第29話 慣れた女の子は月森さんだけ
「俺もいたんです。その場に。月森さんと、冴島さん。三人で遊んでました」
俺のカミングアウトに、武藤さんと灰谷さんは驚いた顔で反応する。
言うべきじゃない。さっきまではそう思ってた。その方が事を穏便に済ませることができるだろう、と考えていたから。
でも、月森さんが二人から問い詰められてて、どことなく答えづらそうにしてる。
助け舟を出さないわけにはいかなかった。このまま黙り続けて、自分の身を守るだけってのもおかしいから。
「え? ええぇ? でも、何で? どして名和くんが二人と一緒に遊んでんの? その経緯とかめためた気になるんですけど」
弁当に入ってたパスタをパクパク啜りながら、灰谷さんが不思議そうにしてくる。
武藤さんは真面目に俺の顔を見つめ、首を傾げてた。「君が自分から交ぜて、なんて言わないよね?」なんて聞いてくる。俺は頷いた。
「誘ってきたのは冴島さんです。俺も最初は驚いたし、何なら断ろうかなとも思ってました。月森さんはともかく、冴島さんとはまだそこまで面と向かって会話したことなかったから……」
「その言い方だと、雪妃はもう手籠めにしてる、みたいな感じだね」
「て、手籠めってのは違いますけどね!? あと、そういう表現やめてくださいよ! なんかちょっと……や、やらしい、というか……」
「あっはは! ピュアな反応だなぁ! もう! なんか雪妃が君に深入りする理由がわかってきたかも! 面白いねぇ、名和くん!」
「っ……」
面白いって評価は反応に困るな……。
褒められてるのか、バカにされてるのか、よくわからない。
「ね、雪妃。雪妃も名和くんのこと大好きだし、両想いって感じだ」
「りょ、りょりょ!?」
浮かない顔をしてたのに、ボッと顔を赤くさせて動揺する月森さん。
だからそういう言い方はやめてくれって言ってるのに。やれやれ……。
「わ、私、べ、べべ、別に名和くんとは……」
「ラブラブだよねー? 名和くん本人も、絵里奈より雪妃の方がいいって言ってるし~」
「がっ……! だ、だからですね、武藤さん!? 違いますから! 冴島さんより月森さんの方がまだたくさん一対一で会話してたから慣れてるって意味であって――」
「えぇぇ~! 雪妃の方がもう色々こなれてるんだって~! ねぇ、聞いた~? 美海~? あんたは弁当食べるのに夢中になってないでさ~?」
「やふぁいほへ(ヤバいよね)。ふぃんふぁっふるほふぁんひょうふぁ(新カップルの誕生だ)」
「こなれてなんてないですからぁ! 言い方ぁ!」
楽しそうにニヤニヤしながらからかってくる武藤さんにツッコみ、俺は肩で呼吸をしてた。
こなれてるとか、色々マズいでしょうが。完全にシモの方の話でやっちゃってますよ、この人。見ろあの顔。楽しそうに悪魔みたいな笑みを浮かべよって……。
「んっふふふ~。でもまーさ、君をからかうのも面白いけど、今は遊んでる場合じゃないよね。私らのリーダーさんは不調のようだから」
「っ……」
こなれてるだの何だのっていうやり取りで、意味がわからずずっと頭上に疑問符を浮かべてた月森さんだが、冴島さんの名前を出された瞬間、また浮かない顔になった。
ほんと、昨日あの後何があってったいうんだ。
「俺の勝手な推測でごめん、月森さん。冴島さんのことだけど、喧嘩したってわけじゃないよね?」
問うと、月森さんは、助けて欲しそうな顔で俺を見つめ、小さく頷いた。
「なるほど。それは、雪妃のカレピくんが見た感じ、不穏な空気は絵里奈と雪妃の間に走ってなかったってことかな?」
「カレピでも何でもないですから。そろそろ勘弁してくださいよ、武藤さん……」
「じゃあ、ピ?」
「一緒の意味でしょうが。そんなピエン顔で言われても困りますよ」
しょうもなさすぎてため息をつくと、面白そうに「くくくっ」と笑う武藤さん。ダメそうだ。俺はしばらくこの人に玩具扱いされる生活を送らないといけないのかもしれない。
「ふーっ、食べた食べたー。ごちそうさまー」
真剣なやり取りとくだらないやり取りを半々ずつでしてると、灰谷さんがお食事を終えられたようだった。そういや俺、まだあんま昼飯に手付けてなかったな。月森さんもっぽいけど。
「それでそれで? 聞いてた感じ、ナワナワが今回の件で色々カギ握ってそうな雰囲気あるんだけど? 私の思い違いかな?」
「い、いや……」
たぶん合ってる。
確定的なことは言えないが、自分自身そんな気はしてる。
カフェで俺は冴島さんに宣戦布告されたからな。
月森さんを巡って勝負だー、みたいな感じで。言い方は少しユルかったけど。
