第50話ゴールド枢機卿視点1

 聖王国の神殿前に立っていたのは、この国の王女であるイリスだった。彼女は大聖女の姪で、新たに「聖女認定」を受けた見習い聖女。

 そのイリスは「聖女修行」の一環として各地へ赴くことが決まった。要は、瘴気を払う旅だ。そして、この課題こそが一番重要だったりする。


 そのせいかフラン大聖女はイリスの旅支度を念入りに行っていた。

 自分の時の事を思い出しているのかもしれない。

 もっともフランはイリスを聖女にする気は全くなかった。イリスの決意に押されて承諾したに過ぎない。旅の途中で何らかのアクシデントに見舞われ、彼女が挫折する事を期待している節があったし、もしもイリスが危険な目に合ったら大聖女の権限で強引に旅を終了させるつもりらしい。


「過保護だね~」


「猊下、フラン様にとってイリス様は姪です。家族が各地を旅するとなれば当然ですよ」


 フランから「くれぐれも宜しく頼みます」なんてお願いされてしまった手前「え~~っ、ヤダ。面倒臭い」とはさすがに言えないしなぁ……。


「……まぁ、しょうがないよね」


 頼まれた手前、幾人かの部下をイリス達一行に気付かれないように付けてはいるんだけどさぁ。

 やっぱり過保護だ。

 こんな「聖女修行」なんて前代未聞だよ。



 そうこうしているうちに聖女一行は聖都を出発した。


 聖都を出発して約一週間、ようやく目的地の一つ目となる村に到着したと報告があった。

 そこは人口百人ちょっとといった小さな村。しかしのどかな農村で、皆、気さくでいい人ばかりでとても過ごしやすい所だった。

 イリスはここで「聖女修行」をスタートさせたらしい。

 この事自体は問題がなかったんだけど……どうやら村には何かあるのではないかと部下からの報告だ。

 どこにでもある田舎だというのに、何故からしい。それもかなり濃いものが。その濃さときたら、村をまる1週間くらい放置すれば「聖女認定」の見習いでさえ浄化するのが困難だろうというものだった。


 ちょっと待って!?

 そんなの聞いた事もないよ!!

 なんだよ?それ!!

 そんな濃い瘴気の中だと聖気による結界を張って生活しないといけないので大変だろう……と思っていた。けど、意外にも村の人々は元気いっぱいだという報告を受けた。


 瘴気に慣れてる?

 もしくは何か特殊な結界が張られてる?

 どういう事?

 

 報告では村の神殿はかなり古い。

 その昔はもっと大きな建物が建っていたようだけど、今はこざっぱりとしているらしい。そのせいか村の外からは「神殿」という印象は持たれてないのだとか。一応、村長がそこを管理しているがとても人が住めるような状態ではないらしい。そして、そんな神殿の中で村人達は毎日普通に生活をしているらしいとの報告だ。瘴気も村の中では発生しているという事だし……一体この村は何なんだろうなぁ?

 とにかくこの村には何かあるのかもしれないね。


 それから数日後、今度はその村に別の報告が入って来た。


【神殿の地下に大掛かりな地下牢を発見した。どうやらそこに何かを隠しているようだ――】


 何それ?怪しすぎる。

 え?

 イリスは大丈夫なの?



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