第14話 浮気系を試したい月森さん
これは体感的な話なんだが、俺の住んでる街は、世間一般的に見て田舎寄りなんだと思う。
市の住民は二十万人程だけど、イメージしてる都会にあるような電光掲示板だったり、立ち並ぶビル、道路車線がいくつもあったりとか、交差点は人が大勢い行き交いして、なんて光景はほとんどない。
うちの親も言ってたけど、基本的には車移動だし、自然も多いわけだ。田舎に分類してまず間違いないはず。うん。たぶんそう。
で、まあ、そんな田舎住みの俺なわけなのだが、遊ぶ場所がどこなのかと聞かれたら、それはまだ色々と思い浮かぶ。
カラオケやボーリング、満喫にスポーツ施設、観光名所などなど、普段友達と外出することなんて滅多にない俺でもこれくらい出てくるんだ。遊びのプロと思われる陽キャの皆様だったら、俺が想像しえないギルティな遊び場もよーくわかってるはず。
知ってるんだぞ。学校の先生にバレない穴場のアソコとか、女の子とイチャイチャできるあんなところやこんなところを網羅してることくらい。
だから、そういう面をもっと知るって意味も込めて、俺はこの日をドキドキしながら心待ちにしてたのだ。
――そう。冴島さんと月森さんと俺。三人で遊びに行く日を!
「おっ待たせー&おっはよー。名和く~ん」
午前十時。駅前の銅像付近にて。
俺はソワソワしてるところ、一人の派手めな女の子に声を掛けられた。
「お、おはようございます、冴島さん。そ、その、本日はお日柄も良く……」
「あははっ! 爆笑なんだけど! 出会って早々かしこまり過ぎ(笑) もっと肩の力抜いてよ。ガッコの時みたいに」
「が、ガッコの時みたいに……。な、なるほど。確かにそうですね」
自分でもよくわからないが、謎の深呼吸を挟み、軽い挨拶をイメージ。イメージ……。
……って、ちょっと待て。俺、いつもそんな軽く冴島さんに挨拶とかしてるか? これがスタンダードみたいなところない? ていうか、そもそも彼女にそこまで挨拶した記憶ないぞ? 天と地ほど距離感あるし、住む世界が違う別世界の生き物みたいなとこあるし。
しかしながら、悠長に考え込んでる暇はない。さっさと適当な挨拶をしないと。
ええっと、ええっと……! ええい、もうこれだ! これが陽キャっぽいはず!
「い、いぇあ……。は、はろー……べいべぇー……?」
「んあははははっ! もーっ! どゆことー(笑) 訳わかんない方向に行っちゃってるし(笑) 大爆笑だし(笑)」
出会って早々お腹を抱えて笑われる俺。
おかしい……。これしかないと思ったんだけど、失敗してるらしい。本気で普段挨拶してないからわかんねぇ。教室入ったら速攻で席に着いて小説読み始めるから。
「まま、挨拶のことはもういいや。おはよ、ナワワン。絶好のデート日和だね」
「で、デート……ではないと思ってますけど……はい。おはようございます」
俺が返すと、冴島さんはニヒヒッと白い八重歯を見せて笑った。素直に可愛いと思ってしまう。思ってしまうのだが……。
今、さりげなく俺、ナワワンとかいうあだ名で呼ばれてたよな。
すごいよ陽キャ女子。感動だよ。俺にももう一つの名前があったんだ(?)。涙出そう。人生で初めてあだ名付けられた。今までずっと君付けかさん付けのどっちかだったから。
「デートだよ。ハーレムデート。可愛い女の子を右左の両方に侍らせてね」
「はっ、ハーレムって……!」
「だってそうじゃん? 男の子はナワワン一人で、女の子はアタシと雪妃の二人。こんなのもう、イケナイ感じになっちゃうのは当然ですよねぇ? お代官様~☆」
いたずらにニヤニヤしつつ、俺の腕を取ろうとしてくる冴島さん。
それをとっさに回避し、俺は焦りながらわずかに距離を取る。
それを見て、彼女はさらに面白そうにしながらクスクス笑った。開幕から猛烈に遊ばれてる感。
こうなるのは予想できてたけど、にしても出会って早々からだとは……。
こんなので俺、大丈夫なんだろうか。
月森さんはまだ来てないし、彼女が来たら来たでもっと波乱な展開になりそうなんだよな。
昨日の夜、送られてきたLIMEを読んだ時は思わず目を疑ったし……。
月森さん:『名和くん。明日、絵里奈も含めて三人で遊ぶよね?』
俺:『はい。遊びますね』
月森さん:『だったら私、こういうのやってみたい』(謎のドラマ画像送信しながら)
俺:『……? これは……?』
~既読後、五分ほど経ったのち~
月森さん:『浮気系のドラマ観たんだけどね。本命の恋人とデートしてるよそで、男の子が浮気してる女の子とダメなことするの。こういうの……明日シよ?』
俺:『あの。ちょっとうぃ、言ってるぇ意味がわ』(動揺のあまり震えて誤字する図)
月森さん:『?』
俺:『ちょっと意味がわからないというか……』
月森さん:『意味ならこの言葉通りだよ。私が次やらないといけないのはこれなの。浮気系の……ぷれいぇあおえをすること』
俺:『?』
月森さん:『打ち間違えちゃった。訂正→プレイ』
俺:『なるほどです!』(なるほどです、じゃない。バカか)
みたいなやり取りをしてたわけだ。
結局その後、考え直した方がいいんじゃないか、というメッセージを俺は送ったものの、今の今まで返信らしい返信は返ってこず、メラメラと燃える猫のスタンプが送られてきてるだけ。
いや、そこは燃えないで頂きたい。ぜひとも考え直して頂きたいのだ。
ほんと俺、今日どうなっちゃうの?
ただでさえ状況がややこしいのに、上手いこと立ち回れるんだろうか。
不安でお腹が痛くなってるところ、傍にいた冴島さんが向こうの方を見て反応した。
「おっ。やっと雪妃来た」
「……ほ、ほんとですね」
まあ、やるだけやるしかない。
頼む、今日一日を終えた未来の俺。
どうか。どうかお前だけは笑っててくれ。笑って一日を終えられててくれ。
俺は一人で祈り、頬を引きつらせ、作り笑いを浮かべながら月森さんを迎えるのだった。
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