「合ってるんだ? 名和くん。君自身も、今日絵里奈が学校に来なかったの、自分のせいだと少なからず思ってる、と」
「……まあ。ちょっとは」
ぎこちなく言うと、月森さんがまた助けて欲しそうな目で見てきた。
言っていいんだろうか。
俺が冴島さんに決闘を申し込まれたこと。
月森さんを巡って、恋の勝負を謎に吹っ掛けられたこと。
「えー! 何々? 何したの、ナワナワー? 絵里奈に何したん? どんなことがあったんー?」
灰谷さんが俺の腕を掴んで揺さぶり、聞いてくる。
距離が近い。
月森さんはそれを見て、少し不愉快そうな顔をしてた。何でだ。
「別に何もしてないですよ。むしろ、されたのはどっちかっていうと俺の方って感じで」
「え? どういうこと? 名和くんが絵里奈に何かされたの? 訳わかんなくなってきたんだけど」
「お、俺もわからないですよ。ただ、これはそもそも言っていいのかわからないことで……」
「いいって、いいって! ここまで来て隠し事とか意味わかんないし、そもそも情報の出し惜しみして絵里奈ずっと放置してるわけにもいかんじゃん? アレは私たちで助けなきゃなんだし」
「……ま、まあ、そうですよね」
その『私ら』には俺も含まれてるような言い方だな。
なんか俺、本当に気付いたら陽キャラの女の子たちの輪の中に入ってるんだが……。
「じゃあ、言いますよ? 俺が冴島さんにやられたこと」
「うん。逆レされた?」
「されてません!」
「逆レされて、君の反応が悪かったからアイツ寝込んだのかな?」
「されてないって言ってんでしょうが! もう、からかい禁止ですって!」
あくまでもこんな時にまで俺をからかうスタンス。もういい。早く話してしまおう。
「宣戦布告されたんです。俺」
「「へ?」」
頓狂な声を上げ、疑問符を浮かべる灰谷&武藤。
月森さんも首を傾げてた。
俺は咳払いし、
「つまりですね、冴島さんは恋愛的な意味で月森さんのことが好きで、彼女は、そんな月森さんが俺のことを……す、好き……だと思ってらっしゃる。だから、恋の戦いをしようってことで、宣戦布告をされてきて……」
「「……w」」
「っ……」
嫌な顔だ……。
格好の面白ネタを見つけた、みたいにニヤニヤして、灰谷&武藤はこっちを見つめてきてる。
俺は、そんな二人から速攻で目を逸らし、月森さんの方を見た。
彼女は彼女で、頬を朱に染め、人差し指を顎元にやりながら、挙動不審に俺を見つめたり、視線をどこか別のところへやったりと、動揺の極みにいるみたいな感じ。
状況はカオスだ。収拾付けるのが死ぬほど面倒くさそう。何でこんなことになった、ほんと。
「何それ何それ~w めちゃめちゃ楽しそうじゃんw 絵里奈、そんなこと名和くんに行ったんだ~w」
「ねw 絵里奈が雪妃にラブなのは知ってたけど~、状況がここまで面白くなるとは思ってなかったですよ~w 最高にいい仕事してますぜ~、ナワナワの旦那~ww」
「い、言っときますけど、ふざけてる場合じゃないんですからね!? 冴島さんはこうして謎に休んでるわけですし! 体調不良も考えられますけど!」
「いやいや~w 宣戦布告した後にさりげなく絵里奈へダメージがいくようなこと、雪妃にしたんじゃない、名和くん~? それでアイツ寝込んだ可能性全然あるよ~?」
「そ~そ~w 絵里奈、案外打たれ弱いところあるからね~w ナワナワは罪深い男ですな~w」
「そんなことないですから! もう! 月森さんもなんか言ってやってくださいよ、この二人に! 絶対そんなことないし、別に何か理由があって冴島さんは――って、……へ?」
気付けば、どことなく月森さんが俺への距離を縮めて来てた。
そして、瞳を潤ませながら俺を見つめてる。
まるで子犬みたいだ。どうしたんだろう。
「あ、あの、月森さん……? どうかしました……?」
問うと、彼女は首を横にフルフル振った。
ふわりと舞う髪の毛から、シャンプーの香りがする。
一瞬、ほわぁってなってしまった。いかん。
「ごめんなさい。名和くん。絵里奈は、私のせいで今日休んでるんだと思う」
「え……?」
告げられたのは、そんなことだった。
【作者コメ】
今日、応募用の原稿させまして、賞の方へ送りました。人権確保です。
あと、コメント返しは控えようかなって言ってましたけど、ちょくちょくきまぐれに返すことやっぱあるわ、とだけ。
「これ返さんとだろ」みたいなコメもあるのでね。難しいな。コメント返信問題。重く捉え過ぎですかね?
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