第64話ゴールド枢機卿視点1
魔王は討伐できたし、勇者たちの身柄も各国で確保した。
魔王討伐の最大の功労者である大河勇樹はモンティーヌ聖教国に残った。
一番功績が大きかった彼を確保したかった国は多い。
冨に名声、権力に地位、女。
彼が望めばなんでも手に入っただろうし、各国は彼を得るためにえげつない争奪戦を繰り広げていた。
しかし彼はそれを全て断った。
『私は庶民ですから』
『王侯貴族の生活はできません』
けんもほろろに断られていた。
自分達が出せる最高のものをアッサリと断られ燃え尽きた外交官たちの姿は笑えた。
勇者たちの中で一番欲がないのが大河勇樹だと言えるかもしれないな。
いや、欲はあるだろう。
だが、それはとても小さなものだ。
なにはともあれ、魔王を討伐できた。
「大河勇樹か……興味深いな」
そんな暢気なことを考えていた時だった。
「猊下、フラン大聖女様から連絡が」
「フランから?」
「はい。なにやら勇者様方の件について話があると」
「勇者の?」
「はい」
「一体、なんの話だろうか?」
フランから連絡があるとは珍しい。
フランは大河勇樹の後見人だ。勇者の件で話があるというなら大河勇樹のことに違いないだろう。
「すぐに行く」
「かしこまりました」
こうして僕たちはモンティーヌ聖教国へと向かった。
「フラン、それで?一体、なんの話かな?」
「はい。勇者様たちについてです」
「彼らがどうかしたの?」
「これは勇樹さんから聞いた話なんですが――――」
フランの話はこうだ。
大河勇樹は元の世界で一度、死んでいる。
それは老衰だったそうだ。
「大往生ですね」とフランが言うと、彼は苦笑いしていた。
「ですが、勇樹さん以外の勇者の方々はどうやら老衰ではなかったらしいのです」
「え?どういうこと?」
「自分達が死んだことは理解しているそうなんです。病気や事故などで」
「なら何も問題ないんじゃない?」
「死んだということ事態は問題ないでしょう。ただ、老衰したのが勇樹さんだけという点が引っ掛かります。後の方々は比較的若い世代らしいので。中には若返る事もなくそのままの状態で召喚された方もいたそうです」
フランの話はこうだった。
大河勇樹たち勇者は元の世界で一度、死んでいる。
ただ大河勇樹以外は老衰で死んでいない。
僕が老衰で死んだ者を召喚してくるなんて前情報与えたからかな?
まあ、千年ぶりの召喚だ。
色々と“前回”と変わっていてもおかしくない。
そのことも踏まえて話をした。
フランと大河勇樹も一応は納得してくれたようだけど。
二人とも微妙な顔だった。
納得できない、って顔に書いてある。
大河勇樹なんて「フラグが立った気がする。もしかしてここからが本番とか?それって……」とかブツブツ言っていた。
なにかあるのだろうか?
フランもしきりに頷いていたし。
フランと大河勇樹の不安は的中する。
ただし、それはもう少し先の未来で。
この時はまだ知る由もなかった。
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