第5話 好きな男の子には……ここまでするんだね

【お願い】

カクヨム公式さん。お願いだからBANしないで。ほんと、切に。靴ならお舐めしますんで。






 







 世の中には、『現実は小説より奇なり』という言葉があるけど、今ほどその通りだと頭を縦に振りたい状況はないと思う。


「ここにソフトをセットして……あ、入った。これで……うん。プレイ画面出てきたよ、名和くん」


 椅子に座り、ノートパソコンを前にしてる月森さんが、すぐ後ろに立ってる俺の顔を見上げながら言ってくる。


「りょ、了解……です。なら、たぶん今からタイトル画面が表示されると思うんで、待ってもらって……」


 言ってる最中に、そのタイトル画面がノートパソコンの画面全体に表示される。


 不穏なBGMと、どこかいやらしさを感じさせてくれるタイトル文字の色使い。


 そして――




『セルフィーズド……コロシアムゥ♡』




 声優さんのねっとりとしたボイスが発せられ、早くも俺は体が硬直しかけていた。


 こんなもの……本当に月森さんにプレイさせていいのだろうか……。


「な……なんか……お、思ってたよりも……その……す、すごそうだね……」


「ぜ……全然やめてもいいと思います……。ほ、本当にすごいんで……」


 少し恥ずかしそうにしてる月森さんに対し、思わず本音を言ってしまう俺。だって、本当にこのゲームヤバいから……。


「で、でも、とりあえずやってみようかなって思う。す、すごすぎて……もう無理ってなったら……そこでやめたいんだけど」


「あ、アリです。全然アリ。脳を破壊されたり、心に傷を負う可能性もあるんで。そうなったら元も子もないんで」


「の、脳……破壊? 心に傷を……負う? そ、そんなにヤバいんだ……このゲーム……」


「はい。俺もこれプレイしたことあるんですけど、その時でも――……あ」


 ま、マズい……。い、言ってしまった……自分でプレイしたことあるって……。


 口元を抑える俺だったが、当然ながらもう遅い。キョトンとしてる月森さんの方をちらーっと見やる。


「……? 自分でプレイして、どうかした名和くん?」


「あ。い、いえ。な、なんというかその……思い切りエロゲなんで……これをプレイしたことがあるって堂々と言うのもどうなのかなー……と思って……」


 ぎこちなく言うと、月森さんはクスッと笑った。


「そんなこと言ったら、私だって今から名和くんと一緒にこのゲームプレイしようとしてるよ? 気にしないで。そこはもう、同士だから」


「ど、同士……。あ……あはは……。そ、そう言ってくれると助かります……非常に」


「……うん。……その、ちょ、ちょっとエッチな同士だし……あ、あんまり他の人には言えないんだけどね……」


「……! は、はいっ。それはもう……そうですね。い、言えないです。誰にも」


 頬を赤らめ、俺から視線を逸らして言う月森さん。


 そんな彼女を見て、俺も心臓をバクバクさせ、挙動不審になってしまう。


 まだゲームもちゃんと始めてないってのにこのザマだ。本編をプレイし始めたらいったいどうなってしまうんだろう。しっかりしろ、俺。


「じゃ、じゃあ、そういうことで、やっていきましょうか。ゲーム」


「そ、そうだね。よろしくお願いします」


「う、うん。よろしくお願いします」


 お互いにぺこりと頭を下げ合って、簡単に操作から説明していった。


「まず、操作はキーボードで行っていきます。選択肢の移動は十字キーで、決定はシフトキーを押すんです」


「選択肢は十字キーで、決定はシフトキーだね。わかった」


「基本的にこのゲームは難しい操作とかあまりなくて、コロシアム、なんてバトル要素のありそうな名前してるけど、自分でキャラ操作をしなくてもいいんです。ストーリーを楽しむ小説型ゲームって感じなんで」


「ふんふん。小説型ゲーム。好きな女の子と仲良くなっていけるんだよね?」


「そうです。それをそれぞれ、●●ちゃんルート、★★ちゃんルートって呼ぶんですけど……まあ、これはいっか。月森さん、事前にどんなキャラクターが登場するかとか、調べてますか?」


