第34話 同人誌でもよく読みますし
「ちょっ、あ、あのっ、か、勘弁してくださいよ! 俺、勉強しなきゃいけないのに!」
「あはは~。いいからいいから~」
「よくないですって!」
図書室で勉強してたところ、灰谷さんと遭遇し、俺は引きずられるようにどこかへ連れて行かれていた。
周囲の目が痛い。
「てか、そもそもどこに行くつもりなんですか!? テスト週間ですよね!? 灰谷さんも勉強とかしないといけないはずじゃ!?」
「私は別にのんびりマイペースでやってけばいいから~。誰かさんと違って点数勝負するわけでもないですし~」
「ぐっ……!」
他人事みたいに言って……!
別に灰谷さんが俺と冴島さんを競わせたわけじゃないけど、彼女、何だかんだ武藤さんと仲がいいってことで、俺の今の状況をからかって楽しんでる節がある。
そうなれば、もうこっちからすれば同じだ。武藤さんと同じ。
「それにさ~、ナワナワ~? テスト初日までまだ四日くらいあるわけじゃん~? 大丈夫だよ~、ちょっとくらい私に付き合ってくれたって~」
「大丈夫じゃないから焦ってるんですよ! まさか冴島さんがあんなに成績いいと思ってなかったし、彼女を超えようと思ったら俺、結構頑張らないといけないんです!」
「あは~(笑) ガンバ~(笑)」
「おぃぃぃぃ!」
楽し気に笑いながらも、俺の手首を掴んでる力は緩まない。
この人、ふわふわ女子の雰囲気醸し出してるくせに、結構怪力だった。逃れられそうにない。
「まあ、けどね、ナワナワ~。私だってナワナワのこと、別に妨害しようとしてるわけじゃないんだよ~?」
「……それ、今のこの状況見て言えることなんですか?」
「うんっ。言える言える。これはあくまで私なりの協力ってやつだから~」
「は、はぁ……?」
何を訳わからないこと言ってるんだ、この人は。
疑問符を浮かべる俺だったが、彼女は楽し気に続ける。
「ナワナワはさ、私たちと絡み始めてまだ間もないからね~。何もわかってないんだよ~。絵里奈のこととか、雪妃のこととか~」
「……それは……」
……まあ、確かにそうなのかもしれない。
元々、絡むことのない人種だし、俺たちって。
「だから~、そこんとこを今から私が教えてあげようと思ってね~。色々、勝負溶かしたりする前に~」
「勝負する前って、もう始まってるじゃないですか……」
「まだまだ~。テストは始まったわけじゃないでしょ~? 点数なんて全然変えられるよ~」
お気楽な灰谷さんの物言いにため息をつく。
変えられるかもしれないけど、その上げ幅は既に限られてる。
残りの四日間、死ぬ気でやるつもりでいるが、俺が冴島さんに勝てるかどうかはギリギリの話だ。こういう時間も惜しいってのに。
「だいじょぶだいじょうぶ~。んじゃ、駄弁る場所、テキトーなファミレスとかでいいよね~? 希望ないっしょ~?」
「ないですけど……」
「おけけ~。それでは、ついてくるのじゃ~」
「……はぁ……」
改めてもう一度ため息をつき、遂に俺は観念した。
大人しくし、彼女について行く。
しかし、冴島さんと月森さんの詳しいこと、か。
勉強の時間が削られるのは痛いが、そこは気になるところでもあった。
灰谷さんと二人きりで話すってのも珍しくはあったし。
●〇●〇●〇●〇●
「そんじゃね、まったりと話していくとしますよ~、我が友たちのことを~」
「まったりってのは困りますけどね……さっそく思いっきりパフェ頼んでるし……」
俺がジト目で言うと、灰谷さんは「んふふ~」と笑って、長いスプーンで眼前のクリームをすくった。
そんでもって、それをパクリ。
幸せそうに頬を抑えてる。やれやれだ。
「それで、月森さんや冴島さんのことってのはどんなことなんです? 早く教えてくださいよ」
「はいはい。教えますってば~」
言いながら、さらにクリームを口の方へ持って行く灰谷さんだった。それじゃ喋れんでしょうに……。
「んっとね~? まず、単刀直入に聞くんだけど~、ナワナワ的には女の子同士の恋愛ってどう思う~?」
「え?」
「いきなりでびっくりって感じ~? でも、答えてみて~? 嘘つかないで、ありのままに~」
どう思うって言われたって……。
含みのある言い方だったし、何か罠でもあるのか?
自分の中の答えとしてはちゃんとあったけど、それをそのまま口にしていいのかと不安になり、つい考え込んでしまった。
少し悩み、口にする。
「好き、ですけどね。同人誌でも積極的にそういうジャンルはよく読みますし」
「へ? ドウジンシ?」
パフェを食べてた灰谷さんの手が止まり、はてなが頭上に浮かぶ。
瞬間的に思った。マズい、と。
ありのまま過ぎた、と。
「あっ、あのっ、ま、漫画とか、映画とかってことです! 女の子同士の恋愛もの、俺結構観たり読んだりするので!」
その言い方もどうなんだ!?
引かれかねん気もするが!?
心の中のもう一人の俺が叫ぶも、
「あぁ~! そうなんだ~! へぇ~!」
思いのほか灰谷さんの反応はいいものだった。
嬉しそうというか、そんな感じ。
「いやぁね~、正直なとこ、ここで君が『気持ち悪い』とか言ったら、私は速攻で帰すつもりだったよ~。話す必要はないし、そんなこと言う人が絵里奈や雪妃と絡んで欲しくなかったからさ~」
「っ……。そ、そうですか……」
声音は通常通りだが、目が笑ってなかった。本気だ、アレ。
「でも、よかった~。ナワナワは絵里奈の恋愛嗜好に肯定的なんだね~。うんうん」
「別に否定はしないですよ。そんな資格、俺にはないですし」
「そうだね。君にそんな資格はない。何なら、私にも、楓にもないよ」
「ええ」
「絵里奈の想いを否定していいのは、雪妃だけ」
「……」
「雪妃だけなの。ちゃんと答えてあげられるの。絵里奈に」
「それは、告白を断るってことですか?」
「端的に言えば、そうだね。けど、もっと深いところで言うと違うのかも」
「……?」
どういうことだ? 今のセリで、告白以外の意味があるとでも言うんだろうか。
俺が軽く首を傾げると、灰谷さんも「うーん」と考え込んで、
「ごめんね、ナワナワ。やっぱ無理。これ話し出すと、どうしても長くなっちゃう」
「え……」
「でも、二人のこと教えてあげようと思ったら、これ話さないと始まんないんだよね」
――いいかな? 長くなっても。
申し訳なさそうに問うてくる灰谷さん。
あまり見たことのない彼女の真剣な表情だ。
俺は、気付けば頭を縦に振ってた。
いいですよ、と。
「なら、中学の時のことから話すね。絵里奈が、たぶんここで雪妃のこと好きになったって時の話」
【作者コメ】
突然ですが、私せせら木、ツイッター(X)を昨日から本格始動させ始めました。
そもそも何でやってなかったんじゃいって話ですけども、理由はシンプルに面倒だったからという……。
まあ、とにもかくにも始めましたので、よろしければフォローしていただけると嬉しいです。新人賞の結果報告なり、身近な話なり、NTR同人読んで脳が破壊されたなり、色々呟いてますので。せせら木の生態がもっとわかると思います。
あ、あと、近日中に新作NTR系作品投げ始めます。設定もこれってのが決まったので、興味があればぜひぜひ。
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