぁぁ! でも、ダメだ! 我慢、我慢だぞ、俺!
「い、いや、あの、どうしても慣れないところがありまして……」
頬を掻いて、誤魔化すように言う俺。
ゆぅちゃんは不満なのか、そんな俺の手を握り、にぎにぎしながら、上目遣いで返してくる。
「私だって慣れないよ? さと君って呼ぶの。反射的に名和くんって呼びそうになる」
「お、俺は別に気にしないけどね……? な、何ならつ、つき――じゃなくて、ゆ、ゆぅちゃんに存在を認識されて呼ばれるだけでも幸福だから」
「……んんん……それはネガティブ過ぎ。……だし、なんかそうやってすごく意識されながらゆぅちゃん呼びされるのも……こっちとしては恥ずかしくてたまらなくなる……。顔……熱い……」
おっしゃる通り、ゆぅちゃんはぽーっと顔を赤くさせ、それを手でパタパタ仰いでた。
尊い。その一言に尽きる。
「だ、ダメだ……今、なんか急にさと君の顔見れなくなった……。……学校であんなこと言ってたのに……私……」
「あ、あんなこと……?」
俺も顔が熱くなってくる。間違いなく赤い。
「ほ、ほら…………その、絵里奈にエッチなことされたら……わ、私がそれ以上のことを……ってやつ……」
「っっっ……!!!」
うぅぅぅぅぅぅぅむ! あ、あれはねぇぇぇぇぇぇ!
なんか俺も勢いと反射で頷いちゃってたけど、確かにヤバすぎる発言ではある。
ヤバいよ! って言うべきだったんだろうけど、なんせ距離が近すぎて、ドキドキしすぎて、肯定以外の選択肢が頭の中に浮かばなかったんだ。冷静に考えたら凄まじい出来事でしかなかった。ホームルーム前の時間に俺たちは何してるんだって感じ。
「ま……まあ、ね……? す、過ぎたことを言っても仕方ないし……に、人間、過ちをしてしまうことはあるものなので……」
「うぅぅぅ……過ち……過ちでしかない……夏の体育館裏での過ち……」
「……なんかそう言われるとエロゲ的シチュのようにしか聞こえなくもないけど……」
「い、今そういうのは禁止なの……! あぅぅ……」
「す、すいません……」
二人して、頭上から湯気を出すレベルで赤くなる。
傍から見れば『何してんだ?』としか思われないはず。
でも、それだって仕方ない。
俺、女の子とお付き合いするのなんて初めてなんだし……! そもそも、気の利いた楽しませ方なんて心得てないし、さっそくエロゲさせてるくらいだしぃ!
「け、けど、ほ、本当によかった……? こんなエロゲで恋人っぽいことを学ぶ……なんて」
「い、いいよ……。ていうか、それは私が提案したことだし……そもそも私だって……彼氏ができてどうすればいいのかなんて……わ、わかんなかったし……」
「と、とりあえずは、エッチなことを学ぶ、の派生形ということで……?」
「そ、そう……! そうなの……! そうやってさと君とも仲を深めたからね……! 私たちにとってはそれが一番かなと思って……!」
けど、だからってこんなやり方で恋人っぽいことを知ろうとするカップルなんて全国どこ探しても見当たらないと思う。
エロゲの主人公とヒロインの絡みを参考に、だなんて……。
「ほ、ほら、たとえば、見て? 今のこのシーン。ちょうどね、主人公の大輔君がヒロインのサリエルちゃんをお姫様抱っこでお風呂まで運ぼうとしてるの。私たちもこういうの、するべきじゃないかな?」
「おおお、お風呂ォ!?」
お姫様抱っこ以前にお風呂で動揺する俺。
そんなのもう裸と裸のアレじゃないですか!
「いいよね……この愛し合ってる雰囲気……。きっとこれから二人は大好きって想いを伝え合うんだよ……」
うっとりした表情で言うゆぅちゃんだけど、俺にそんな余裕はなかった。
いや、雪妃さん? 愛し合うのは愛し合うと思うのですが、ヤるのは男と女の●●●●ですよ。どう考えても。俺たちにはまだ早くないですか?
「私もやりたい……! この夏休み中に、こうしてさと君とラブラブするの……!」
「ぅがぐっ……!!!」
ヤりたいだなんて、そんな……!
「お泊りも一回くらいはしたいし……どこかへ行きたいなぁ……。私の家だとお父さんとお母さんがいるから無理だし、さと君ちだってお父さんとお母さんがいるもんね……。うーん……」
「あ、あの、雪妃さん……それは……」
「むぅ……! また雪妃って言った……! ゆぅちゃん……! んんっ……!」
言いながら、俺のお腹を人差し指でツンツン突いてくるゆぅちゃん。
心の中でなら簡単にゆぅちゃん呼びできるのになぁ……うーむ。
「ま、まあでも、そういうのはおいおいするとしてさ、とりあえず明日のことじゃない?」
「明日のこと……?」
きょとんとして小首を傾げるゆぅちゃん。その仕草すら可愛いと思えた。あぁ、触れたい。でも、簡単に触れたりしたらダメだ。
「う、うん。ほら、この家に冴島さんも入れて集まるんだよね? 彼女からLIME入ったけど」
「うん。なんか、絵里奈からの提案だった。大事なお誘いがあるから、さと君も入れて集まろうって」
「大事なお誘い……?」
何だろう。あんまり心当たりというか、予想する当てがないが。
「私も詳しくは聞いてないんだ。絵里奈、当日になって言うって言ってたし」
「あぁ、そうなんだ」
気になるけど、彼女がそう言うなら仕方ないか。どことなく波乱の予感がするのは気のせいであって欲しい。
「何だろうね。ちょっと嫌な予感がする」
「え、ゆ、ゆぅちゃんも……?」
頷くゆぅちゃん。
二人して嫌な予感とは何とも不吉な。
「けど、そんなこと深く考えても仕方ないよ。ほら、ゲームの続きしよ?」
「あ、う、うん。……でも、ちょっと待って? 今からそれ、思い切りエロシーンだよね?」
「そうだよ。……一緒に、二人でヘッドホンしながら聴くの。……ね?」
そう言われて、またも動揺する俺だったが、結局強引にヘッドホンを付けさせられ、俺たちは二人して仲良くエロボイスを聴くのだった。
……本当に、俺を褒めて欲しい。よくおかしな空気にならないな、と。いや、もうなってんのかな、これは?
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