「ごめん。全然そういうことしてなくて……。何もかも初めて」


 彼女がそう言うのを聞いて、俺は心の中でガッツポーズ。よし。これなら公然と一番平和なルートへ導くことができる。マギアちゃんルート確定だ。


「オッケーです。なら、今日はマギアルートでいきましょう」


「まぎあ……るーと?」


「はい。主人公とは敵対してるヒロインなんですけど、本当は主人公の唯一の幼馴染で、記憶を失ってるって設定のヒロインなんです」


「えぇぇ~……何その泣いちゃいそうな予感のする設定……」


「そうですね。あんまりネタバレはしたくないんですが、泣きは覚悟した方がいいかもしれないです。ファンの間ではマギアこそ主人公の正妻に相応しいとまで言われてまして」


 あと、一番健全なルートとも呼ばれてるが、これは秘密にしとく。


「マギアルートはこのゲームを始めたばかりの人にぴったりなんです。……鬱要素一切無いし」


「ん? 今、最後何か言った?」


「い、いえ、何も。そういうわけなんで、とりあえずマギアルートでプレイしていっていいですかね?」


「うん。お願い。マギアちゃんと早く仲良くなりたいな」


 楽しみにしながら言う月森さんをチラッと見つつ、癒されながら俺はストーリーを開始させるのだった。






●〇●〇●〇●〇●〇●〇●






『マギア! 俺は……! 俺は、絶対にお前に勝って、このコロシアムを制するからな! そして、願いを叶えてやるんだ!』




「ふぅ。これでこのエピソードもクリア。残るはラストの決勝戦エピソードになっちゃった」


「ですね……」


 言いながら、俺はチラッと時計を見る。


 時刻は十六時半か。何だかんだ時間経ってるなぁ。


 昼の十三時辺りから初めて、気付けばこんな時間になってた。


 そりゃまあ、エロゲの一ルートを消化しようとしてるんだから、それなりの時間がかかるのはわかってた。わかってたから、なるべく細かいエッチイベントを回避し(気まずくなるの防止のためも含まれてる)、ラッキースケベの起こるイベントばかりを選んでたんだが、それでもだ。


 あんまりゆっくりしてたら月森さんのご両親帰って来られそうなんだよなぁ……。月森さん本人は気にしなくてもいいって言ってたけど、俺は娘さんと一緒にエロゲをプレイしてる男なわけで……。見つかったら八つ裂きの刑にされそう。お父様辺りから。


「どう……ですか? 次で一応話はラストなんですけど……プレイしてみた感想として」


「感想? うーん……」


 少しばかり考えて、すぐに彼女は答えてくれた。


「やっぱり、さすがはエッチなゲームだな、とは思った」


「あ、あー……」


 まあ、何だかんだルートストーリーを消化してきたわけだが、ガチエッチシーンになるような分岐は回避してたものの、戦闘の際、必要以上に服が破れたり、あり得ないようなラッキースケベが発動したり、そういうシーンは多々見受けられたからな。


「バトルしてる最中に主人公がコケて、女の子のスカートの中に顔突っ込むことなんてあんまりないよね? 名和くん、そういう経験ある?」


「な、無いです。断じて」


「だよね。そういうところは何だかなぁって思ったんだけど……でも、勉強になったことはあったよ?」


「べ、勉強。例えば……?」


「ん……うん。その……言葉系かな? キャラの掛け合いの中で、私の知らない単語がいっぱい出てきたし、そのたびに……名和くんに解説してもらって…………り、理解が深まったし……」


