第28話 雪結晶のブレスレッドと俺と
「いや~、しかしこうしてみると新鮮で面白いメンバーだねぇ。陰キャく……じゃなくて、ナワナワが私たちの輪の中にいるなんて~」
「ナワナワって何だよ……。まあ、新鮮なのは新鮮なんだけどね。中庭の隅っこにこんないいスペースがあったなんて知らなかった」
教えてくれてありがと。名和くん。
弁当を食べながら言う灰谷さんにツッコみつつ、武藤さんは俺へ対し感謝の言葉を口にしてくれる。
それを受け、俺はいかにも陰キャっぽい笑みを浮かべてしまいながら、「いえいえ」とニチャる。
ヤバい。今のは普通にキモがられたかもしれない。スルーしたが、灰谷さんの言った『ナワナワ』というあだ名も何だかんだ嬉しいし。いかんなこれは。
「で、雪妃。名和くんは一旦いいとして、お前さんだよ、お前さん」
「へ……?」
武藤さんから話を振られ、黙り込んだままタコさんウインナーを口にしようとしていた月森さんは、少しばかりドキッとしたように反応。
危うくウインナーを地面に落としかけたが、それをパクっと食べ、ギリギリセーフだ。よかったな、タコよ。月森さんのお口の中に入れて。羨ま……いや、うん。よかったね。
「絵里奈の奴、今日はどうして休みなの? 君ら、昨日は二人で遊んでたんだよね?」
「えっ……」
何で知ってるの? みたいな顔の月森さん。
武藤さんはそれをすぐに察し、「ん」とスマホの画面を見せてきた。
「あ……これ……」
「絵里奈のイムスタね。あ奴、ご丁寧に昨日行ったカフェでの一枚を投稿してくれてるんだよ」
「あ、そうそう。それねぇ~。私も見た。そこに写ってる手、雪妃のだよね? 雪結晶のブレスレッドしてるし」
「っ!?」
灰谷さんの言葉を受け、月森さんはババッと見せつけられてるスマホへさらに顔を寄せ、それをしっかり確認。
で、自分であることが言い逃れできない事実を認識すると、引きつった笑みを浮かべ、視線を斜め下へやりながら認めた。
「私……だね」と。
武藤さんと灰谷さんは、声を揃えて「うん」と頷く。
危ねぇ。俺もその中に加わってたことはバレてないみたいだ。
一瞬、チラッと月森さんがこっちを見てきたが、俺はすぐにその視線を別の方へ逸らした。目は合わせずにいた方がいい。申し訳ない、月森さん。
「別にね、『私らも誘えよー』とかが言いたいわけじゃないんだよ? そうじゃなくて、昨日遊んでたのに、どうして今日、絵里奈は休んでるのかなーと思っただけなんだ」
「ね。風邪ひいたって可能性も考えられるけどー、私的にもそうじゃなくて、二人の間に何かあったのかなー、みたいな想像しちゃうんだよね。ほら。昨日の夜の段階で、絵里奈はすごく元気そうだし」
言って、灰谷さんはLIMEのチャットルームを見せてくれる。
冴島さんとのものだ。昨日の夜、しっかり元気そうにやり取りしてる。
「それでさ、実はここだけの話だけど、最近ね、私、絵里奈からちょっと相談受けてまして」
「相談……?」
武藤さんの言葉に疑問符を浮かべる月森さん。
相談とは何だ。
「雪妃が、最近特定の男の子と仲良し過ぎて気になるってね」
「へ……?」
「名和くんだよ。名和くん。ここにいるボーイが雪妃と仲良し過ぎて、あの子嫉妬しちゃってんの。わかりやすく言うと」
「へ、へぇぇぇっ!?」「うえぇぇっ!?」
動揺声を二人同時に放ってしまう俺と月森さん。
武藤さんはそれを見て、「ほら。そゆとこ」と真顔で指を差してくる。
「ちょ、ちょまっ……! あ、あのあの、えっとですね――」
「あー、いい。いいよ、名和くん。悪いけど、今君の弁解というか、弁明というか、種明かし的なアレコレは欲してないの。私は雪妃からこの件について聞きたくて。ごめんね」
「えっ……!? え、えぇぇ……」
何でだ……! しっかり、ちゃんと話すつもりでいるのに……!
「雪妃も。ごめんね。これは私の推測」
「あ……え……うぅぅ……」
「昨日さ、遊んだ時、絵里奈と何かあったんじゃない?」
「仲違いー? 喧嘩ー?」
続くように灰谷さんも首を傾げるが、「あんたは黙ってな」と武藤チョップが軽く彼女の頭に入る。「むぎゅっ」と悲鳴。なんか反応がマスコットキャラみたいだ。
「喧嘩……とまで行ってるのかどうかは知らないけどさ。どうなの? そこんとこ、教えてくれない?」
「っ……」
「すぐに『そんなことない』って否定しないのも答え出てるよね。何かあったって。どんなことがあったの? よかったら教えてくれない?」
「……」
問いかける武藤さんと、黙り込む月森さん。
そして、モグモグしながら眉をひそめ、首を傾げる灰谷さんと、冷や汗をかく俺。
どことなくカオスな状況だった。
真剣なのに、どこか冗談っぽさもある。
まあ、その冗談っぽさを演出してるのは、紛れもなく灰谷さんの影響だ。この人だけは事態をあまり重く捉えて無さそう。まあ、彼女らしいと言えば彼女らしいのだが。
「……あ、あの」
そんな中、俺は意を決して声を上げる。
武藤さんは少しだけこちらを見て、また月森さんの方に視線を戻しつつ、
「さっき言ったよね。今は名和くんの出番じゃない。君は後でまた――」
「い、いや、でも俺、昨日その場にいたんです」
「……え?」
「月森さんと冴島さん。二人と一緒に俺もいました。一緒に遊んでたんです」
「は……?」「えぇぇ~? そうだったのぉ~?」
武藤&灰谷はそれぞれに反応。
俺は彼女らを見据え、真剣な表情で頷くのだった。
【作者コメ】
ちょいと同時連載してる作品内でもアナウンスしたのですが、こちらの方の読者さんにもお伝えしておきます。
私、せせら木、懲りもせずにまた某賞への応募原稿を今作ってまして、現状推敲作業の段階なのですが、そっちの方にも力を注ぎたいということで、カクヨムでの更新が少々空くかもしれません。申し訳ないですが、そのあたり把握していただけるとありがたいです。
あと、この場を借りて感謝の言葉も。
いつも本作を読み、コメントをくださってありがとうございます。
返信はしてませんが、連載中はあまりしないようにしようと決めただけで、ちゃんと一つ一つ読んでます。励みになってます。
物語もどこまで続けようか、正直悩みどころではありますが、とりあえず一章の終わりで、いったん完結ということにしようかな、と思ってるところです。
何なら、通るとは思えないけど、お祭り感覚でカクヨムコンに出してみようかな、とか考えてたり。
まあ、その辺りのこともおいおいコメントしてくれればと思います。考えます。
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