第2話 戦闘開始!
浅い角度で朝日が差し込んでくるオフィス。ブラインドと、それを潜り抜けた日光が生み出した影が、壁や床に縞模様を描いている。
時々コピー複合機が自動で動く以外の音は無く、夜の
いや、注意深く耳を澄ませば、微かなタイピングの音に気付くだろう。
オフィスの一角、島に並べられたデスクの一つに、麻績村こぶしの姿があった。
ここは彼女の務める企業――所在する地方都市では有数の、建築設備工事を請け負う『設備屋』――株式会社中信設備の施工管理部が入るフロアである。
彼女は目の前のノートパソコンのモニタと手元の用紙に集中し、なかなかのスピードで文字と数字を打ち込んでいる。
時折手を止めて、柔らかな曲線を描く顎先に人差し指を当てて中空を見つめているのは、どうやら考える時の癖のようだ。
暫くして、彼女の唇は沈黙の枷を外された。
「――よし、昨日の現場日報集計終わり!」
現場代理人、一般的には現場監督と呼ばれる者らが毎日提出してくる各現場の、日報の集計作業を行っていたのであった。
IT化が進んでいる日本の建設業界ではあったが、大手ゼネコンでもない――まして地方の設備会社となれば、現場では未だアナログな手書き報告書が幅を利かせている。
なぜなら現場では叩き上げの60代、70代の職人がまだまだ現役で、手書きのほうがかえって早いのだ。
設備工事とは、電気工事や水道配管工事など建物本体に付随する機器やライフラインを備え付ける工事を指す。
建設業界では長らく建築主体工事、つまり建物本体を建てる工事が花形であったが、高い居住性やオール電化が当たり前になり、さらに空調や電力消費を自動で管理してくれるスマートホームの登場により、それに応えられる先進的な設備工事会社の求職者人気が高まっている。
麻績村こぶしの務める中信設備は、先進的とまでは行かないものの、そんな世の動きにも柔軟に対応していこうとするフットワークの軽い設備会社であった。
とは言っても、旧来通りの業務はあるわけで。
アナログな現場の報告書を日々電子化するという二度手間な仕事は、部内で一番若く駆け出しの彼女に回ってくるのであった。
「来年は、チノちゃんの後輩の男の子が入社する予定なんだよね…。引き継いであげなきゃ。ようやく私も見習い卒業かな!……あー、でも半年以上先の話だよー」
鬼に笑われるような事を言いつつ、こぶしは両手を上げ伸びをする。
どことなく、彼女の
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