「なな、なるほどねぇ~!」


 頬を朱に染めながら言う月森さんだが、俺も俺で顔から湯気が噴き出るような思いに駆られていた。


 一言にヤバすぎる。


 マ●ターベーションやら、ペ●スやらに始まり、パ●ズリや、フェ●チオ、ク●ニなどの禁止級ワードが次々出てきて、そのたびに一つ一つ俺は月森さんに解説させられたのだ。


 たぶん、世が世ならセクハラ罪で極刑にされてもおかしくないレベルなんだが、止めようとしても月森さんが止めないでって言ってくるから仕方ない。


 耳まで真っ赤にしながら懇願してくる女の子のお願いを聞かないなんて、俺にはできなかった。絶対に変態プレイではあると思うけど。


「ま、まあ、とと、とにかく勉強になったことがあるんならよかった。ひ、一安心です」


「……うん」


「え、えと……な、なら、最後のエピソードもやっていきますか……?」


「そうする。ここまで来たら、二人がどうなるのかちゃんと見届けたいし」


 そうだな。


 これを終えて、ちょうどいい時間だし俺も帰ろう。


 ほんと、凄まじい一日だった。この経験は一生の宝物にします。ありがとう神様。ありがとう月森さん。


「ん……じゃあ、やってくね。えっと……あれ? なんか見慣れない選択肢が……。うーん、これでいっか」


「……?」


 何だ? ちゃんと見てなかったけど、今月森さん何か選択肢選んでた? こんなところで選択肢なんて出てこないはずだけど……。


 不思議に思い、画面を注視する。


 すると、暗転したままの画面にテキストがピロピロと浮かび上がった。




【俺は……懊悩していた。明日はコロシアムの決勝戦なのだが、このまま本当にマギアと戦っていいのかと】




「……ん?」


 見慣れない展開だ。


 え……? 何この独白みたいなシーン。マギアルートの最終エピソードにこんなのあったっけ?




【あいつは俺の幼馴染で、今は記憶を失ってる。決勝に勝ったら、マギアの記憶を完全に戻してもらって、そこで俺は告白しようとしてるんだ。……だけど……】

【戦いたくない。これが本音だ。…………それに、好きな女を傷付けてまで……勝ちたくない。コロシアムの戦場に立ちたくない】

【マギア……マギア……マギア……】

【あぁ……マギア……好きだ】




「??????」


 い、いやいやいや。ちょっと待って? やっぱ変だ。何この見たことないシチュ。主人公さん、決勝前の夜だってのにマギアちゃんのとこへ向かってるんですが?




【抑えきれない思いから、俺はこんな夜だってのにマギアのいる宿舎へ向かった】

【宿舎に着く。そして、彼女の部屋の前に着いて扉をノックすると、中からマギアの声が聞こえてきた。あぁ……マギア……可愛い。しゅきぃ……】




 いや、『しゅきぃ……』じゃねえよ。キャラ崩壊してんじゃねえか。どうなってんだよ。こんな展開絶対見たことないよ? どうなるんだこれ? 大丈夫なんだろうな、これ?




【部屋の中から出てきたマギアは、可愛いパジャマ姿だった。動揺し、すぐさま構えを取る彼女だが、俺は速攻で抱き着いた。もう我慢できない】

【ごめんよ、マギア。俺、本当は君のことが大好きで仕方なかったんだ。明日の戦いで勝って、優勝して、願いは君の記憶を取り戻してもらうことだった。君は俺の幼馴染だったんだよ。覚えてる? 覚えてないよね?】

【だったら、君を傷付けず、今から力づくで思い出させてあげようと思うんだ。俺の体で、君の記憶のすべてを】




 不穏なテキスト。不穏な展開。


 そして、次の瞬間ノートパソコン全体に映し出されたのは――


「ぉぁあああああああああああああああああっ!?!?!?」


 全裸になった主人公と、服を破かれ、ほぼ裸状態になってるマギアちゃん。そして、マギアちゃんの腰に打ち付けられてる、主人公の腰。


 完全なおセッセシーンだった。しかも、安心のフルボイス。部屋中にマギアちゃんの嬌声が響き渡る。




【ひぐっ♡ はぐぅっ♡ や、やめっ、やめりょっ♡ へ、へんたいっ♡ へんたいぃぃぃっ♡】

【こっ、こんなのっ♡ こんなの知らにゃいっ♡ 知らないにゃいのぉぉぉっ♡】

【でもっ♡ でもぉっ♡ 思い出したっ♡ 思い出しまひたっ♡ わらひはっ♡ わらひはっ♡ あなたの幼馴染でっ♡ おち●ぽがだいしゅきなオ●ペットメ●奴隷でしゅぅぅっっ♡♡♡】

【好きっ♡ 私も好ぎぃっ♡ しゅきしゅきだいしゅきなのぉっ♡ イグッ♡ イグッ♡ イッひゃうぅぅぅぅぅっ♡♡♡】




 もう、何も……言えなかったよね。


 びっくりするくらいのイチャラブ濃厚シーン。


 俺も……月森さんも……ただただ顔を真っ赤にさせながら唖然。


 止めたかったけど、止めるために彼女へ声を掛けるのですらためらわれた。


 恥ずかし……すぎたよね。


 もう、固まることしか……できなかったんだよね。


「…………………………………………………………」

「…………………………………………………………」


 エピソードクリア。


 ノートパソコンの画面に表示されてるその文字が、今は心の底からどうでもいい。


 ただ、ひたすらに気まずい空気が流れてた。


 こんなエンド分岐があったのかよ……。知らん……。知らんかった……。ちくしょう……。


「………………あ、あのー……つ、月森……さん?」


 なんとか沈黙を破り、椅子に座ってる彼女へ声を掛けた。


 月森さんはその瞬間に体をビクッとさせ、こっちを向かずに応えてくれる。


「…………な……何……?」


「そ、その…………ご、ごめん。本当に……ごめん……。こんなシーンがあるとは思ってなくて…………か、完全にミス……といいますか…………い、意図的にここに持って行ったとかではないというか…………」


 沈黙。


 月森さんは何も言葉を返してくれず、俺に背を向けたままだ。


 や、やってしまった……本格的に……。


「………………名和くんが謝ること……ないと思う……」


「………………え……?」


「名和くんは……悪くないよ……。も、元々……こういうゲームしようって言いだしたの……私だし…………覚悟もしてた……し……」


「……! ……で、でも……その…………お、俺――」


 言いかけたところで、くるっとこちらを向いてくれる月森さん。


 その顔は赤く、耳まで真っ赤で、瞳は潤んでる。


 こんな時だってのに、俺はそんな彼女を見て、ドキッとしてしまった。


 か、可愛い……。


「だ、だから……ね。私、全然怒ったりとか……してないから。あ、安心……して?」


「あ……え……」


「そ、それに、これもまた……勉強かなって思った。……す……好き合ってる男の人と……女の人は……あ……あそこまで…………するんだって……」


「っっっっっ……!」


「う、うんっ。そ、そういうことですっ。べ、勉強になりましたっ。べ……勉強に……」


 無理やり明るく振る舞おうとして、すぐにまた顔をうつむかせる。


 頭上から湯気が出てるんじゃなかろうか。


 それくらい恥ずかしそうにしてる月森さん。


 けど、それはそうだ。あんなのいきなり見せられて、傍には俺がいるってのに、恥ずかしくないわけがない。


 実際、俺もまだちゃんと月森さんの顔見れないし……。


 これ……ほんとどうしたもんだろう……。


 またしても羞恥心の波に飲まれ、沈黙を作ってしまう俺たち二人。


 だが、その沈黙は思いもよらない展開によって打ち消されてしまう。




「たっだいまー! お姉ちゃんのお帰りだよー!」




「「――!?」」


 突如として、玄関の戸を開ける音と、聞こえてくる元気な声。


 や、ヤバい! 月森さんの家族が帰って来た!?


「う、ううう、嘘……! お、お姉ちゃん……!?」


「え!? お、お姉ちゃん!?」




「んー? 誰もいないのー? そんなわけないっしょ? ゆーちゃーん? いるんでしょー? お姉ちゃん帰って来たよー! 二階にいるのー?」




「お、お姉ちゃん、どうして……!? 大学の飲み会で今日は遅くなるって言ってたのに……! こんな早く……!」


「え、えぇ!?」




「二階にいるんだよねー? 待ってろー? 今お姉ちゃんが行くからねー!」




「なんでぇ……!!!」


 精一杯声を抑えつつ、びっくりなリアクションをとる月森さん。


 普段のクールな感じからは想像できない驚きよう。


「と、とにかく隠れよっ……! 名和くんっ……!」


「え……!? か、隠れるってどこに――って、おわっ!」


 引っ張られ、入った先は月森さんの服がたくさん入れられてるクローゼットの中だった。


 狭い中、ぎゅう、と彼女に抱き締められるような形で扉を閉める。


 そして、それと同時に、月森さんの部屋の扉がバタンと開けられるのだった。

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