第62話魔王討伐後1

 二年後。


 勇者たち一行が魔王を討伐したと枢機卿団から連絡があった。


 勇者たちの活躍と共に魔王討伐の知らせは世界中を駆け巡った。

 勇者様たちは魔王を討伐した功績で爵位を賜るらしい。


 でも、どこの国の爵位を?

 勇者様たちはどこの国の人間でもない。

 だからこそ勇者争奪戦が始まっているのだと理解した。


 一応、彼らの後見人は私だけど、はっきりいって名前を貸している状況に近い。


 枢機卿団が召喚者たちに理不尽な要求をしないように。

 勇者たち一行が不当な扱いをされないように。

 それが後見人である私の役目だった。

 現実は勇者たちだけでどうにかしてしまったけれど。

 なので本当に何もしていない。


 まあ、モンティーヌ聖教国としては彼らの意志を尊重する。

 何処の国に行こうと、何処の国の所属になろうと、それは彼らの自由だから。




 勇者たちはそれぞれ自分の気に入った国を選んでモンティーヌ聖教国を去って行った。


 ある勇者は大国の王女の婿に。

 ある勇者は大国の王子の妃に。

 ある勇者は小国の王族の養子に。

 ある勇者は貴族の妻に。

 ある勇者は貴族に。

 ある勇者は――――


 それぞれ、思い思いの進路を選んだ。


 勇者たちの進路は枢機卿団の望んだものだったのだろう。

 枢機卿団は勇者たちの後見人を買って出た。

 勇者たちも大聖女から枢機卿団に後見人が代わったことに不満はないらしい。

 むしろ、自分達の要求を聞き入れてくれる後見人に満足しているようだった。


 なにもしていない後見人だもの。

 こればかりは仕方ない。


 こっちだってゴールド枢機卿のお願いじゃ無ければ引き受けてないわ。

 枢機卿団が後見人に名乗り出たのは、自分達の影響力の拡大の為でしょうね。


 これから色々と大変かもしれないけど、それは自分達が選んだことだから頑張ってね。

 私は勇者たちを笑顔で見送った。





「それで、貴方は一緒に行かなくて良かったのですか?」


「はい。私はモンティーヌ聖教国を離れるつもりはありませんので」


「そう。では、これからもよろしくお願いしますね」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


 魔王退治に一番の貢献をした黒髪の勇者はモンティーヌ聖教国に残った。

 枢機卿団が後見人を名乗り出たときに、彼はモンティーヌ聖教国に残ると明言していた。


 神殿側としても彼を手放すのは惜しいと思ったのだろう。

 他の勇者たちがそれぞれ大国の王族、貴族の後ろ盾を得た中、彼だけはそれがない。爵位を得るわけでもない。


 だから私は今まで通り、彼の後見人になった。

 それが一番、彼のためになると思ったからだ。


 他国の王族や貴族の中には彼を快く思っていないものもいる。

 モンティーヌ聖教国の後ろ盾がなければ彼の立ち位置はかなり危うくなるだろう。

 彼はそれを理解しているようで、私の申し出を断ることはなかった。

 


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