第6話 脚と汗(?)
「はぁ~い! ゆーちゃんっ! お姉ちゃんが帰って来ましたよっ!」
バタン、と勢いよく開けられる扉。
クローゼットの中に寸前のところで隠れた俺と月森さんは、ギリギリ見つからずに済んだ。
「あっれ~? おかしいなぁ。まさか、ゆーちゃんもいないの? 買い物、結局パパとママに着いて行っちゃったのかね?」
んー、と声を漏らしながら、部屋に留まり続けてる月森さんのお姉さん。
外の様子が見えないから、何をしてるのかはわからない。
ただ、一つ言えるのは、彼女がこの部屋から出て行かない限り、俺と月森さんはずっとクローゼットの中で身を隠し続けなければいけないのだ。
正直に言ってヤバかった。
何がヤバいかって聞かれると、色々なのだが、まず一つ目は心音。
見つかりたくない。見つかったらマズいという思いから、バクバクと鼓動は当然速くなる。
まあ、これはこれでいいだろう。
問題はもう一つの方だ。
密着度合い。
もう俺、今月森さんとあり得ないくらい密着してる。
厳密に言えば、ハグし合ってる。
月森さんの胸部分から、むにゅ、と柔らかい感触がこれでもかというほどに伝わって来てるし、絡み合った脚と脚は、互いに刺激しちゃいけない部分に触れてる。
深く考えたら終わりなのは間違いなかった。
俺の膝が月森さんの●●●に……!? う、嘘だろ……!? とかいう思考に陥ってしまえば、突如として俺は気を失うだろう。
それくらいに意識はブラックアウト寸前で、呼吸は短く荒い。
何が何なんなのかわからず、ただ今こうして密着してるのは身を隠すためなんだ、それ以外に何も無いんだと必死に自分に言い聞かせてた。
だから、色々にヤバい。色々にヤバいという表現しかできない。察して、お願いだから。
「むー……。誰一人として電話にも出ないし……。どうなってんのー? うちの家族はー。ネグレクトかー? ネグレクトなのかー? お姉ちゃんがせっかく帰って来たのにー」
いや、ネグレクトとは違うのでは? と冷静に脳内でツッコんだ矢先だった。
「お。てか、ゆーちゃんのノーパソ電源付いたままじゃん」
「「――!?!?!?」」
や、やべぇ! 完全に忘れてた! てか、ゲーム自体も落ちてないんじゃないか!? や、ややや、ヤバイ!!!!!!!!
つい、脚にグッと力が入り、動かしてしまう。
すると、だ。
「んひっ……!?」
我慢できずに漏れ出たかのような甘い声。
それは密着してた月森さんのものだった。
「……え。今、声聞こえた……?」
マ ズ い。
お姉さんが月森さんの声に反応してしまった。
部屋は特段広いわけじゃない。クローゼットを開けられても何ら不思議じゃなかった。
遂に終わったか。そう思うのだが――
『セルフィーズド・コロシアムぅ♡』
「はぇ!? こ、今度は何!?」
マギアルートを完全攻略したからか、ゲーム自体タイトル画面に戻っていたんだろう。
突然いやらしいねっとりボイスがノートパソコンから発され、月森さんのお姉さんもびっくりした様子。
「……な……何これ……? もしかして……え、エッチなゲームなの……?」
お姉さんがそう言った瞬間、月森さんの体(主に脚)に力が入り、動く。
そのせいで、俺は俺のコカンティヌスを不用意にぐにゅぐにゅされ、思わず声を漏らしそうになった。
呼吸を荒らげながら、なんとか声を抑える。……抑えるんだけど、その一連の耐える作業でハッとしてしまった。
……まさか、さっき月森さんが声を出してしまったのは……。
……俺が触れた場所が……。
い、いやいやいやいやいや! 止めろ俺! 考えるな俺! そんなことはない! そんなわけはないんだ! 俺の脚が……! 俺の脚がッ……! まさか月森さんの●●●に当たったとか、そんなこと、起こってるはずがないんだぁぁぁぁぁぁぁ!
「はぁ……はぁ……はぁ……」
くらくらする頭の中、息絶え絶えになりながら俺は再び無の境地に舞い戻る。
舞い戻るけど、俺のコカンティヌスがちょっと鋼鉄化してることにも気付いた。
……もう、知らない。どうにでもなれだよ。
この状況、どうやって丸く収めていいのか俺にもわからないんだもの……(血涙)。
月森さんの脚にもそれはしっっっっっっっかりと触れてる。
俺、もしかすると明日から口聞いてもらえないかもね。絶交かもしんない。彼女の心に傷を付けたかも。鋼鉄化コカンティヌのせいで。
「あぁぁ……。こ、これ……やっぱりエッチなゲームじゃん……。ゆーちゃん……こんなの一人でシて……はぅぅ……」
クローゼット内も、クローゼット外も、考えられる限り月森さんにとって最悪なものになったこの現状。
彼女の心情を察してみても、もう自死は免れないといったところかもしれない。
俺は心の中で泣きながら、ただただ月森さんに謝ることしかできなかった。
ごめんなさい……本当に……ごめんなさい……。
コントロールできないコカンティヌスは、俺が責任を持って切断しておきます……。
それくらいに申し訳ない思いでいっぱいだった。
月森さん、さっきからなんか息が荒いし、下腹部の方も………………あ、汗がすごいから。
絶対、心の中で嫌な思いしてるんだよ。
そうだよ。そうに決まってる。
……………………そう……だよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます