第59話黒髪の勇者視点1
死んだ、と思った瞬間に光が溢れた。
「え?」
思わず声が洩れる。
なんだ?何が起きた?ここはどこだ?私は死んだんじゃ……?
「勇者様方、どうかこの世界を魔王の手からお救いください」
そう言って頭を下げるのは白いローブを着た男たち。
「は?」
勇者?今、そう言ったのか?誰がだ?私がか?
いや待て。
私だけじゃない。
私の傍に子供たちがいる。
彼らが勇者?
「勇者様方、どうか我らを魔王の手からお救いください」
白いローブを着た男たち。
見るからに聖職者たちだろう。
その聖職者達が私達に頭を下げている。
勇者?この子供たちが? いやいや、あり得ないだろう。
というか、ここどこだ?
その後、聖職者たちから詳しく説明を受けた。
聞けば聞くほどファンタジーの世界だと実感した。
しかも私も含めて全員老人が子供の姿に若返っていると言うじゃないか!
原因はわからないが召喚の際に生じる現象らしい。
なんだ、そのファンタジー。
いやいや。元々異世界に召喚されているんだ。立派なファンタジーの世界だ。
そして、魔王の存在。
魔王の復活だと? まるでゲームだな。
「リアルゲーム世界」
「映画の世界だ」
他の召喚された人達は興奮しっぱなしで現実を見てない。
いや、もしかすると現実逃避しているのかも。
まあ、気持ちはわかるが。
「つまり、魔王を倒さないと帰れないのか?」
「いいえ。倒したとしても帰れません」
「……」
「そもそも皆様は向こうの世界では死んだ人達です。帰る場所はもうどこにもありません」
まあ、そうなるだろうな。
私は入院していた。
おそらく病状が悪化して死んだはず。
となれば、帰ったところで骨だろう。
そう考えると、彼らというか、この世界の聖職者たちはよく考えている。
それとも召喚魔法を生みだした人がそういう人だったのだろうか?
もう死んだ人間なら「元の世界にもどろう」とは考えにくい。
生きている人というのはどうしても元の世界に戻りたくなるものだ。
戻ったところで死者であるなら受け入れる人間は確率的に多いだろう。
私がそう考えていた時だった。
召喚された人達が騒ぎ出した。
「ふざけるなよ!」
「どういうことだよ!」
「死んだ人間だって!?元の世界には戻れないってどういうことだよ!」
まあ、こうなるだろう。
私も最初はそう思った。
しかし、聖職者たちは彼らの言葉など聞こえてないかのように淡々と話を進める。
いや、聞こえてはいるんだろうが、取り合わない。
そして、説明は続く。
魔王を倒すのは勇者様の役目であると。
つまり私達がやるということだ。
「いやいやいやいや」
思わず声が出てしまったが私は悪くないと思う。
なに自分達に都合の良い理屈を言っているんだろうか。
そんな話がまかり通るわけないだろう。
それともアレか?
自分達で自分の世界を守るという概念がないんだろうか?
それは随分可哀想な話だ。
聖職者と各国のお偉方と話をした結果、一応、軍は派遣してくれることになった。
始めからそうすればいいのに、と思わなくもない。
私を含めた男達はそれなりに戦争経験者だが、女達は戦いに出たことはないんだ。
それに戦争経験者だといっても数十年も前の話だ。
戦えるわけがない。
「勇者様方は、神様から強力な力を授かっていると伝えられております」
聖職者たちはそう言っているが。
鵜呑みにはできない。
素人に毛が生えた位の私達にどうしろと言うんだ。
それに戦闘経験と言っても銃が主体だ。
剣を振るった戦いはしたことがない。
念のため、私達の保証を契約書に盛り込んでもらった。
「勇者様方が亡くなるなど有りえない話です」
聖職者たちは言う。
どこまで信じればいいのか分からない。
馬鹿みたいに「神の加護」だの「神の奇跡」だの「勇者の証」などと連呼する聖職者たちを見ていると、不安が増すばかりだ。
神を信じるのは良い。
それは人の勝手だ。
ただそれを他人に強要するのはいただけない。
「勇者様方には神の加護があり、神の奇跡があるのです。どうか我らを魔王の脅威からお救いください」
聖職者たちはそう言ったが、はっきり言って迷惑だし、信じられる要素が全く無かった。
本当に勘弁してほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます