第63話魔王討伐後2
黒髪の勇者。
彼の名前は『大河勇樹』。
思った通り日本人だった。
「本当に良かったんですか?この国に残って」
「はい」
「貴族になる事だって王族の猶子になる事だってできたんですよ?」
「はい」
「……この国で貴族の称号は欲しいですか?」
「遠慮しておきます」
「無欲ですね」
「私がですか?」
「ええ」
「大聖女様、それは違います。私はとても強欲です」
「そうでしょうか?」
「はい。こうやって王宮内に住まわせてもらっていますからね」
「当然です」
なにしろ、彼は地位も名誉もいらないと公言している。
それを言葉通りに受け止める事はできないし、彼自身も衣食住の保証はして欲しいと言ってきた。
だから私は彼を王宮に住まわせている。
客人として――――
客といっても彼は自分一人でなんでもできる。
身の回りの世話役は必要ないという本人からの希望だ。
これで欲深いと言われたら他の勇者たちはどうなるというのか……。
「私は一般庶民ですから」
「はぁ……」
「王侯貴族の生活なんてできません。恥を晒すだけですよ」
「そうですか」
「大聖女様はどうですか。庶民に王侯貴族の生活ができると思いますか?本物の王族のように振る舞えると?」
「無理……とは言いませんが相当な努力は必要でしょう」
「ですよね?だから私は王侯貴族にはなりたくないんです。それに伴う義務も責任も果たせそうにありませんから」
「なるほど。理解できました」
「納得していただけましたか?」
「はい」
彼は本気で王侯貴族の生活は無理だと言っている。
そして、それは彼の本音だと感じた。
本人の申告通り、彼は結構な年齢で亡くなっていた。
激動の昭和を生きた世代だ。
王族や貴族の在り方を知っているのだろう。
これが現代の若者ならまた考え方は違っていたかもしれないけど。
まあ、仕方ないわよね。
ある意味では彼の選択は正しいと言えるだろうし。
私も知らなかったけど、他の勇者たちは比較的若い世代だったらしい。
元の世界で死んでいることは間違いないけど、老齢とは言い難い。
『爺は自分だけですよ』
そう言った大河勇樹の言葉に嘘はないでしょう。
これは一度、ゴールド枢機卿と話し合う必要がありそうだわ。
それに彼から聞いた不可解な現象も気になるのよね。
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