第25話 私の『好き』と親友の『好き』

 絵里奈に支えられるような形で寝室に行き、私はベッドの上で仰向けにさせられる。


 これから何をされるかなんて、知識が無くても大体わかる。


「……雪妃。雪妃は可愛いね。本当に」


 囁くような声で呟き、絵里奈は私の首筋に顔を潜らせた。


「ひぁ……!」


 吐息がかかる。


 その生暖かさに体はゾクッと反応し、震える。


「え……りな……」


 名前を呼ぶと、私の親友は「なぁに?」と優しく聞き返してくる。


 それはいつもの絵里奈だった。


 いつでも私を引っ張ってくれる友達で、頼りになる、かけがえのない存在。


 でも、そんな絵里奈が今は少しだけ怖かった。


 何でだろう。


 怖いなんて、そんなことを思うつもりはまるでなかったのに。


 私のことを好きって言ってくれて、けどそれは友達としての『好き』じゃないのは明らかで、名和くんが教えてくれたようなことを、今私は絵里奈にされかけてる。


 ……名和くん。


 私、今ここでどうしたらいい……?


 絵里奈とはこれからもずっと友達でいたい。


 でも、ここで私が拒否するようなことを言えば、きっと関係はおかしくなるよ。


 私は絵里奈が好き。


 その『好き』は絵里奈の『好き』とは違う。


 どうしたら……どうしたらいいかな……?


 名和くん。


「っ……」


「……雪妃……?」


 気付けば、私の瞳からは涙が零れ落ちていた。


 どうしていいかわからなかった。


 自分の『好き』が、親友の『好き』と違い過ぎて、心の底から受け入れてあげられない現実が悲し過ぎて。


「……どうしたの? 何で泣いてるの、雪妃? どこか痛かった……?」


「……ううん」


 嘘。


 本当は痛かった。


 胸が。すごく。


 ギュッと握りつぶされるような、そんな痛みが絶え間なく続いてる。


「じゃあ、どうして泣いてるの? ……もしかして、嫌だったかな? こういうことされるの。気持ち悪かった……?」


「ち、違っ……! 絵里奈、それは――」


「いいの。わかってる。自覚はあったから。女の子同士なのにいきなり告白して、それで色々口走って。気持ち悪いんじゃないか、幻滅されてるんじゃないかって、ずっと心配だったから」


「絵里奈……!」


「それはそうだよ。雪妃の好きな人は、名和くんだもん。アタシ、それなのに強引に奪おうとして。は、ははは……! 最低……! 最低だよね……! ごめんね……!」


 言って、絵里奈は私から離れ、ベッドからも退く。


 うつむき、この世の終わりのような目の色で、口元を自虐的に緩ませてる。


 視線の先は私じゃない。


 右斜め下の床。


 真っ暗な床だった。


 そこだけを見つめ、何度も何度も謝ってきた。


 ――お願いだから、嫌いにならないで。


 ストレートにそう言わず、けれども繰り返す「ごめん」の言葉の中にはそれが確かに入ってて、私はその場でただ泣くしかなかった。


 違う。


 違うの。


 そうじゃない。


 そうじゃなくて。


 ……………………………………………………。


 その先に、冴える言葉を続けられたならどれだけ良かっただろう。


 私にはそれができなかった。


 何も浮かばず、ただ、ベッドに顔を突っ伏す。


 名和くん。


 あなたなら、どうしたかな?


 浮かぶのは彼のことばかりだった。






●〇●〇●〇●〇●〇●






 それから。夜遅く。


 気付いた時には、私は自室の中で立ち尽くしてた。


 絵里奈の家からどうやって帰って来たのか、道中のことは何も覚えてない。家を出た時のことも。


 けれど、たった一つだけ言えることがある。


 私は今日、大切な親友を失った。


 大切な親友の想いを受け止め切ることができなかった。


 どうしようもなくて、最低の人間だと思う。


 明日から、どうすればいいかな。


 わからない。何も。

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