第49話イリス王女視点
ロベール王国の王族たちが旧王領に旅立った事を知らされました。
それと、私を攫おうとした者達の処罰についてもです。
彼らは鉱山での終身刑を言い渡されました。
当然の結果ですね。
その中に元婚約者の恋人が混じっている事には少々驚きましたが、それだけの事です。
「あの方は恋の夢から覚められたのかしら?今となっては分かりませんけれど」
初めての恋に夢中で周りが見えなかった。
そして盲目的に愛する人の言葉を鵜呑みになさっていた方。
「本当に愚かでしたわ……」
婚約者のいる王太子殿下に言い寄るだけでなく、甘やかすだけの彼女の行動に心底、呆れました。
頑張る必要がない?
王族であっても自由?
正直に生きるべき?
聖王国に帰ってきて、事の詳細を聞いて思ったのは「愚か」の一言に尽きました。
「責任を果たさない王族って何かしら?」
つい、そのような言葉を漏らしてしまった程です。
そうでしょう?
この婚約は両国間だけの問題ではありませんでした。
王太子殿下とその恋人は一体何がしたかったのでしょう?
私以外を愛しても構いません。
ですが、何事も順序というものがあります。
その努力を何一つしていない段階で私に話してどうして欲しかったのでしょう?
愛していないから婚姻できない。
恋人がいるから婚姻できない。
私に言うよりも先に国王夫妻に話されるべきでしたわ。
そうすれば適切な対応をしてくださった事でしょう。
もっとも、国王夫妻に話されたところで恋人と別れさせられたでしょうが……。
ひっそりとバレないように囲うくらいしかできませんものね。
結婚相手が私でなければ愛妾にできたでしょうに。
元婚約者は王族に向かない性格だったのかもしれません。
ただ、彼の性格では貴族としても大成はできないでしょう。誰かに搾取されるしかありません。
恋という幻想に溺れた代償は大きかった。
王家そのものを崩壊に導くなど私には理解できませんし、するつもりもありません。
「王女殿下、準備が整いました」
「ありがとう」
お世話係の女性に礼を言い、私は叔母様……いいえ、大聖女様のいる神殿へ向かいます。
今回の件を踏まえて、私は正式に聖女になる事に決めました。
家族は私の好きにすればいいと言ってくれてますし、大臣達も二代続けて聖女を輩出されるのは名誉だと賛成しています。
叔母様には反対されていましたが、私の意志が固いとみると最後は折れてくださいました。
聖王国の王族は、大聖女である叔母様の恩恵を受けています。
不老ではありませんが、普通の人と違い、ゆっくりと歳をとっていきます。
不死でない以上は必ず死が訪れる。
それは仕方のない事。
ですが、それを覆う存在がいる事もまた事実でした。
枢機卿、そして大聖女。
至高の存在である彼らは不老であり不死に近い存在。
神殿の頂点として崇められ、他国からもその存在は重要視されています。中には『神の代弁者』と呼ぶ国すらあるとか。
私が聖女となり聖女の力を使う事は、この国の民にとって良い影響しか与えません。
いいえ、少し違いますね。
私は叔母様を一人にしたくないだけです。
いずれ、私の両親は叔母様を残して天に召されるでしょう。
それは国も同じ。
千年と続く国などそうあるものではございません。
ゴールド枢機卿。
彼は幼児の見た目からは想像もできない年月を生きて来られた。千年の間に百を超える国が消滅と建国を繰り返し、その都度、新しい時代を担う若者が生まれました。その度に新たな希望と試練が人に襲いかかるのを見てきた生き証人。叔母様と仲が良い彼は私にとって兄のような弟のような存在。見た目からしてどうしても子供扱いしてしまうのは否めません。枢機卿も見た目年齢を大いに利用されて随分と甘え上手です。あざとくて腹黒だなと思う事もあるのですが、それでいて愛らしい。本物の子供ではありませんので、計算高い面があります。彼の家族構成は知りません。なにしろ、千年前の事。本人も千年前の自分の事は何も話しません。聞けば話してくれるでしょうが、あまりいい話ではなさそうだと雰囲気で察するところはあります。
『家族に恵まれている大聖女や枢機卿は滅多にいないよ。フランはある意味で異質だ』
いつかのお茶会でゴールド枢機卿から言われた言葉を思い出します。
何気なく言った言葉なのでしょう。
心配そうに叔母様を見ていたのを今でも覚えております。
聖女になれても不老にも不死にもなれません。
それでも、普通の人よりかは長く生きられます。
大聖女の庇護も合わせると大分長く生きられると枢機卿がコッソリ教えてくださいました。
私には両親だけではありません。
大切な友人もいますし頼れる人もいます。
だから大丈夫ですわ、叔母様。
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